§E6.20Noether 加群・Artin 加群・有限長加群

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有限次元線形空間では、部分空間の真の昇鎖も真の降鎖も有限段階で止まり、真の包含の回数は次元以下である。一般の加群には次元に相当する量が初めから備わっておらず、有限生成性だけでも同じ役割を果たさない。実際、左Z\Z-加群Z\Zは一元生成であるにもかかわらず、Z⊋2Z⊋4Z⊋⋯\Z\supsetneq2\Z\supsetneq4\Z\supsetneq\cdotsという停止しない真の降鎖をもつ。

部分加群の昇鎖と降鎖の停止をそれぞれ表す Noether 性と Artin 性は、この不足を補う基本的な有限性条件である。二つの条件が同時に成り立つとき、単純加群を因子とする有限な組成列が存在し、その因子数が加群の長さを与える。この長さは線形空間の次元を拡張するだけでなく、組成因子の重複度を保つ Jordan–Hölder の定理によって支えられる。

鎖条件と有限長は短完全列に沿って保たれ、短完全列の中央項の長さは両端の加群の長さの和である。さらに、環を左または右から自身に作用させれば、同じ考え方が環の有限性条件になる。本記事を通じて、RRは零環を許す単位的結合環とし、特に断らない限り加群は左RR-加群とする。

本記事では、加群の鎖条件と有限長を導入し、それらの基本的な性質や環における例について解説する。

1 Noether 加群

Noether 性は、部分加群の任意の昇鎖が有限段階で一定になることを表す。

定義 1.1. 左RR加群MMがNoether 加群 (Noetherian module) であるとは、部分加群の任意の昇鎖

N0⊆N1⊆N2⊆⋯N_0\subseteq N_1\subseteq N_2\subseteq\cdots

に対して、あるnnが存在して

Nn=Nn+1=Nn+2=⋯N_n=N_{n+1}=N_{n+2}=\cdots

となることをいう。この条件を昇鎖条件 (ascending chain condition)(ascending chain condition, ACC)という。右RR加群の Noether 性も、右部分加群の昇鎖について同じ形で定義する。

環RRが左 Noether 環 (left Noetherian ring) であるとは左正則加群RR{}_RRが Noether 加群であることをいい、右 Noether 環 (right Noetherian ring) であるとは右正則加群RRR_Rが Noether 加群であることをいう。RRが可換環である場合には左右を区別せず、単にNoether 環 (Noetherian ring) という。

Noether 性は、昇鎖を直接調べる代わりに、部分加群の極大元または有限個の生成元によって判定することができる。

命題 1.2. 左RR加群MMに対して、次の三条件は同値である。

  1. MMは昇鎖条件を満たす。
  2. MMの部分加群からなる空でない任意の族は、包含関係に関する極大元をもつ。
  3. MMの任意の部分加群NNは有限生成である。すなわち、あるx1,…,xr∈Nx_1,\ldots,x_r\in Nが存在して N=Rx1+⋯+RxrN=Rx_1+\cdots+Rx_r となる。零部分加群ではr=0r=0を許す。

証明.(1)⇒\Rightarrow(2)を示す。MMの部分加群からなる空でない族S\mathcal Sが極大元をもたないと仮定する。N0∈SN_0\in\mathcal Sを一つ取り、NjN_jが選ばれたとき、極大性をもたないことから

Nj⊊Nj+1N_j\subsetneq N_{j+1}

となるNj+1∈SN_{j+1}\in\mathcal Sを選ぶ。この操作によって停止しない真の昇鎖が得られ、(1)に反する。したがってS\mathcal Sは極大元をもつ。

(2)⇒\Rightarrow(3)を示す。N⊆MN\subseteq Mを部分加群とし、NNの有限生成部分加群全体をF\mathcal Fとする。零部分加群は空集合で生成されるため、F\mathcal Fは空でない。(2)により、F\mathcal Fは極大元LLをもつ。L≠NL\neq Nならばx∈N∖Lx\in N\setminus Lを取ることができる。LLの有限生成系にxxを加えるとL+RxL+Rxは有限生成であり、

L⊊L+Rx⊆NL\subsetneq L+Rx\subseteq N

となる。真の包含L⊊L+RxL\subsetneq L+RxはLLの極大性に反する。よってL=NL=Nであり、NNは有限生成である。

(3)⇒\Rightarrow(1)を示す。昇鎖N0⊆N1⊆⋯N_0\subseteq N_1\subseteq\cdotsを取り、

N:=⋃j≥0NjN:=\bigcup_{j\geq0}N_j

と置く。昇鎖であることによりNNは部分加群である。(3)からN=Rx1+⋯+RxrN=Rx_1+\cdots+Rx_rとなるx1,…,xr∈Nx_1,\ldots,x_r\in Nが存在する。各xix_iに対してxi∈Nnix_i\in N_{n_i}となるnin_iを取り、n:=max⁡inin:=\max_i n_iと置く。r=0r=0の場合にはn=0n=0と置く。このときN⊆NnN\subseteq N_nであり、逆包含は定義から成り立つためN=NnN=N_nである。j≥nj\geq nならば

Nn⊆Nj⊆N=NnN_n\subseteq N_j\subseteq N=N_n

であるから、昇鎖はNnN_nで停止する。▨

2 Artin 加群

Artin 性は、部分加群の任意の降鎖が有限段階で一定になることを表す。Noether 性には、すべての部分加群が有限生成であるという特徴づけがある。Artin 性に対する同様の生成条件は、本記事では導入しない。

定義 2.1. 左RR加群MMがArtin 加群 (Artinian module) であるとは、部分加群の任意の降鎖

N0⊇N1⊇N2⊇⋯N_0\supseteq N_1\supseteq N_2\supseteq\cdots

に対して、あるnnが存在して

Nn=Nn+1=Nn+2=⋯N_n=N_{n+1}=N_{n+2}=\cdots

となることをいう。この条件を降鎖条件 (descending chain condition)(descending chain condition, DCC)という。右RR加群の Artin 性も右部分加群の降鎖について定義する。

環RRが左 Artin 環 (left Artinian ring) であるとはRR{}_RRが Artin 加群であることをいい、右 Artin 環 (right Artinian ring) であるとはRRR_Rが Artin 加群であることをいう。可換環では単にArtin 環 (Artinian ring) という。

降鎖条件は、空でない部分加群族に極小元が存在する条件と同値である。

命題 2.2. 左RR加群MMに対して、次の二条件は同値である。

  1. MMは降鎖条件を満たす。
  2. MMの部分加群からなる空でない任意の族は、包含関係に関する極小元をもつ。

証明.(1)⇒\Rightarrow(2)を示す。(1)を仮定し、空でない部分加群族S\mathcal Sが極小元をもたないとする。N0∈SN_0\in\mathcal Sを取り、NjN_jが選ばれたとき

Nj⊋Nj+1N_j\supsetneq N_{j+1}

となるNj+1∈SN_{j+1}\in\mathcal Sを選ぶと、停止しない真の降鎖が得られる。停止しない真の降鎖は(1)に反するため、(2)が成り立つ。

(2)⇒\Rightarrow(1)を示す。逆に(2)を仮定し、降鎖N0⊇N1⊇⋯N_0\supseteq N_1\supseteq\cdotsを取る。族{Nj∣j≥0}\{N_j\mid j\geq0\}の極小元をNnN_nとする。j≥nj\geq nではNj⊆NnN_j\subseteq N_nであり、極小性からNj=NnN_j=N_nとなる。したがって降鎖は停止する。▨

3 短完全列と鎖条件

短完全列の中央項にある部分加群列については、各項と左端の加群との共通部分、および右端の加群における像を調べる。二つの列が停止すれば、中央項の列も停止することを元ごとの計算によって示すことができる。

命題 3.1. 左RR加群の短完全列

0⟶A→ i B→ p C⟶00\longrightarrow A\xrightarrow{\ i\ }B \xrightarrow{\ p\ }C\longrightarrow0

において、BBが Noether 加群であることと、AAとCCがともに Noether 加群であることは同値である。したがって、三つの加群のうち任意の二つが Noether 加群ならば残りの一つも Noether 加群である。

証明.BBが Noether 加群であるとする。AAの部分加群の昇鎖へiiを施すと、BBの部分加群の昇鎖が得られる。iiは単射であるため、像の鎖が停止すれば元の鎖も停止する。よってAAは Noether 加群である。

CCの部分加群の昇鎖C0⊆C1⊆⋯C_0\subseteq C_1\subseteq\cdotsに対して、逆像

p−1(C0)⊆p−1(C1)⊆⋯p^{-1}(C_0)\subseteq p^{-1}(C_1)\subseteq\cdots

はBBの部分加群の昇鎖である。この逆像の鎖がnnで停止すれば、ppの全射性から

Cj=p(p−1(Cj))=p(p−1(Cn))=CnC_j=p(p^{-1}(C_j))=p(p^{-1}(C_n))=C_n

がすべてのj≥nj\geq nについて成り立つ。したがってCCも Noether 加群である。

逆にAAとCCが Noether 加群であるとする。AAをi(A)=ker⁡pi(A)=\ker pと同一視し、BBの部分加群の昇鎖

B0⊆B1⊆⋯B_0\subseteq B_1\subseteq\cdots

を取る。共通部分A∩BjA\cap B_jはAAの昇鎖をなし、像p(Bj)p(B_j)はCCの昇鎖をなす。両方が停止する段階以後の添字を一つ取り、nnとする。j≥nj\geq nとb∈Bjb\in B_jに対して、p(b)∈p(Bj)=p(Bn)p(b)\in p(B_j)=p(B_n)であるから、p(bn)=p(b)p(b_n)=p(b)となるbn∈Bnb_n\in B_nが存在する。このとき

b−bn∈A∩Bj=A∩Bn⊆Bnb-b_n\in A\cap B_j=A\cap B_n\subseteq B_n

であり、b∈Bnb\in B_nとなる。よってBj⊆BnB_j\subseteq B_nであり、逆包含は昇鎖から従う。したがってBj=BnB_j=B_nであり、BBは Noether 加群である。▨

Artin 性の場合には、中央項の降鎖と左端の加群との共通部分、および右端の加群における像を用いる。両端で得られる降鎖が停止した後、中央項の降鎖も停止することを元ごとに証明する。

命題 3.2. 左RR加群の短完全列

0⟶A→ i B→ p C⟶00\longrightarrow A\xrightarrow{\ i\ }B \xrightarrow{\ p\ }C\longrightarrow0

において、BBが Artin 加群であることと、AAとCCがともに Artin 加群であることは同値である。したがって、三つの加群のうち任意の二つが Artin 加群ならば残りの一つも Artin 加群である。

証明.BBが Artin 加群ならば、AAの部分加群の降鎖をiiによってBBへ移すことでAAの Artin 性が従う。CCの部分加群の降鎖(Cj)(C_j)に対しては、逆像の降鎖(p−1(Cj))(p^{-1}(C_j))がBBで停止する。ppの全射性によりp(p−1(Cj))=Cjp(p^{-1}(C_j))=C_jであるため、元の降鎖も停止する。したがってCCは Artin 加群である。

逆にAAとCCが Artin 加群であるとし、A=ker⁡p⊆BA=\ker p\subseteq Bと同一視する。BBの部分加群の降鎖

B0⊇B1⊇⋯B_0\supseteq B_1\supseteq\cdots

を取ると、(A∩Bj)(A\cap B_j)と(p(Bj))(p(B_j))はそれぞれAAとCCの降鎖である。両方が停止した後の添字をnnとする。j≥nj\geq nとb∈Bnb\in B_nに対して、p(b)∈p(Bn)=p(Bj)p(b)\in p(B_n)=p(B_j)であるから、p(bj)=p(b)p(b_j)=p(b)となるbj∈Bjb_j\in B_jが存在する。したがって

b−bj∈A∩Bn=A∩Bj⊆Bjb-b_j\in A\cap B_n=A\cap B_j\subseteq B_j

であり、b∈Bjb\in B_jとなる。よってBn⊆BjB_n\subseteq B_jであり、逆包含は降鎖から従う。したがってBj=BnB_j=B_nとなり、BBは Artin 加群である。▨

4 単純加群、組成列および有限長

Noether 性と Artin 性を同時に満たす加群には、各商が単純加群となる有限な部分加群列、すなわち組成列が存在する。

定義 4.1. 左RR加群SSが単純加群 (simple module) であるとは、S≠0S\neq0であり、SSの部分加群が00とSSだけであることをいう。

定義 4.2. 左RR加群MMの組成列 (composition series) とは、部分加群の有限列

0=M0⊊M1⊊⋯⊊Mn=M0=M_0\subsetneq M_1\subsetneq\cdots \subsetneq M_n=M

であって、各商Mi/Mi−1M_i/M_{i-1}が単純加群であるものをいう。単純加群Mi/Mi−1M_i/M_{i-1}を組成因子 (composition factor) という。零加群については0=M00=M_0を組成列とみなし、組成因子をもたないものとする。

部分加群の真の昇鎖の長さの上限を

ℓR(M):=sup⁡{n∈Z≥0 | 0=N0⊊N1⊊⋯⊊Nn⊆M}∈Z≥0∪{∞}\ell_R(M):=\sup\left\{n\in\mathbb Z_{\geq0}\ \middle|\ 0=N_0\subsetneq N_1\subsetneq\cdots \subsetneq N_n\subseteq M\right\} \in\mathbb Z_{\geq0}\cup\{\infty\}

と定め、この値をMMの長さ (length) という。ℓR(M)<∞\ell_R(M)<\inftyであるとき、MMを有限長加群 (module of finite length) という。零加群では長さ00の鎖だけが存在するため、ℓR(0)=0\ell_R(0)=0である。

有限長は、二つの鎖条件を同時に課すこと、および組成列が存在することのいずれによっても判定することができる。

証明の出発点は、真の昇鎖の長さに有限上界があるという条件である。最初に停止しない昇鎖と降鎖を排除し、次に Noether 性から極大真部分加群を選び、Artin 性によって降下列を有限段階で停止させて組成列を構成する。逆向きでは、組成列の末尾の単純商へ任意の昇鎖を写し、各項と組成列の末尾直前の部分加群との共通部分へ帰納法を適用することが本質的一手である。

定理 4.3. 左RR加群MMに対して、次の三条件は同値である。

  1. MMは有限長加群である。
  2. MMは Noether 加群かつ Artin 加群である。
  3. MMは組成列をもつ。

組成列がnn個の組成因子をもつならば、ℓR(M)=n\ell_R(M)=nである。

証明.(1)⇒\Rightarrow(2)を示す。ℓR(M)=d<∞\ell_R(M)=d<\inftyとする。昇鎖N0⊆N1⊆⋯N_0\subseteq N_1\subseteq\cdotsが停止しないと仮定する。j0:=0j_0:=0と置く。jqj_qが選ばれたとき、鎖はNjqN_{j_q}で停止しないため、jq+1>jqj_{q+1}>j_qかつNjq⊊Njq+1N_{j_q}\subsetneq N_{j_{q+1}}となるjq+1j_{q+1}を選ぶことができる。したがって(Njq)(N_{j_q})は停止しない真の昇鎖である。任意の有限部分の先頭が非零ならば00を加えることにより、長さが任意に大きい真の昇鎖を得る。降鎖が停止しない場合にも、真の包含が生じる添字を同じ方法で逐次選ぶ。得られた真の降鎖の任意の有限部分を逆順に並べ、先頭が非零ならば00を加えると、長さが任意に大きい真の昇鎖になる。いずれもℓR(M)=d\ell_R(M)=dに反するため、MMは Noether 加群かつ Artin 加群である。

(1)⇒\Rightarrow(3)を示す。長さを定める集合は整数の集合であり、その上限ddは有限であるから、長さddの鎖

0=M0⊊M1⊊⋯⊊Md⊆M0=M_0\subsetneq M_1\subsetneq\cdots\subsetneq M_d\subseteq M

が存在する。Md≠MM_d\neq Mならば末尾へMMを加えることができるため、Md=MM_d=Mである。また、Mi−1M_{i-1}とMiM_iの間に真の中間部分加群があれば、その部分加群を挿入して鎖を長くすることができる。したがって中間部分加群は存在しない。Mi/Mi−1M_i/M_{i-1}の部分加群の逆像はMi−1M_{i-1}とMiM_iの間の部分加群であるため、この商は単純である。よって表示した鎖は組成列である。

(2)⇒\Rightarrow(3)を示す。M≠0M\neq0とする。MMの真の部分加群全体は零部分加群を含む空でない族である。Noether 性と命題 1.2により、この族は極大元M1M_1をもつ。商M/M1M/M_1は非零であり、商の部分加群の逆像を取れば、M1M_1の極大性からM/M1M/M_1が単純であることが従う。M1≠0M_1\neq0ならば同じ操作をM1M_1に施し、

M=M0⊋M1⊋M2⊋⋯M=M_0\supsetneq M_1\supsetneq M_2\supsetneq\cdots

を作る。MMは Artin 加群であるため、真の降鎖は無限に続かない。したがって、Mn=0M_n=0となる整数n≥0n\geq0が存在する。降鎖を逆順に並べるとMMの組成列を得る。M=0M=0の場合には定義で指定した長さ00の組成列を用いる。

(3)⇒\Rightarrow(1)を示す。組成列の因子数nnに関する帰納法を用いる。n=0n=0ならばM=0M=0であり、ℓR(M)=0\ell_R(M)=0である。n>0n>0とし、A:=Mn−1A:=M_{n-1}、S:=M/AS:=M/Aと置く。AAの組成列は因子数n−1n-1であるため、帰納法の仮定からℓR(A)=n−1\ell_R(A)=n-1である。

MMの任意の真の昇鎖

0=N0⊊N1⊊⋯⊊Nr⊆M0=N_0\subsetneq N_1\subsetneq\cdots\subsetneq N_r\subseteq M

を取り、Aj:=A∩NjA_j:=A\cap N_j、Cj:=(Nj+A)/A⊆SC_j:=(N_j+A)/A\subseteq Sと置く。(Aj)(A_j)はAAの昇鎖であり、真に増大する段階は高々n−1n-1回である。(Cj)(C_j)は単純加群SSの部分加群の昇鎖であるため、真に増大する段階は高々一回である。もしNj⊊Nj+1N_j\subsetneq N_{j+1}であるにもかかわらずAj=Aj+1A_j=A_{j+1}かつCj=Cj+1C_j=C_{j+1}ならば、x∈Nj+1x\in N_{j+1}に対して像の等しさからx−y∈Ax-y\in Aとなるy∈Njy\in N_jを選ぶことができる。このとき

x−y∈A∩Nj+1=A∩Nj⊆Njx-y\in A\cap N_{j+1}=A\cap N_j\subseteq N_j

であるからx∈Njx\in N_jとなり、真の包含に反する。したがって各段階で(Aj)(A_j)または(Cj)(C_j)の少なくとも一方が真に増大し、r≤(n−1)+1=nr\leq(n-1)+1=nである。もとの組成列は長さnnの真の昇鎖であるため、ℓR(M)=n\ell_R(M)=nとなる。▨

5 Jordan–Hölder の定理

二つの組成列を比較する際には、部分加群A,B⊆MA,B\subseteq Mに対する商A/(A∩B)A/(A\cap B)と(A+B)/B(A+B)/Bの同型、およびB/(A∩B)B/(A\cap B)と(A+B)/A(A+B)/Aの同型を用いる。

補題 5.1 (部分加群の第二同型定理). 左RR加群MMの部分加群A,BA,Bに対して、

θ ⁣:A/(A∩B)⟶(A+B)/B,θ(a+(A∩B)):=a+B\theta\colon A/(A\cap B)\longrightarrow(A+B)/B, \qquad \theta(a+(A\cap B)):=a+B

は左RR加群の同型である。

証明.a−a′∈A∩Ba-a'\in A\cap Bならばa−a′∈Ba-a'\in Bであるためa+B=a′+Ba+B=a'+Bとなり、θ\thetaは well-defined である。加法とRRの作用を保つことは表示式から従う。θ(a+(A∩B))=B\theta(a+(A\cap B))=Bならばa∈Ba\in Bであり、a∈Aa\in Aと合わせてa∈A∩Ba\in A\cap Bとなるため、θ\thetaは単射である。任意の(a+b)+B∈(A+B)/B(a+b)+B\in(A+B)/Bはa+Ba+Bに等しいため、θ\thetaは全射でもある。▨

組成列の長さだけでなく、重複度を含む組成因子の同型類も分解の選択に依存しない。

証明の出発点は、二つの組成列の末尾に現れる極大部分加群AAとBBである。A=BA=Bの場合を帰納法で処理した後、A≠BA\neq Bの場合にはL:=A∩BL:=A\cap Bを中間目標として、AAとBBの組成列をLLの組成列から作り直す。本質的一手は、第二同型定理が与える菱形によってA/LA/LとM/BM/B、およびB/LB/LとM/AM/Aを交差させ、二つの最上部の組成因子を交換することである。

定理 5.2 (加群の Jordan–Hölder の定理). 有限長左RR加群MMの任意の二つの組成列は同じ個数の組成因子をもち、組成因子の順序を並べ替えれば、対応する因子はそれぞれ同型になる。

証明.d:=ℓR(M)d:=\ell_R(M)に関する帰納法を用いる。d=0d=0ならばM=0M=0であり、二つの組成列はいずれも組成因子をもたない。d>0d>0とし、二つの組成列を

0=M0⊊⋯⊊Mn−1=A⊊Mn=M,0=M_0\subsetneq\cdots\subsetneq M_{n-1}=A \subsetneq M_n=M,0=N0⊊⋯⊊Nm−1=B⊊Nm=M0=N_0\subsetneq\cdots\subsetneq N_{m-1}=B \subsetneq N_m=M

とする。M/AM/AとM/BM/Bは単純であるため、AAとBBはMMの極大部分加群である。

A=BA=Bならば、AAの二つの組成列へ帰納法の仮定を適用することができる。実際、A⊊MA\subsetneq Mであるため、AAの任意の真の昇鎖へ末尾のMMを加えるとMMの鎖になり、ℓR(A)<d\ell_R(A)<dである。AA以下の組成因子が並べ替えを除いて一致し、最上部の因子M/AM/Aは共通であるから、MMについても結論が成り立つ。

A≠BA\neq Bとし、L:=A∩BL:=A\cap Bと置く。B⊆AB\subseteq AならばBBの極大性とA⊊MA\subsetneq MからA=BA=Bとなるため、B⊈AB\nsubseteq Aである。したがってA⊊A+BA\subsetneq A+Bであり、AAの極大性から

A+B=MA+B=M

となる。補題 5.1により

A/L≅(A+B)/B=M/B,B/L≅(A+B)/A=M/AA/L\cong(A+B)/B=M/B, \qquad B/L\cong(A+B)/A=M/A

である。よってA/LA/LとB/LB/Lは単純加群である。

MMは有限長であるから定理 4.3により Noether 加群かつ Artin 加群であり、部分加群LLも両方の鎖条件を満たす。再び同じ定理により、LLは組成列

0=L0⊊⋯⊊Lq=L0=L_0\subsetneq\cdots\subsetneq L_q=L

をもつ。末尾へAAまたはBBを加えると、それぞれAAとBBの組成列が得られる。

ℓR(A),ℓR(B)<d\ell_R(A),\ell_R(B)<dであるため、帰納法の仮定をAAとBBへ適用する。最初の組成列に現れるAA以下の因子は、LLの因子とA/LA/Lを合わせた多重集合に一致する。第二の組成列に現れるBB以下の因子は、LLの因子とB/LB/Lを合わせた多重集合に一致する。さらに

A/L≅M/B,B/L≅M/AA/L\cong M/B, \qquad B/L\cong M/A

であるため、二つの列の最上部の因子を加えた多重集合も一致する。以上で帰納法が閉じる。▨

注意 5.3 (一意性定理の比較の出発点). Jordan–Hölder の定理が分類するのは、有限長加群の組成列に現れる単純商加群の同型類と重複度の多重集合である。組成列をなす部分加群そのもの、各単純商をつなぐ拡張の仕方、加群全体の同型類、および直和分解は分類しない。実際、同じ組成因子を同じ重複度でもつ非同型加群があり得る。

後続の有限長半単純加群の分解、Krull–Schmidt の定理、PID 上の単因子・初等因子、および Jordan 標準形は、それぞれ仮定を加えて異なる分解データを分類する。本定理はそれらとの比較における基準であり、ここでの一意性を加群の同型分類や直和因子の一意性と取り違えてはならない。

群の Jordan–Hölder の定理§E7.20 定理 5.1では、正規部分群からなる列を細分する。加群の部分加群は加法群の正規部分群でもあるが、本記事の加群版では補題 5.1が与える商加群の同型と、長さに関する帰納法だけを用いた。したがって、群版の定理を加群版の証明根拠には用いていない。

6 短完全列と長さ

短完全列では、中央項が有限長であることと、両端の加群がともに有限長であることは同値である。三つの加群が有限長である場合、中央項の長さは両端の長さの和に等しい。

定理 6.1. 左RR加群の短完全列

0⟶A→ i B→ p C⟶00\longrightarrow A\xrightarrow{\ i\ }B \xrightarrow{\ p\ }C\longrightarrow0

において、BBが有限長であることと、AAとCCがともに有限長であることは同値である。有限長である場合には

ℓR(B)=ℓR(A)+ℓR(C)\ell_R(B)=\ell_R(A)+\ell_R(C)

が成り立つ。

証明.定理 4.3、命題 3.1および命題 3.2により、有限長であることについての同値が従う。

長さの等式を示す。AAをi(A)=ker⁡pi(A)=\ker pと同一視する。AAとCCの組成列を

0=A0⊊⋯⊊Ar=A,0=C0⊊⋯⊊Cs=C0=A_0\subsetneq\cdots\subsetneq A_r=A, \qquad 0=C_0\subsetneq\cdots\subsetneq C_s=C

とする。p−1(C0)=Ap^{-1}(C_0)=Aであるため、二つの組成列をつないだ列

0=A0⊊⋯⊊Ar=A=p−1(C0)⊊p−1(C1)⊊⋯⊊p−1(Cs)=B0=A_0\subsetneq\cdots\subsetneq A_r=A =p^{-1}(C_0)\subsetneq p^{-1}(C_1) \subsetneq\cdots\subsetneq p^{-1}(C_s)=B

を得る。ppの全射性により、Cj−1⊊CjC_{j-1}\subsetneq C_jならば逆像の包含も真である。

下側の因子Aj/Aj−1A_j/A_{j-1}は単純である。上側の因子について、

p−1(Cj)/p−1(Cj−1)⟶Cj/Cj−1,b+p−1(Cj−1)⟼p(b)+Cj−1p^{-1}(C_j)/p^{-1}(C_{j-1}) \longrightarrow C_j/C_{j-1}, \qquad b+p^{-1}(C_{j-1})\longmapsto p(b)+C_{j-1}

を考える。この写像は well-defined な全射準同型であり、像が零であることはp(b)∈Cj−1p(b)\in C_{j-1}、すなわちb∈p−1(Cj−1)b\in p^{-1}(C_{j-1})と同値であるから単射でもある。よって上側の因子も単純であり、表示した列はBBの組成列である。その因子数はr+sr+sである。定理 5.2によって組成列の因子数は選択に依存しないため、

ℓR(B)=r+s=ℓR(A)+ℓR(C)\ell_R(B)=r+s=\ell_R(A)+\ell_R(C)

となる。▨

系 6.2. 左RR加群MMが単純であることと、ℓR(M)=1\ell_R(M)=1であることは同値である。

証明.MMが単純ならば0⊊M0\subsetneq Mは組成列であり、定理 4.3によりℓR(M)=1\ell_R(M)=1である。逆にℓR(M)=1\ell_R(M)=1ならばM≠0M\neq0である。0⊊N⊊M0\subsetneq N\subsetneq Mとなる部分加群NNが存在すれば長さ22の真の昇鎖が得られるため、そのようなNNは存在しない。したがってMMは単純である。▨

7 右加群と反対環

右加群に関する鎖条件と組成列は、台となる加法群と部分加群を変えずに反対環上へ移る。

命題 7.1. 右RR加群MMに左RopR^{\mathrm{op}}作用

ropm:=mrr^{\mathrm{op}}m:=mr

を入れる。右RR加群の組成列、有限長および長さを、対応する左RopR^{\mathrm{op}}加群の組成列、有限長および長さによって定義する。特に

ℓ(MR):=ℓRop(RopM)\ell(M_R):=\ell_{R^{\mathrm{op}}}({}_{R^{\mathrm{op}}}M)

と置く。右RR加群MRM_Rと左RopR^{\mathrm{op}}加群RopM{}_{R^{\mathrm{op}}}Mについて、次の対象と性質は同じデータである。

  1. 部分加群、その包含関係、昇鎖および降鎖。
  2. 有限生成性、Noether 性および Artin 性。
  3. 商加群、単純性、組成列、各組成因子および有限長。
  4. 準同型、短完全列、Jordan–Hölder の対応および長さの加法性。

したがって、本記事で左加群について証明した結果は、RRをRopR^{\mathrm{op}}に置き換えることにより右RR加群についても成り立つ。また、RRが右 Noether 環または右 Artin 環であることは、RopR^{\mathrm{op}}がそれぞれ左 Noether 環または左 Artin 環であることと同値である。

証明.(1)を示す。(2)を示す。加法部分群N⊆MN\subseteq Mが右RR部分加群であることは、すべてのn∈Nn\in Nとr∈Rr\in Rに対してnr∈Nnr\in Nとなることと同値である。この条件はropn=nr∈Nr^{\mathrm{op}}n=nr\in N、すなわちNNが左RopR^{\mathrm{op}}部分加群であることと同じである。したがって部分加群の集合と包含関係は変化せず、昇鎖と降鎖も同じ列である。また、

x1R+⋯+xnR=Ropx1+⋯+Ropxnx_1R+\cdots+x_nR =R^{\mathrm{op}}x_1+\cdots+R^{\mathrm{op}}x_n

であるから、有限生成性も保たれる。以上により(1)と(2)が従う。

(3)を示す。右商加群M/NM/Nの作用は

(m+N)r=mr+N(m+N)r=mr+N

であり、左RopR^{\mathrm{op}}加群としての商作用

rop(m+N)=mr+Nr^{\mathrm{op}}(m+N)=mr+N

と同じである。部分加群が一致するため、商の単純性も一致する。したがって組成列は同じ部分加群列であり、各右RR組成因子は同じ加法群と作用をもつ左RopR^{\mathrm{op}}組成因子になる。真の鎖の長さも変化しないため、有限長とその値が保たれる。

(4)を示す。写像f ⁣:M→Nf\colon M\to Nの右RR線形性を表す等式

f(mr)=f(m)rf(mr)=f(m)r

は

f(ropm)=ropf(m)f(r^{\mathrm{op}}m)=r^{\mathrm{op}}f(m)

と同じ等式である。核、像、全射性および単射性は加法群の写像として変化しないため、短完全列も同じ写像列である。組成因子の同型も同じ写像である。したがって、左RopR^{\mathrm{op}}加群に対する Jordan–Hölder の定理と長さの加法性が右RR加群へ移る。最後に、右正則加群RRR_Rは反対環の左正則加群RopRop{}_{R^{\mathrm{op}}}R^{\mathrm{op}}と同じ作用をもつ。よって環についての主張も従う。▨

8 基本例

整数環は昇鎖条件を満たすが、降鎖条件を満たさない。

例 8.1 (整数環は Noether であるが Artin でない). 左Z\mathbb Z加群Z\mathbb Zの部分加群は加法群の部分群である。非零部分加群IIに含まれる最小の正整数をddとする。任意のa∈Ia\in Iに対して除法を

a=qd+r,0≤r<da=qd+r,\qquad 0\leq r<d

と行うと、r=a−qd∈Ir=a-qd\in Iである。ddの最小性からr=0r=0となるため、I=dZI=d\mathbb Zである。零部分加群も一元00で生成される。よってすべての部分加群は有限生成であり、命題 1.2によりZ\mathbb Zは Noether 加群である。

一方、

Z⊋2Z⊋22Z⊋23Z⊋⋯\mathbb Z\supsetneq2\mathbb Z\supsetneq 2^2\mathbb Z\supsetneq2^3\mathbb Z\supsetneq\cdots

は停止しない真の降鎖である。実際、2n∈2nZ2^n\in2^n\mathbb Zであるが2n∉2n+1Z2^n\notin2^{n+1}\mathbb Zである。したがってZ\mathbb Zは Artin 加群でない。可換性により左右について同じ結論が成り立つ。

有限次元線形空間では、組成長は線形代数の次元に一致する。

例 8.2 (有限次元線形空間の長さ). 体kk上の有限次元線形空間VVの次元をnnとする。n=0n=0ならばV=0V=0であり、ℓk(V)=0=dim⁡kV\ell_k(V)=0=\dim_kVである。n≥1n\geq1とし、基底v1,…,vnv_1,\ldots,v_nを取る。

0⊊kv1⊊kv1+kv2⊊⋯⊊kv1+⋯+kvn=V0\subsetneq kv_1\subsetneq kv_1+kv_2 \subsetneq\cdots\subsetneq kv_1+\cdots+kv_n=V

の各因子は一次元kk線形空間である。一次元線形空間の部分空間は零空間と全体だけであるため、各因子は単純kk加群である。したがって表示した列は組成列であり、

ℓk(V)=n=dim⁡kV\ell_k(V)=n=\dim_kV

となる。

9 左右の鎖条件が一致しない環

非可換環では、左正則加群と右正則加群の部分加群格子が大きく異なることがある。

例 9.1 (左右の鎖条件が一致しない上三角行列環). 体kk、無限次拡大k⊊K:=k(t)k\subsetneq K:=k(t)および環

T:={(ab0c) | a,b∈K, c∈k}T:=\left\{ \begin{pmatrix}a&b\\0&c\end{pmatrix} \ \middle|\ a,b\in K,\ c\in k \right\}

を考える。TTは左正則加群として長さ33であるため左 Noether かつ左 Artin である。一方、右正則加群は昇鎖条件も降鎖条件も満たさない。したがってTTは右 Noether 環でも右 Artin 環でもない。

証明. 行列を(a,b,c)(a,b,c)と略記すると、積は

(a,b,c)(a′,b′,c′)=(aa′,ab′+bc′,cc′)(a,b,c)(a',b',c')=(aa',ab'+bc',cc')

である。この積の式から

(1,0,1)(a,b,c)=(a,b,c),(a,b,c)(1,0,1)=(a,b,c)(1,0,1)(a,b,c)=(a,b,c), \qquad (a,b,c)(1,0,1)=(a,b,c)

となるため、(1,0,1)(1,0,1)はTTの両側単位元である。冪等元

e11:=(1,0,0),e22:=(0,0,1)e_{11}:=(1,0,0), \qquad e_{22}:=(0,0,1)

に対して

Te11={(a,0,0)∣a∈K},Te22={(0,b,c)∣b∈K, c∈k}Te_{11}=\{(a,0,0)\mid a\in K\}, \qquad Te_{22}=\{(0,b,c)\mid b\in K,\ c\in k\}

は左イデアルであり、

TT=Te11⊕Te22{}_TT=Te_{11}\oplus Te_{22}

である。実際、(a,b,c)=(a,0,0)+(0,b,c)(a,b,c)=(a,0,0)+(0,b,c)と一意に分解される。左部分加群、すなわち左イデアルとして

L1:={(a,0,0)∣a∈K},L2:={(a,b,0)∣a,b∈K}L_1:=\{(a,0,0)\mid a\in K\}, \qquad L_2:=\{(a,b,0)\mid a,b\in K\}

を取る。積の式から

(x,y,z)(a,0,0)=(xa,0,0),(x,y,z)(a,b,0)=(xa,xb,0)(x,y,z)(a,0,0)=(xa,0,0), \qquad (x,y,z)(a,b,0)=(xa,xb,0)

であるため、L1L_1とL2L_2は左イデアルであり、

0⊊L1⊊L2⊊T0\subsetneq L_1\subsetneq L_2\subsetneq T

となる。

L1L_1の非零元(a,0,0)(a,0,0)を取る。a≠0a\neq0であるから、左から(a−1,0,0)(a^{-1},0,0)を掛けると(1,0,0)(1,0,0)を得る。さらに(x,0,0)(1,0,0)=(x,0,0)(x,0,0)(1,0,0)=(x,0,0)であるため、非零元を含むL1L_1の左部分加群はL1L_1全体である。よってL1L_1は単純である。

J:={(0,b,0)∣b∈K}J:=\{(0,b,0)\mid b\in K\}と置く。写像

J⟶L2/L1,(0,b,0)⟼(0,b,0)+L1J\longrightarrow L_2/L_1, \qquad (0,b,0)\longmapsto(0,b,0)+L_1

は同型である。JJの非零元(0,b,0)(0,b,0)に左から(b−1,0,0)(b^{-1},0,0)を掛けると(0,1,0)(0,1,0)を得て、(x,0,0)(0,1,0)=(0,x,0)(x,0,0)(0,1,0)=(0,x,0)であるため、JJは単純である。したがってL2/L1L_2/L_1も単純である。

最後に

T/L2⟶k,(a,b,c)+L2⟼cT/L_2\longrightarrow k, \qquad (a,b,c)+L_2\longmapsto c

は加法群の同型であり、左から(x,y,z)∈T(x,y,z)\in Tを掛ける作用をkk上の乗法c↦zcc\mapsto zcへ移す。kkのこの加群構造における非零部分加群は、非零元ccと任意のz∈kz\in kからすべてのzczcを含むためkk全体である。よってT/L2T/L_2は単純である。以上により表示した列はTT{}_TTの組成列であり、ℓT(TT)=3\ell_T({}_TT)=3である。定理 4.3からTTは左 Noether 環かつ左 Artin 環である。

右側を調べる。任意のkk線形部分空間W⊆KW\subseteq Kに対して

IW:={(0,w,0)∣w∈W}I_W:=\{(0,w,0)\mid w\in W\}

と置く。w∈Ww\in Wと(a,b,c)∈T(a,b,c)\in Tに対して

(0,w,0)(a,b,c)=(0,wc,0)(0,w,0)(a,b,c)=(0,wc,0)

であり、c∈kc\in kからwc∈Wwc\in Wとなる。加法についても閉じているため、IWI_WはTTの右イデアルである。またIW⊆IW′I_W\subseteq I_{W'}とW⊆W′W\subseteq W'は同値である。

KKのkk線形部分空間

Wn:=span⁡k{1,t,…,tn}W_n:=\operatorname{span}_k\{1,t,\ldots,t^n\}

を取る。ttはkk上超越的であるためtn+1∉Wnt^{n+1}\notin W_nであり、

IW0⊊IW1⊊IW2⊊⋯I_{W_0}\subsetneq I_{W_1}\subsetneq I_{W_2}\subsetneq\cdots

は右イデアルの停止しない真の昇鎖である。次に

Un:=span⁡k{tn,tn+1,tn+2,…}=tnk[t]U_n:=\operatorname{span}_k\{t^n,t^{n+1},t^{n+2},\ldots\} =t^nk[t]

と置く。tn∉Un+1t^n\notin U_{n+1}であるため、

IU0⊋IU1⊋IU2⊋⋯I_{U_0}\supsetneq I_{U_1}\supsetneq I_{U_2}\supsetneq\cdots

は右イデアルの停止しない真の降鎖である。したがってTTT_Tは Noether 加群でも Artin 加群でもない。▨

10 演習

問題 10.1 (鎖条件と有限長の確認). 次の各問に答えよ。

  1. Noether 加群について、昇鎖条件、空でない部分加群族の極大元条件および全部分加群の有限生成性が同値であることを証明せよ。
  2. 短完全列0→A→B→C→00\to A\to B\to C\to0について、Noether 性と Artin 性のそれぞれでBBが条件を満たすこととA,CA,Cがともに条件を満たすことが同値であると証明せよ。
  3. 有限長、Noether 性かつ Artin 性、および組成列の存在が同値であることを証明せよ。零加群の長さが00であることと、非零加群が単純であることと長さが11であることの同値も示せ。
  4. 二つの極大部分加群A,B⊊MA,B\subsetneq Mが異なるとき、A+B=MA+B=Mであることと A/(A∩B)≅M/B,B/(A∩B)≅M/AA/(A\cap B)\cong M/B, \qquad B/(A\cap B)\cong M/A を証明せよ。この菱形と長さに関する帰納法を用いて、加群の Jordan–Hölder の定理を再構成せよ。
  5. 短完全列0→A→B→C→00\to A\to B\to C\to0でAAとCCが有限長であるとき、AAとCCの組成列からBBの組成列を構成し、ℓR(B)=ℓR(A)+ℓR(C)\ell_R(B)=\ell_R(A)+\ell_R(C)を証明せよ。
  6. nn次元kk線形空間の長さがnnであることと、Z\mathbb Zが NoetherZ\mathbb Z加群であるが ArtinZ\mathbb Z加群でないことを証明せよ。
  7. K=k(t)K=k(t)と本文の上三角行列環TTに対して、左正則加群の長さ33の組成列を構成せよ。また、右イデアルの停止しない真の昇鎖と降鎖を構成し、反対環による移行と結び付けて左右の鎖条件が一致しないことを説明せよ。
解答 (演習の解答).
  1. 昇鎖条件を仮定し、極大元をもたない空でない族から真に増大する部分加群を順に選ぶと、停止しない昇鎖が生じる。極大元条件を仮定し、NNの有限生成部分加群族の極大元をLLとすると、x∈N∖Lx\in N\setminus Lが存在する場合にL+RxL+RxがLLより大きな有限生成部分加群となるため、L=NL=Nである。全部分加群が有限生成であるとし、昇鎖の和集合をNNと置く。有限個の生成元がすべて属する段階を取れば、その段階で昇鎖が停止する。
  2. BBが鎖条件を満たす場合、AAの鎖は単射による像としてBBへ移り、CCの鎖は全射による逆像としてBBへ移る。逆にA,CA,Cが条件を満たすとする。BBの鎖について、AAとの共通部分とCCにおける像が停止した後、同じ像をもつ元の差が共通部分に属することを用いれば、中央の鎖も停止する。
  3. 長さに有限上界があれば、停止しない昇鎖または降鎖から任意に長い真の昇鎖を作ることができるため、両鎖条件が成り立つ。Noether 性から各非零部分加群に極大真部分加群を取り、Artin 性によって降下を有限段階で停止させると組成列を得る。組成列があれば、最上部の単純商への像とその核との共通部分を追跡する帰納法により、任意の真の昇鎖の長さは組成因子数以下である。零加群には0=N00=N_0という長さ00の鎖だけが存在するため、ℓR(0)=0\ell_R(0)=0である。単純加群では0⊊M0\subsetneq Mが組成列であり、長さ11の加群に非零真部分加群が存在すれば長さ22の鎖が生じる。
  4. B⊆AB\subseteq AならばBBの極大性からA=BA=Bとなるため、B⊈AB\nsubseteq Aである。よってA⊊A+BA\subsetneq A+Bであり、AAの極大性からA+B=MA+B=Mとなる。部分加群の第二同型定理をA,BA,Bへ適用すると二つの商同型を得る。L=A∩BL=A\cap Bの組成列へAAまたはBBを加え、A/L≅M/BA/L\cong M/BとB/L≅M/AB/L\cong M/Aを用いる。AAとBBの長さはMMより小さいため、帰納法によって二つの組成列の因子が重複度を含めて一致する。
  5. AAをBBの部分加群と同一視し、AAの組成列の後へp−1(Cj)p^{-1}(C_j)を並べる。商p−1(Cj)/p−1(Cj−1)p^{-1}(C_j)/p^{-1}(C_{j-1})はCj/Cj−1C_j/C_{j-1}と同型である。得られる列はBBの組成列であり、その因子数は両端の因子数の和である。Jordan–Hölder の定理から長さの加法性が従う。逆向きの有限長の保存は、有限長と両鎖条件との同値、および両鎖条件の短完全列に沿う保存から従う。
  6. 基底v1,…,vnv_1,\ldots,v_nに対する部分空間0⊊kv1⊊⋯⊊V0\subsetneq kv_1\subsetneq\cdots\subsetneq Vは、一次元の単純因子をnn個もつ組成列である。Z\mathbb Zの非零部分加群は最小正整数と除法を用いてdZd\mathbb Zと表すことができるため、Z\mathbb Zは Noether 加群である。降鎖Z⊋2Z⊋4Z⊋⋯\mathbb Z\supsetneq2\mathbb Z\supsetneq4\mathbb Z\supsetneq\cdotsは停止しない。
  7. 本文のL1,L2L_1,L_2によって0⊊L1⊊L2⊊T0\subsetneq L_1\subsetneq L_2\subsetneq Tは単純因子を三つもつ組成列になる。kk線形部分空間W⊆KW\subseteq Kから作るIWI_Wは右イデアルであり、span⁡k{1,t,…,tn}\operatorname{span}_k\{1,t,\ldots,t^n\}は真の昇鎖を、tnk[t]t^nk[t]は真の降鎖を与える。右TT部分加群は左TopT^{\mathrm{op}}部分加群と同じ集合であるため、反対環は左右の相違を左加群の鎖条件の相違として表す。

▨

11 仮定と後続範囲の境界

本記事では、一般の単位的結合環上で鎖条件、組成列および有限長を扱い、左加群に関する結果から反対環を用いて右加群に関する結果を導いた。

直既約加群、Fitting の補題、有限長加群の Krull–Schmidt の定理、および有限次体拡大に対する Noether–Deuring 型の同型判定は、後続の「直既約加群と Krull–Schmidt の定理」で扱う。可換 Noether 環のイデアル論、Hilbert 基底定理、および Noether 環上の有限生成加群の構造は、「Noether 環と有限生成性」に委ねる。

可換 Artin 環の構造と局所環への分解は、「可換 Artin 環とその加群」に委ねる。半単純加群、単純加群の直和分解および半単純環の特徴づけは、「半単純加群・半単純環」に委ねる。射影分解、Ext および Tor は、本単元の「ホモロジー代数入門」で扱う。入射分解および抽象的な導来関手は、後続単元で扱う。

参考文献

  1. T. Y. Lam, A First Course in Noncommutative Rings, 2nd ed., Graduate Texts in Mathematics, Springer, New York, 2001.左右 Noether・Artin 条件、正則加群および上三角行列環の例を参考にした。
  2. Frank W. Anderson and Kent R. Fuller, Rings and Categories of Modules, 2nd ed., Graduate Texts in Mathematics, Springer, 1992.加群の鎖条件、有限長、組成列および短完全列に関する保存則を参考にした。
  3. Joseph J. Rotman, An Introduction to Homological Algebra, 2nd ed., Universitext, Springer, 2009.加群の Jordan–Hölder の定理と組成長の加法性を参考にした。

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