§E6.36加群の複体とホモロジー

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一つの加群準同型の核と像は、その写像が零へ送る部分と到達する部分を記述する。加群と準同型を次数ごとに並べるとき、隣り合う写像の合成が零であれば、前の写像の像を次の写像の核の部分加群として比較することができる。このような列が鎖複体であり、核を像で割って得られるホモロジー加群は両者の差を記録する。

たとえば、正整数mmに対し、次数11と00にそれぞれZ\Zを置き、次数11から次数00への微分をmm倍写像とし、ほかの次数の加群と微分をすべて零とする鎖複体の次数00のホモロジー加群はZ/mZ\Z/m\Zである。複体とその射からホモロジー加群と誘導準同型を得る対応は、恒等写像と射の合成を保つため、ホモロジー代数の最も基本的な構成の一つである。

本記事では、鎖複体とホモロジー加群を定義し、鎖写像が誘導する準同型と余鎖複体との対応を解説する。

1 鎖複体とホモロジー

定義 1.1.RRを単位元をもつ結合環とする。左RR-加群の族(Cn)n∈Z(C_n)_{n\in\Z}と左RR-線形写像の族

dnC ⁣:Cn⟶Cn−1(n∈Z)d_n^C\colon C_n\longrightarrow C_{n-1}\qquad(n\in\Z)

の組が、すべてのn∈Zn\in\Zに対して

dnC∘dn+1C=0d_n^C\circ d_{n+1}^C=0

を満たすとき、組C=(Cn,dnC)n∈ZC=(C_n,d_n^C)_{n\in\Z}を左RR-加群の鎖複体 (chain complex) という。写像dnCd_n^Cを微分 (differential) といい、CnC_nの元の次数をnnとする。微分は次数を11下げる。

⋯⟶Cn+1→dn+1CCn→dnCCn−1⟶⋯\cdots\longrightarrow C_{n+1}\xrightarrow{d_{n+1}^C} C_n\xrightarrow{d_n^C}C_{n-1}\longrightarrow\cdots

定義 1.2. 左RR-加群の鎖複体CCと整数nnに対して

Zn(C):=ker⁡dnC,Bn(C):=im⁡dn+1CZ_n(C):=\ker d_n^C,\qquad B_n(C):=\im d_{n+1}^C

とおく。Zn(C)Z_n(C)の元を次数nnのサイクル (cycle)、Bn(C)B_n(C)の元を次数nnの境界 (boundary) という。

補題 1.3. 左RR-加群の鎖複体CCの各整数次数nnにおいて、Zn(C)Z_n(C)とBn(C)B_n(C)はCnC_nの左部分加群であり、

Bn(C)⊆Zn(C)B_n(C)\subseteq Z_n(C)

が成り立つ。

証明.§E6.2 命題 4.2により、Zn(C)Z_n(C)とBn(C)B_n(C)はCnC_nの左部分加群である。任意のx∈Cn+1x\in C_{n+1}に対して

dnC(dn+1C(x))=0d_n^C\bigl(d_{n+1}^C(x)\bigr)=0

であるから、dn+1C(x)∈Zn(C)d_{n+1}^C(x)\in Z_n(C)である。したがってBn(C)⊆Zn(C)B_n(C)\subseteq Z_n(C)である。▨

定義 1.4. 左RR-加群の鎖複体CCと整数nnに対して、商左RR-加群

Hn(C):=Zn(C)/Bn(C)H_n(C):=Z_n(C)/B_n(C)

をCCの第nnホモロジー加群 (homology module) という。サイクルz∈Zn(C)z\in Z_n(C)の剰余類[z]:=z+Bn(C)[z]:=z+B_n(C)をzzのホモロジー類 (homology class) という。商写像をqnC ⁣:Zn(C)→Hn(C)q_n^C\colon Z_n(C)\to H_n(C)と書く。

補題 1.3の包含により、この商加群は定まる。サイクルz,z′z,z'に対して[z]=[z′][z]=[z']であることは、z−z′=dn+1C(x)z-z'=d_{n+1}^C(x)を満たすx∈Cn+1x\in C_{n+1}が存在することと同値である。特に[z]=0[z]=0であることとzzが境界であることは同値である。

例 1.5. 左Z\Z-加群の鎖複体CCを

C2=Z,C1=Z2,C0=Z,C_2=\Z,\qquad C_1=\Z^2,\qquad C_0=\Z,d2C(t)=(2t,0),d1C(x,y)=3yd_2^C(t)=(2t,0),\qquad d_1^C(x,y)=3y

で定め、指定していない次数の加群と微分はすべて零とする。写像d2C,d1Cd_2^C,d_1^CはZ\Z-線形であり、d1C(d2C(t))=0d_1^C(d_2^C(t))=0であるため、CCは鎖複体である。

d2Cd_2^Cは単射であるからZ2(C)=0Z_2(C)=0である。次数11では

Z1(C)=Z×{0},B1(C)=2Z×{0}Z_1(C)=\Z\times\{0\},\qquad B_1(C)=2\Z\times\{0\}

であり、[(x,0)]↦x+2Z[(x,0)]\mapsto x+2\ZはH1(C)H_1(C)からZ/2Z\Z/2\Zへの同型を与える。この写像は商の普遍性によって定まり、逆写像はx+2Z↦[(x,0)]x+2\Z\mapsto[(x,0)]である。次数00ではd0C=0d_0^C=0であるからZ0(C)=ZZ_0(C)=\Zであり、B0(C)=3ZB_0(C)=3\Zである。したがって

H1(C)≅Z/2Z,H0(C)=Z/3Z,Hn(C)=0(n≠0,1)H_1(C)\cong\Z/2\Z,\qquad H_0(C)=\Z/3\Z, \qquad H_n(C)=0\quad(n\ne0,1)

を得る。サイクル(1,0)(1,0)は境界ではないが、2(1,0)=d2C(1)2(1,0)=d_2^C(1)は境界である。

例 1.6.RRを単位元をもつ結合環、a∈Ra\in Rとする。C1=C0=RC_1=C_0=R、d1C(r)=rad_1^C(r)=raとおき、指定していない次数の加群と微分を零とする。右乗法r↦rar\mapsto raは加法を保ち、r,s∈Rr,s\in Rに対して

d1C(sr)=(sr)a=s(ra)=s d1C(r)d_1^C(sr)=(sr)a=s(ra)=s\,d_1^C(r)

を満たすため左RR-線形である。よってCCは左RR-加群の鎖複体であり、

H1(C)={r∈R∣ra=0},H0(C)=R/Ra,Hn(C)=0(n≠0,1)H_1(C)=\{r\in R\mid ra=0\},\qquad H_0(C)=R/Ra, \qquad H_n(C)=0\quad(n\ne0,1)

である。RaRaは左イデアルであり、R/RaR/Raは商左加群として定まる。

2 複体の射と誘導準同型

定義 2.1.C,DC,Dを同じ環RR上の左加群の鎖複体とする。左RR-線形写像の族f=(fn ⁣:Cn→Dn)n∈Zf=(f_n\colon C_n\to D_n)_{n\in\Z}が、すべてのn∈Zn\in\Zに対して

dnD∘fn=fn−1∘dnCd_n^D\circ f_n=f_{n-1}\circ d_n^C

を満たすとき、f ⁣:C→Df\colon C\to Dを鎖写像 (chain map) または鎖複体の射という。恒等写像の族(id⁡Cn)n∈Z(\id_{C_n})_{n\in\Z}をid⁡C\id_Cと書く。鎖写像f ⁣:C→Df\colon C\to Dとg ⁣:D→Eg\colon D\to Eの合成を(g∘f)n:=gn∘fn(g\circ f)_n:=g_n\circ f_nで定める。

補題 2.2. 同じ環RR上の左加群の鎖複体について、恒等写像の族id⁡C\id_Cと鎖写像の合成は鎖写像である。合成は結合律と恒等則を満たす。

証明. 各n∈Zn\in\Zに対してdnC∘id⁡Cn=id⁡Cn−1∘dnCd_n^C\circ\id_{C_n}=\id_{C_{n-1}}\circ d_n^Cである。鎖写像f ⁣:C→Df\colon C\to Dとg ⁣:D→Eg\colon D\to Eに対しては

dnE∘gn∘fn=gn−1∘dnD∘fn=gn−1∘fn−1∘dnCd_n^E\circ g_n\circ f_n =g_{n-1}\circ d_n^D\circ f_n =g_{n-1}\circ f_{n-1}\circ d_n^C

であるため、g∘fg\circ fも鎖写像である。結合律と恒等則は各次数の写像の合成について成り立つ。▨

補題 2.3. 左RR-加群の鎖写像f ⁣:C→Df\colon C\to Dと任意の整数nnに対して

fn(Zn(C))⊆Zn(D),fn(Bn(C))⊆Bn(D)f_n(Z_n(C))\subseteq Z_n(D),\qquad f_n(B_n(C))\subseteq B_n(D)

が成り立つ。特に制限写像Zn(f) ⁣:Zn(C)→Zn(D)Z_n(f)\colon Z_n(C)\to Z_n(D)、z↦fn(z)z\mapsto f_n(z)は左RR-線形である。

証明.z∈Zn(C)z\in Z_n(C)に対して

dnD(fn(z))=fn−1(dnC(z))=0d_n^D(f_n(z))=f_{n-1}(d_n^C(z))=0

であるから、fn(z)∈Zn(D)f_n(z)\in Z_n(D)である。また、x∈Cn+1x\in C_{n+1}に対して

fn(dn+1C(x))=dn+1D(fn+1(x))∈Bn(D)f_n(d_{n+1}^C(x))=d_{n+1}^D(f_{n+1}(x))\in B_n(D)

である。制限写像Zn(f)Z_n(f)の左RR-線形性はfnf_nの左RR-線形性から従う。▨

命題 2.4. 左RR-加群の鎖写像f ⁣:C→Df\colon C\to Dと任意の整数nnに対して、左RR-線形写像

Hn(f) ⁣:Hn(C)⟶Hn(D)H_n(f)\colon H_n(C)\longrightarrow H_n(D)

であって

Hn(f)∘qnC=qnD∘Zn(f)H_n(f)\circ q_n^C=q_n^D\circ Z_n(f)

を満たすものが一意に存在する。この写像は

Hn(f)([z])=[fn(z)](z∈Zn(C))H_n(f)([z])=[f_n(z)]\qquad(z\in Z_n(C))

で与えられる。さらに、左RR-加群の鎖写像g ⁣:D→Eg\colon D\to Eに対して

Hn(id⁡C)=id⁡Hn(C),Hn(g∘f)=Hn(g)∘Hn(f)H_n(\id_C)=\id_{H_n(C)},\qquad H_n(g\circ f)=H_n(g)\circ H_n(f)

が成り立つ。

証明. 合成qnD∘Zn(f) ⁣:Zn(C)→Hn(D)q_n^D\circ Z_n(f)\colon Z_n(C)\to H_n(D)は左RR-線形である。補題 2.3によりZn(f)Z_n(f)はBn(C)B_n(C)をBn(D)B_n(D)に送るため、qnD∘Zn(f)q_n^D\circ Z_n(f)はBn(C)B_n(C)を零に送る。§E6.2 命題 4.3を適用すると、要求された等式を満たす左RR-線形写像Hn(f)H_n(f)が一意に存在する。qnC(z)=[z]q_n^C(z)=[z]であるから、この等式をz∈Zn(C)z\in Z_n(C)に適用するとHn(f)([z])=[fn(z)]H_n(f)([z])=[f_n(z)]を得る。

Zn(id⁡C)=id⁡Zn(C)Z_n(\id_C)=\id_{Z_n(C)}であり、id⁡Hn(C)∘qnC=qnC\id_{H_n(C)}\circ q_n^C=q_n^Cである。したがって誘導写像の一意性によりHn(id⁡C)=id⁡Hn(C)H_n(\id_C)=\id_{H_n(C)}である。

鎖写像g ⁣:D→Eg\colon D\to Eに対して、制限写像はZn(g∘f)=Zn(g)∘Zn(f)Z_n(g\circ f)=Z_n(g)\circ Z_n(f)を満たす。よって

(Hn(g)∘Hn(f))∘qnC=Hn(g)∘qnD∘Zn(f)=qnE∘Zn(g)∘Zn(f)=qnE∘Zn(g∘f).\begin{aligned} \bigl(H_n(g)\circ H_n(f)\bigr)\circ q_n^C &=H_n(g)\circ q_n^D\circ Z_n(f)\\ &=q_n^E\circ Z_n(g)\circ Z_n(f)\\ &=q_n^E\circ Z_n(g\circ f). \end{aligned}

誘導写像の一意性によりHn(g∘f)=Hn(g)∘Hn(f)H_n(g\circ f)=H_n(g)\circ H_n(f)である。▨

例 2.5. 正整数mmに対して、左Z\Z-加群の鎖複体C(m)C(m)を、次数11と00に置いた写像

Z→×mZ\Z\xrightarrow{\times m}\Z

によって定め、ほかの次数の加群と微分を零とする。整数倍写像の核は零、像はmZm\Zであるから、H0(C(m))=Z/mZH_0(C(m))=\Z/m\Zであり、ほかの次数のホモロジーは零である。

f ⁣:C(2)→C(4)f\colon C(2)\to C(4)をf1=id⁡Zf_1=\id_{\Z}、f0=×2f_0=\times2で定め、g ⁣:C(4)→C(2)g\colon C(4)\to C(2)をg1=×2g_1=\times2、g0=id⁡Zg_0=\id_{\Z}で定める。ほかの次数の写像は零とする。次数11の鎖写像の条件はそれぞれ

4t=2(2t),2(2t)=4t(t∈Z)4t=2(2t),\qquad 2(2t)=4t\qquad(t\in\Z)

であり、ほかの次数の条件は両辺が零であるため成り立つ。誘導写像は

H0(f) ⁣:Z/2Z⟶Z/4Z,x+2Z⟼2x+4Z,H0(g) ⁣:Z/4Z⟶Z/2Z,x+4Z⟼x+2Z\begin{aligned} H_0(f)\colon\Z/2\Z&\longrightarrow\Z/4\Z,& x+2\Z&\longmapsto2x+4\Z,\\ H_0(g)\colon\Z/4\Z&\longrightarrow\Z/2\Z,& x+4\Z&\longmapsto x+2\Z \end{aligned}

となる。H0(f)H_0(f)は単射であり、H0(g)H_0(g)は全射である。合成g∘fg\circ fは次数1,01,0のいずれでも二倍写像であるが、

H0(g∘f)=H0(g)∘H0(f)=0H_0(g\circ f)=H_0(g)\circ H_0(f)=0

である。一方、H0(f∘g)H_0(f\circ g)はZ/4Z\Z/4\Zの二倍写像であり、1+4Z1+4\Zを非零元2+4Z2+4\Zへ送る。

3 余鎖複体とコホモロジー

定義 3.1.RRを単位元をもつ結合環とする。左RR-加群の族(An)n∈Z(A^n)_{n\in\Z}と左RR-線形写像の族δAn ⁣:An→An+1\delta_A^n\colon A^n\to A^{n+1}が、すべてのn∈Zn\in\Zに対して

δAn+1∘δAn=0\delta_A^{n+1}\circ\delta_A^n=0

を満たすとき、組A=(An,δAn)n∈ZA=(A^n,\delta_A^n)_{n\in\Z}を左RR-加群の余鎖複体 (cochain complex) という。微分δAn\delta_A^nは次数を11上げる。

⋯⟶An−1→δAn−1An→δAnAn+1⟶⋯\cdots\longrightarrow A^{n-1}\xrightarrow{\delta_A^{n-1}} A^n\xrightarrow{\delta_A^n}A^{n+1}\longrightarrow\cdots

余鎖複体A,BA,Bに対して、左RR-線形写像の族u=(un ⁣:An→Bn)n∈Zu=(u^n\colon A^n\to B^n)_{n\in\Z}がδBn∘un=un+1∘δAn\delta_B^n\circ u^n=u^{n+1}\circ\delta_A^nを満たすとき、u ⁣:A→Bu\colon A\to Bを余鎖写像 (cochain map) または余鎖複体の射という。

Zn(A):=ker⁡δAnZ^n(A):=\ker\delta_A^nの元を次数nnのコサイクル (cocycle)、Bn(A):=im⁡δAn−1B^n(A):=\im\delta_A^{n-1}の元を次数nnのコバウンダリ (coboundary) という。両者は左部分加群であり、δAn∘δAn−1=0\delta_A^n\circ\delta_A^{n-1}=0からBn(A)⊆Zn(A)B^n(A)\subseteq Z^n(A)が成り立つ。商左RR-加群

Hn(A):=Zn(A)/Bn(A)H^n(A):=Z^n(A)/B^n(A)

を第nnコホモロジー加群 (cohomology module) という。z∈Zn(A)z\in Z^n(A)の類を[z][z]、商写像をqAn ⁣:Zn(A)→Hn(A)q_A^n\colon Z^n(A)\to H^n(A)と書く。

命題 3.2. 左RR-加群の余鎖複体AAに対して

Cn:=A−n,dnC:=δA−n(n∈Z)C_n:=A^{-n},\qquad d_n^C:=\delta_A^{-n}\qquad(n\in\Z)

とおくと、CCは鎖複体であり、Zn(C)=Z−n(A)Z_n(C)=Z^{-n}(A)、Bn(C)=B−n(A)B_n(C)=B^{-n}(A)およびHn(C)=H−n(A)H_n(C)=H^{-n}(A)が成り立つ。

余鎖写像u ⁣:A→Bu\colon A\to Bは、各整数次数nnで左RR-線形写像

Hn(u) ⁣:Hn(A)⟶Hn(B),[z]⟼[un(z)]H^n(u)\colon H^n(A)\longrightarrow H^n(B),\qquad [z]\longmapsto[u^n(z)]

を誘導する。この写像はHn(u)∘qAn=qBn∘(un∣Zn(A))H^n(u)\circ q_A^n=q_B^n\circ(u^n|_{Z^n(A)})により一意に定まり、恒等写像と合成を保つ。

証明.dnC=δA−nd_n^C=\delta_A^{-n}の値域はA−n+1=Cn−1A^{-n+1}=C_{n-1}であり、

dnC∘dn+1C=δA−n∘δA−n−1=0d_n^C\circ d_{n+1}^C =\delta_A^{-n}\circ\delta_A^{-n-1}=0

である。よってCCは鎖複体である。核と像を取ると

Zn(C)=ker⁡δA−n=Z−n(A),Bn(C)=im⁡δA−n−1=B−n(A)Z_n(C)=\ker\delta_A^{-n}=Z^{-n}(A),\qquad B_n(C)=\im\delta_A^{-n-1}=B^{-n}(A)

となり、両者の商も一致する。この次数反転では微分そのものを変えず、符号を付け加えない。

Dn=B−nD_n=B^{-n}、dnD=δB−nd_n^D=\delta_B^{-n}、fn=u−nf_n=u^{-n}とおく。余鎖写像の条件から

dnD∘fn=δB−n∘u−n=u−n+1∘δA−n=fn−1∘dnCd_n^D\circ f_n =\delta_B^{-n}\circ u^{-n} =u^{-n+1}\circ\delta_A^{-n} =f_{n-1}\circ d_n^C

であるから、f ⁣:C→Df\colon C\to Dは鎖写像である。命題 2.4を次数−n-nに適用し、Hn(u):=H−n(f)H^n(u):=H_{-n}(f)とおけば、要求された表示と一意性を得る。次数反転は恒等写像の各成分を変えず、(v∘u)−n=v−n∘u−n(v\circ u)^{-n}=v^{-n}\circ u^{-n}を満たすため、同命題の恒等則と合成則からHn(id⁡A)=id⁡Hn(A)H^n(\id_A)=\id_{H^n(A)}およびHn(v∘u)=Hn(v)∘Hn(u)H^n(v\circ u)=H^n(v)\circ H^n(u)が従う。▨

4 演習

問題 4.1. 各n∈Zn\in\ZについてCn=Z/8ZC_n=\Z/8\Zとし、微分dnCd_n^Cを四倍写像とする。CCが鎖複体であることを示し、各次数のホモロジーを求めよ。また、各次数の二倍写像で定まる鎖写像f ⁣:C→Cf\colon C\to Cがホモロジーに誘導する写像を求めよ。

解答.

四倍写像はZ\Z-線形であり、連続する二つの微分の合成は十六倍写像である。16x+8Z=0+8Z16x+8\Z=0+8\Zであるから、CCは鎖複体である。任意の整数nnに対して

Zn(C)={0+8Z,2+8Z,4+8Z,6+8Z},Bn(C)={0+8Z,4+8Z}Z_n(C)=\{0+8\Z,2+8\Z,4+8\Z,6+8\Z\},\qquad B_n(C)=\{0+8\Z,4+8\Z\}

である。写像

Zn(C)⟶Z/2Z,2k+8Z⟼k+2ZZ_n(C)\longrightarrow\Z/2\Z,\qquad 2k+8\Z\longmapsto k+2\Z

は代表元によらない。実際、2k+8Z=2ℓ+8Z2k+8\Z=2\ell+8\Zならばk−ℓ∈4Zk-\ell\in4\Zである。加法と整数倍を保つため、この写像は全射なZ\Z-線形写像である。核はBn(C)B_n(C)に等しい。商の普遍性によって誘導される写像の逆をk+2Z↦[2k+8Z]k+2\Z\mapsto[2k+8\Z]で定めることができるため、Hn(C)≅Z/2ZH_n(C)\cong\Z/2\Zである。

二倍写像と四倍写像は可換であるから、ffは鎖写像である。サイクル2k+8Z2k+8\Zの像は4k+8Z∈Bn(C)4k+8\Z\in B_n(C)であり、Hn(f)=0H_n(f)=0である。一方、fn(1+8Z)=2+8Z≠0f_n(1+8\Z)=2+8\Z\ne0であるから、fnf_n自体は零写像ではない。▨

問題 4.2. 左Z\Z-加群の鎖複体CCをC1=C0=ZC_1=C_0=\Z、d1C=×2d_1^C=\times2で定め、ほかの次数の加群と微分を零とする。DDは次数00にだけZ\Zを置いた複体、EEは次数11にだけZ\Zを置いた複体とし、両複体の微分はすべて零とする。

i ⁣:D→Ci\colon D\to Cをi0=id⁡Zi_0=\id_{\Z}、p ⁣:C→Ep\colon C\to Eをp1=id⁡Zp_1=\id_{\Z}で定め、ほかの次数の写像を零とする。i,pi,pが鎖写像であることを示せ。各ini_nは単射、各pnp_nは全射であるにもかかわらず、H0(i)H_0(i)は単射ではなく、H1(p)H_1(p)は全射ではないことを示せ。

解答.

iiの鎖写像の条件のうち次数11の条件はd1C∘i1=i0∘d1D=0d_1^C\circ i_1=i_0\circ d_1^D=0であり、ほかの次数でも両辺が零である。ppについてはd1E∘p1=p0∘d1C=0d_1^E\circ p_1=p_0\circ d_1^C=0であり、ほかの次数でも両辺が零である。したがってi,pi,pは鎖写像である。

i0i_0は恒等写像であり、n≠0n\ne0ではDn=0D_n=0であるため、各ini_nは単射である。p1p_1は恒等写像であり、n≠1n\ne1ではEn=0E_n=0であるため、各pnp_nは全射である。

DDの微分がすべて零であるためH0(D)=ZH_0(D)=\Zであり、H0(C)=Z/2ZH_0(C)=\Z/2\Zである。誘導写像H0(i)H_0(i)はx↦x+2Zx\mapsto x+2\Zであるから、非零元22を零へ送り、単射ではない。DDの次数00の元22はDDでは境界ではないが、その像はCCではd1C(1)d_1^C(1)という境界になる。

二倍写像Z→Z\Z\to\Zは単射であるためH1(C)=0H_1(C)=0であり、H1(E)=ZH_1(E)=\Zである。よってH1(p)H_1(p)は0→Z0\to\Zという写像であり、全射ではない。E1E_1のサイクル11のp1p_1による逆像はC1C_1の元11だけであり、d1C(1)=2≠0d_1^C(1)=2\ne0であるため、この逆像はサイクルではない。▨

前提記事