§E6.26直既約加群と Krull–Schmidt の定理

最終更新

有限長加群には、組成列による分解と直和による分解がある。Jordan–Hölder の定理は単純な商加群の多重集合を一意にするが、加群自体を直和因子へ分けるものではない。本記事では、有限長加群を直既約加群の有限直和へ分解し、直既約因子の同型類と重複度が分解の選択に依存しないことを証明する。

本記事を通じて、RRは単位元をもつ結合環とし、零環も許す。有限長、長さの加法性および Jordan–Hölder の定理には、「Noether 加群・Artin 加群・有限長加群」で証明した§E6.20 定理 4.3、§E6.20 定理 6.1および§E6.20 定理 5.2を用いる。最初に左RR加群を扱い、右加群版は最後に反対環を用いて導く。

1 直既約加群と Fitting の補題

組成列の各因子は単純な商加群である。一方、直和分解では、非零加群であって二つの非零部分加群の直和に表すことができないものを因子として用いる。

定義 1.1. 左RR加群MMが直既約加群 (indecomposable module) であるとは、M≠0M\neq0であり、

M=A⊕BM=A\oplus B

となる部分加群A,B⊆MA,B\subseteq Mに対して、A=0A=0またはB=0B=0が必ず成り立つことをいう。

単純加群は直既約であるが、逆は一般には成り立たない。有限長加群の自己準同型ffについては、核の昇鎖(ker⁡fn)(\ker f^n)と像の降鎖(im⁡fn)(\operatorname{im}f^n)が有限段階で停止する。Fitting の補題は、二つの鎖の停止性から加群を核と像の直和に分解する。

補題 1.2 (有限長加群に対する Fitting の補題).RRを単位元をもつ結合環とし、MMを有限長左RR加群とする。任意のf∈End⁡R(M)f\in\operatorname{End}_R(M)に対して、ある正の整数nnが存在して

M=ker⁡fn⊕im⁡fnM=\ker f^n\oplus\operatorname{im}f^n

となる。

証明.MMは§E6.20 定理 4.3により Noether 加群かつ Artin 加群である。したがって核の昇鎖

0=ker⁡f0⊆ker⁡f⊆ker⁡f2⊆⋯0=\ker f^0\subseteq\ker f\subseteq\ker f^2 \subseteq\cdots

と像の降鎖

M=im⁡f0⊇im⁡f⊇im⁡f2⊇⋯M=\operatorname{im}f^0\supseteq\operatorname{im}f \supseteq\operatorname{im}f^2\supseteq\cdots

はそれぞれ停止する。両方の鎖が停止した後の正の整数nnを取る。このとき

ker⁡fn=ker⁡f2n,im⁡fn=im⁡f2n\ker f^n=\ker f^{2n}, \qquad \operatorname{im}f^n=\operatorname{im}f^{2n}

が成り立つ。

x∈ker⁡fn∩im⁡fnx\in\ker f^n\cap\operatorname{im}f^nとする。あるy∈My\in Mが存在してx=fn(y)x=f^n(y)となる。fn(x)=0f^n(x)=0であるからf2n(y)=0f^{2n}(y)=0であり、核の等式によりy∈ker⁡fny\in\ker f^nとなる。したがってx=fn(y)=0x=f^n(y)=0であり、共通部分は零である。

任意のm∈Mm\in Mを取る。fn(m)∈im⁡fn=im⁡f2nf^n(m)\in\operatorname{im}f^n=\operatorname{im}f^{2n}であるから、あるy∈My\in Mが存在して

fn(m)=f2n(y)f^n(m)=f^{2n}(y)

となる。よって

m=(m−fn(y))+fn(y)m=\bigl(m-f^n(y)\bigr)+f^n(y)

と書くことができる。第一項はker⁡fn\ker f^nに属し、第二項はim⁡fn\operatorname{im}f^nに属する。したがって両部分加群の和はMMであり、共通部分が零であることと合わせて直和分解を得る。▨

系 1.3.RRを単位元をもつ結合環とし、MMを直既約有限長左RR加群とする。任意のf∈End⁡R(M)f\in\operatorname{End}_R(M)は、自己同型であるか冪零であるかのいずれかである。

証明.補題 1.2により、正の整数nnが存在して

M=ker⁡fn⊕im⁡fnM=\ker f^n\oplus\operatorname{im}f^n

となる。MMは直既約であるから、ker⁡fn=0\ker f^n=0またはim⁡fn=0\operatorname{im}f^n=0である。

ker⁡fn=0\ker f^n=0ならばfnf^nは単射である。短完全列

0⟶M→ fn M⟶M/im⁡fn⟶00\longrightarrow M\xrightarrow{\ f^n\ }M \longrightarrow M/\operatorname{im}f^n\longrightarrow0

と§E6.20 定理 6.1から

ℓR(M)=ℓR(M)+ℓR(M/im⁡fn)\ell_R(M)=\ell_R(M)+\ell_R(M/\operatorname{im}f^n)

となるため、商の長さは00である。よってfnf^nは全射でもあり、したがってff自身も単射かつ全射である。ffの加法群としての逆写像はRR線形であるから、ffは自己同型である。

im⁡fn=0\operatorname{im}f^n=0ならばfn=0f^n=0であり、ffは冪零である。▨

Krull–Schmidt の一意性の証明では、直既約加群の自己準同型環が局所環であることを用いる。直既約加群の自己準同型環は非可換でありうるため、局所環を非単元全体が両側イデアルをなす環として定義する。

定義 1.4. 単位元をもつ非零結合環EEが局所環 (local ring) であるとは、EEの非単元全体がEEの両側イデアルをなすことをいう。本記事では可換性を仮定しない。

命題 1.5.RRを単位元をもつ結合環とし、MMを直既約有限長左RR加群とする。このとき

E:=End⁡R(M)E:=\operatorname{End}_R(M)

は非可換の意味で局所環である。

証明.M≠0M\neq0であるからEEは非零環である。系 1.3により、EEの各元は単元または冪零元である。したがって、非単元はすべて冪零である。

a∈Ea\in Eを非単元とし、h∈Eh\in Eを任意に取る。hahaが単元であると仮定すると、aaは単射になる。有限長加群の単射自己準同型は、§E6.20 定理 6.1の長さの加法性により全射でもあるため、aaは単元となって矛盾する。同様に、ahahが単元であると仮定するとaaは全射になり、有限長性によって単射でもあるため矛盾する。よってhahaとahahはいずれも非単元であり、非単元全体は左右からの乗法で閉じている。

非単元a,b∈Ea,b\in Eの和が単元u:=a+bu:=a+bであると仮定する。c:=u−1ac:=u^{-1}aとd:=u−1bd:=u^{-1}bは非単元であり、c+d=1c+d=1である。cq=0c^q=0となる正の整数qqが存在するから、

(1−c)(1+c+⋯+cq−1)=(1+c+⋯+cq−1)(1−c)=1(1-c)(1+c+\cdots+c^{q-1}) =(1+c+\cdots+c^{q-1})(1-c)=1

となる。したがってd=1−cd=1-cは単元であり、b=udb=udも単元となって矛盾する。よって非単元全体は加法で閉じている。加法逆元についても、−a-aが単元ならばaaが単元になるため閉じている。非単元全体は00を含み11を含まない両側イデアルである。したがってEEは局所環である。▨

補題 1.6. 単位元をもつ非零結合局所環EEにおいて

a1+⋯+as=1a_1+\cdots+a_s=1

が成り立つならば、a1,…,asa_1,\ldots,a_sの少なくとも一つは単元である。

証明. すべてのaja_jが非単元であると仮定する。非単元全体は加法で閉じた両側イデアルであるから、その和11も非単元となる。11が非単元となる結論は、11が単元であることに反する。▨

2 Krull–Schmidt の定理

直和分解を比較するとき、ある因子から別の分解の一因子への射影が同型ならば、その一因子を実際の直和因子として交換することができる。

補題 2.1. 左RR加群MMがM=A⊕BM=A\oplus Bと分解され、pA ⁣:M→Ap_A\colon M\to Aを対応する射影とする。部分加群C⊆MC\subseteq Mに対して制限

pA∣C ⁣:C⟶Ap_A|_C\colon C\longrightarrow A

が同型ならば、

M=C⊕BM=C\oplus B

となる。

証明.m∈Mm\in Mを任意に取る。m=a+bm=a+bとa∈Aa\in A、b∈Bb\in Bを用いて一意に書く。pA∣Cp_A|_Cは全射であるから、pA(c)=ap_A(c)=aとなるc∈Cc\in Cが存在する。このときpA(m−c)=0p_A(m-c)=0であり、ker⁡pA=B\ker p_A=Bであるからm−c∈Bm-c\in Bとなる。よってM=C+BM=C+Bである。

c∈C∩Bc\in C\cap BならばpA(c)=0p_A(c)=0である。pA∣Cp_A|_Cは単射であるためc=0c=0となる。したがって和は直和である。▨

Krull–Schmidt の存在証明は、長さに関する帰納法によって非直既約な加群を長さの小さい二因子へ分ける。ここまでに証明した局所自己準同型環の性質は、一意性証明において二つの分解の間の合成写像の一つを単元にする。交換補題によって同型な一因子を実際に交換し、残りの直和因子へ長さに関する帰納法を適用することが、一意性を閉じる本質的一手である。

定理 2.2 (有限長加群の Krull–Schmidt の定理).RRを単位元をもつ結合環とし、MMを有限長左RR加群とする。このとき、次が成り立つ。

  1. MMは有限個の非零直既約左RR加群の直和に分解される。M=0M=0の場合には、因子数00の空直和を用いる。
  2. 二つの直既約分解 M=M1⊕⋯⊕Mm=N1⊕⋯⊕NnM=M_1\oplus\cdots\oplus M_m =N_1\oplus\cdots\oplus N_n が与えられたならば、m=nm=nであり、ある置換σ\sigmaが存在して Mi≅Nσ(i)(1≤i≤m)M_i\cong N_{\sigma(i)} \qquad(1\leq i\leq m) となる。

証明.(1)を示す。d:=ℓR(M)d:=\ell_R(M)に関する帰納法を用いる。d=0d=0ならばM=0M=0であり、空直和が条件を満たす。d>0d>0とする。MMが直既約ならば、MM自身を一因子とする分解を用いる。MMが直既約でないならば、非零部分加群A,BA,Bが存在して

M=A⊕BM=A\oplus B

となる。§E6.20 定理 6.1により

d=ℓR(A)+ℓR(B)d=\ell_R(A)+\ell_R(B)

であり、AAとBBは非零であるから両方の長さはddより小さい。帰納法の仮定をAAとBBに適用し、得られた有限個の直既約因子を合わせればMMの直既約分解を得る。

(2)を示す。再びd:=ℓR(M)d:=\ell_R(M)に関する帰納法を用いる。d=0d=0ならば二つの分解はいずれも空直和である。d>0d>0とし、二つの直既約分解を取る。各MiM_iの包含写像をαi ⁣:Mi→M\alpha_i\colon M_i\to M、射影をπi ⁣:M→Mi\pi_i\colon M\to M_iとし、各NjN_jの包含写像をβj ⁣:Nj→M\beta_j\colon N_j\to M、射影をρj ⁣:M→Nj\rho_j\colon M\to N_jとする。有限直和の恒等写像は

1M=∑j=1nβjρj1_M=\sum_{j=1}^{n}\beta_j\rho_j

と書くことができる。したがって

1M1=π11Mα1=∑j=1nπ1βjρjα11_{M_1} =\pi_1 1_M\alpha_1 =\sum_{j=1}^{n} \pi_1\beta_j\rho_j\alpha_1

がEnd⁡R(M1)\operatorname{End}_R(M_1)で成り立つ。

M1M_1は直既約有限長加群であるから、命題 1.5によりEnd⁡R(M1)\operatorname{End}_R(M_1)は局所環である。補題 1.6により、あるjjが存在して

s:=π1βjρjα1s:=\pi_1\beta_j\rho_j\alpha_1

が単元になる。写像

u:=π1βj ⁣:Nj⟶M1,v:=ρjα1 ⁣:M1⟶Nju:=\pi_1\beta_j\colon N_j\longrightarrow M_1, \qquad v:=\rho_j\alpha_1\colon M_1\longrightarrow N_j

を取るとuv=suv=sである。r:=s−1u ⁣:Nj→M1r:=s^{-1}u\colon N_j\to M_1と置けばrv=1M1rv=1_{M_1}となる。したがって

Nj=v(M1)⊕ker⁡rN_j=v(M_1)\oplus\ker r

である。実際、任意のy∈Njy\in N_jは

y=v(r(y))+(y−v(r(y)))y=v(r(y))+\bigl(y-v(r(y))\bigr)

と書くことができ、第二項はker⁡r\ker rに属する。二つの項の共通部分が零であることはrv=1M1rv=1_{M_1}から従う。

M1≠0M_1\neq0かつvvは単射であるからv(M1)≠0v(M_1)\neq0である。NjN_jは直既約であるためker⁡r=0\ker r=0となり、vvは同型である。u=sv−1u=s v^{-1}も同型である。特にM1≅NjM_1\cong N_jである。

B:=M2⊕⋯⊕MmB:=M_2\oplus\cdots\oplus M_mと置く。M=M1⊕BM=M_1\oplus Bに対応する射影π1\pi_1のNjN_jへの制限はuuであり、同型である。補題 2.1によって

M=Nj⊕BM=N_j\oplus B

となる。一方、第二の分解から

M=Nj⊕D,D:=⨁k≠jNkM=N_j\oplus D, \qquad D:=\bigoplus_{k\neq j}N_k

でもある。商写像M→M/NjM\to M/N_jの制限はBBとDDのそれぞれからM/NjM/N_jへの同型であるため、B≅DB\cong Dとなる。

Nj≠0N_j\neq0であるから、長さの加法性によりℓR(B)<d\ell_R(B)<dである。DDの直既約分解を同型D≅BD\cong BによってBBへ移し、帰納法の仮定を

B=M2⊕⋯⊕MmB=M_2\oplus\cdots\oplus M_m

と、移されたNkN_k(k≠jk\neq j)の分解へ適用する。帰納法によりm−1=n−1m-1=n-1であり、残りの因子が置換を除いて同型になる。M1≅NjM_1\cong N_jを加えるとm=nm=nであり、すべての因子が置換を除いて同型になる。▨

系 2.3 (有限次体拡大に対する Noether–Deuring 型の同型判定).kkを体、AAを有限次元単位的結合kk代数、L/kL/kを有限次体拡大とする。M,NM,Nを有限次元左AA加群とし、

AL:=L⊗kA,ML:=L⊗kM,NL:=L⊗kNA_L:=L\otimes_kA, \qquad M_L:=L\otimes_kM, \qquad N_L:=L\otimes_kN

と置く。MLM_LとNLN_Lには

(λ⊗a)(μ⊗m):=λμ⊗am(\lambda\otimes a)(\mu\otimes m) :=\lambda\mu\otimes am

によって左ALA_L加群の構造を入れる。このとき、ML≅NLM_L\cong N_Lが左ALA_L加群の同型として成り立つならば、M≅NM\cong Nが左AA加群の同型として成り立つ。

証明.d:=[L:k]d:=[L:k]と置き、LLのkk基底λ1,…,λd\lambda_1,\ldots,\lambda_dを取る。環準同型

A⟶AL,a⟼1⊗aA\longrightarrow A_L, \qquad a\longmapsto1\otimes a

に沿ってスカラーを制限する。写像

M⊕d⟶ML,(m1,…,md)⟼∑i=1dλi⊗miM^{\oplus d}\longrightarrow M_L, \qquad (m_1,\ldots,m_d)\longmapsto \sum_{i=1}^d\lambda_i\otimes m_i

は左AA加群の同型である。同じ構成によってN⊕d≅NLN^{\oplus d}\cong N_Lも成り立つ。仮定した左ALA_L加群の同型は、スカラーを制限すれば左AA加群の同型であるから、

M⊕d≅N⊕dM^{\oplus d}\cong N^{\oplus d}

を得る。

MMとNNの真の部分加群列は真のkk部分空間列でもあるため、その長さはそれぞれdim⁡kM\dim_kMとdim⁡kN\dim_kN以下である。したがってMMとNNは有限長左AA加群である。定理 2.2によって両者を直既約加群の有限直和に分解する。各直既約加群の同型類がMMとNNに現れる重複度をそれぞれaaとbbとすれば、その同型類がM⊕dM^{\oplus d}とN⊕dN^{\oplus d}に現れる重複度はそれぞれdadaとdbdbである。Krull–Schmidt の一意性とd>0d>0からda=dbda=db、したがってa=ba=bとなる。すべての直既約因子の同型類について重複度が一致するため、再び Krull–Schmidt の一意性によりM≅NM\cong Nである。▨

注意 2.4 (同型の存在と同型写像の降下).系 2.3の結論は、ある左AA加群の同型M≅NM\cong Nが存在するという主張である。仮定で与えた左ALA_L加群の同型が、ある左AA加群の同型f ⁣:M→Nf\colon M\to Nに対する1L⊗f1_L\otimes fと一致するとは限らない。仮定で指定した同型写像の降下を主張するには、与えた同型写像が降下データと両立することを別に仮定しなければならない。本記事の同型判定は忠実平坦降下を用いず、スカラー制限と Krull–Schmidt の一意性によって同型類の存在を導く。

注意 2.5 (Jordan–Hölder と Krull–Schmidt の比較). Jordan–Hölder の定理は組成列の単純商の同型類と重複度を分類するが、単純商をつなぐ拡張の仕方、加群の同型類、および直和因子を分類しない。有限長半単純加群では拡張がすべて分裂するため単純直和因子の多重度まで決まるが、有限長半単純加群の分解定理を一般の有限長加群に適用することができない。

Krull–Schmidt の定理は、半単純とは限らない固定された有限長加群について、直既約直和因子の同型類と重複度を分類する。一方で、組成列そのものや単純組成因子の並びを分類する定理ではない。同じ組成因子の多重集合をもつ二つの加群が、異なる直既約分解をもち非同型であることは次の例が示す。

例 2.6 (組成因子と直既約因子の違い).Z\mathbb Z加群

M:=Z/4ZM:=\mathbb Z/4\mathbb Z

を考える。MMの部分加群は

0,2Z/4Z,M0,\qquad 2\mathbb Z/4\mathbb Z,\qquad M

だけであるため、MMは非零部分加群二つの直和には分解されず、直既約である。したがって Krull–Schmidt 分解はMM自身を一因子とする。

一方、組成列

0⊊2Z/4Z⊊Z/4Z0\subsetneq2\mathbb Z/4\mathbb Z \subsetneq\mathbb Z/4\mathbb Z

の二つの組成因子は、いずれもZ/2Z\mathbb Z/2\mathbb Zと同型である。加群

N:=Z/2Z⊕Z/2ZN:=\mathbb Z/2\mathbb Z\oplus\mathbb Z/2\mathbb Z

も同じ二つの組成因子をもつが、Krull–Schmidt 分解は二つの単純加群の直和である。したがって Jordan–Hölder の組成因子の多重集合だけでは、加群の直既約直和分解も加群の同型類も決まらない。

注意 2.7 (スカラー拡大に関する三つの区別).系 2.3では、AAの可換性を仮定しない。通常の単位的結合kk代数は、基礎体kkからAAの中心Z(A)Z(A)への単位元を保つ環準同型を備える。この中心性により、L⊗kAL\otimes_kAの積とL⊗kML\otimes_kMへの作用がテンソル積の平衡関係と両立する。基礎体を非可換環に置き換えた一般のテンソル積には、同じ構成を無条件に適用することができない。

有限次体拡大に対する同型判定は、同型類の存在をスカラー拡大が反映することだけを述べる。指定した拡大後の同型写像の降下や、単純性または直既約性の保存は主張しない。実際、後続記事の§E6.33 例 6.4が示す

C⊗RC≅C×C\mathbb C\otimes_{\mathbb R}\mathbb C \cong\mathbb C\times\mathbb C

では、左正則加群C\mathbb CはC\mathbb C上で単純かつ直既約である一方、スカラー拡大後の左正則加群は二つの非零直和因子をもつ。代数が可換であっても、単純性と直既約性の保存は従わない。

3 右加群と反対環

左加群について証明した直和分解の結果は、反対環を用いて右加群へ移すことができる。

命題 3.1. 右RR加群MRM_Rと、作用ropm:=mrr^{\mathrm{op}}m:=mrをもつ左RopR^{\mathrm{op}}加群を対応させる。この対応は有限直和、直和因子、直既約性、自己準同型環、有限長および同型を保つ。したがって、有限長右RR加群は有限個の非零直既約右RR加群の直和に分解され、その因子の個数と同型類は順序を除いて一意である。

証明. 右RR部分加群と左RopR^{\mathrm{op}}部分加群は同じ加法部分群であり、有限直和の成分ごとの作用も一致する。右RR線形写像は左RopR^{\mathrm{op}}線形写像と同じ写像であり、合成も同じである。したがって自己準同型環、核、像、直和因子および直既約性は変化しない。有限長が保たれることは§E6.20 命題 7.1で証明した。左RopR^{\mathrm{op}}加群に対する定理 2.2を適用すれば、右加群についての結論が従う。▨

4 演習

問題 4.1 (直既約分解とスカラー拡大の確認). 次の各問に答えよ。

  1. 有限長加群の自己準同型について Fitting の補題を証明し、直既約有限長加群の各自己準同型が自己同型または冪零になることを導け。
  2. 直既約有限長加群の自己準同型環について、非単元全体が加法および左右からの乗法で閉じることを証明し、非可換の意味で局所環であることを示せ。
  3. 二つの直既約分解の包含写像と射影を用いて、一つの直既約因子を交換する Krull–Schmidt の一意性証明を再構成せよ。零加群と有限長右加群の場合も説明せよ。
  4. Z/4Z\mathbb Z/4\mathbb ZとZ/2Z⊕Z/2Z\mathbb Z/2\mathbb Z\oplus\mathbb Z/2\mathbb Zの組成因子と直既約因子を比較し、Jordan–Hölder の定理と Krull–Schmidt の定理がそれぞれ一意にするデータを区別せよ。
  5. 有限次体拡大L/kL/kと有限次元単位的結合kk代数AAについて、スカラー拡大後の有限次元加群の同型から拡大前の同型を導け。同型類の反映、指定した同型写像の降下、および直既約性の保存を区別せよ。
解答 (演習の解答).
  1. 核の昇鎖と像の降鎖がともに停止した後のnnを取ると、M=ker⁡fn⊕im⁡fnM=\ker f^n\oplus\operatorname{im}f^nとなる。直既約性により一方の直和因子が零になる。核が零なら有限長性からffは自己同型であり、像が零ならffは冪零である。
  2. 非単元は冪零である。非単元aaと任意のhhについて、hahaまたはahahが単元なら、aaは片側可逆性から単射または全射となり、有限長性から自己同型となるため矛盾する。非単元a,ba,bの和が単元なら、単元倍によってc+d=1c+d=1かつccが冪零となる形へ直すことができる。有限幾何級数によって1−c=d1-c=dが単元となるため矛盾する。
  3. 1M11_{M_1}を二つ目の分解の包含写像と射影の合成の有限和として表す。自己準同型環の局所性により一項が単元となる。単元となった合成からM1≅NjM_1\cong N_jを導き、交換補題によってNjN_jを最初の分解の第一因子と交換する。残りの直和因子へ長さに関する帰納法を適用する。零加群では空直和を用い、右加群版は反対環へ移す。
  4. 両加群の組成因子はZ/2Z\mathbb Z/2\mathbb Z二つで一致する。Z/4Z\mathbb Z/4\mathbb Zは直既約であり、Z/2Z⊕Z/2Z\mathbb Z/2\mathbb Z\oplus\mathbb Z/2\mathbb Zは二つの単純加群の直和である。したがって、組成因子の多重集合は直既約因子の多重集合も加群の同型類も決定しない。
  5. d=[L:k]d=[L:k]と置く。スカラー制限後にM⊕d≅N⊕dM^{\oplus d}\cong N^{\oplus d}を得て、Krull–Schmidt の重複度比較からM≅NM\cong Nを導く。結論は何らかのAA加群同型の存在であり、指定した拡大後の同型の降下や直既約性の保存ではない。

▨

5 仮定と後続範囲の境界

Krull–Schmidt の定理は、一般の単位的結合環上の有限長加群について証明した。Noether 条件だけ、または Artin 条件だけを仮定する加群、一般の Krull–Schmidt 圏、Azumaya による無限直和への一般化、および半完全環上の有限生成射影加群は扱わない。

有限次体拡大に対する Noether–Deuring 型の同型判定では、AAを有限次元単位的結合kk代数、M,NM,Nを有限次元左AA加群、L/kL/kを有限次体拡大と仮定した。代数AAは非可換でもよいが、基礎体kkはAAの中心に作用する。無限次元加群、無限次元kk代数、非可換な基礎環に沿う一般のスカラー変更、および指定した同型写像の降下は扱わない。

半単純加群と半単純環は、後続の「半単純加群・半単純環」で扱う。有限次元代数、中心単純代数および代数のスカラー拡大の一般的な構成は、「有限次元結合代数と中心単純代数」で扱う。

参考文献

  1. Frank W. Anderson and Kent R. Fuller, Rings and Categories of Modules, 2nd ed., Graduate Texts in Mathematics, Springer, 1992.Fitting の補題、直既約加群の自己準同型環および有限長加群の Krull–Schmidt の定理を参考にした。
  2. T. Y. Lam, A First Course in Noncommutative Rings, 2nd ed., Graduate Texts in Mathematics, Springer, New York, 2001.非可換局所環、直和因子の交換および右加群への反対環による移行を参考にした。

前提記事