§E6.19本質拡大と入射包絡

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任意の加群を入射加群へ単射することができる。しかし、埋め込み先は一意に定まらない。たとえば、整数加群の入射加群への包含Z⊆Q\Z\subseteq\Qから、非零の入射直和因子を加えた単射Z→Q⊕Q\Z\to\Q\oplus\Q、n↦(n,0)n\mapsto(n,0)も得られる。したがって、もとの加群を含むために必要な部分と、取り除くことのできる余分な部分とを区別する条件が要る。

この余分を排除する概念が本質拡大である。埋め込まれた加群が周囲のすべての非零部分加群と非自明に交わるとき、周囲にはもとの加群から完全に離れた部分が残らない。たとえば、整数加群の包含Z⊆Q\Z\subseteq\Qでは、Q\Qの任意の非零部分加群がZ\Zと非自明に交わる。本質拡大である入射加群を入射包絡と呼ぶ。この本質性によって、入射包絡はもとの加群を含む入射加群として極小になり、同型を除いて一意に定まる。

加群と、その後に現れる各余核の入射包絡を順に取ると、極小入射分解を構成することができる。

本記事では、本質拡大を用いて入射包絡を構成し、その基本的な特徴と代表例を解説する。

1 本質的部分加群

定義 1.1.RRを単位元をもつ結合環、MMを左RR-加群、N⊆MN\subseteq Mを部分加群とする。任意の非零部分加群L⊆ML\subseteq Mに対してL∩N≠0L\cap N\ne0が成り立つとき、NNはMMの本質的部分加群 (essential submodule) であるという。

左RR-加群の単射i ⁣:N→Mi\colon N\to Mの像がMMの本質的部分加群であるとき、iiを本質拡大 (essential extension) という。さらにiiが全射でないとき、iiを真の本質拡大という。

命題 1.2.RRを単位元をもつ結合環、MMを左RR-加群、N⊆MN\subseteq Mを部分加群とする。次の三条件は同値である。

  1. NNはMMの本質的部分加群である。
  2. 任意のx∈M∖{0}x\in M\setminus\{0\}に対して、rx∈N∖{0}rx\in N\setminus\{0\}となるr∈Rr\in Rが存在する。
  3. 任意の左RR-加群XXとRR-線形写像f ⁣:M→Xf\colon M\to Xに対して、制限f∣Nf|_Nが単射ならばffも単射である。

証明.条件 (a)⇒\Rightarrow(b)を示す。x∈M∖{0}x\in M\setminus\{0\}に対して部分加群RxRxは非零なので、Rx∩NRx\cap Nの非零元を取ればよい。

条件 (b)⇒\Rightarrow(a)を示す。非零部分加群L⊆ML\subseteq Mの非零元xxを取り、rx∈N∖{0}rx\in N\setminus\{0\}となるr∈Rr\in Rを選ぶ。rx∈L∩Nrx\in L\cap NなのでL∩N≠0L\cap N\ne0である。

条件 (a)⇒\Rightarrow(c)を示す。f∣Nf|_Nが単射ならばker⁡f∩N=0\ker f\cap N=0である。NNの本質性からker⁡f=0\ker f=0となるので、ffは単射である。

条件 (c)⇒\Rightarrow(a)を示す。L⊆ML\subseteq MがL∩N=0L\cap N=0を満たす部分加群ならば、商写像q ⁣:M→M/Lq\colon M\to M/LのNNへの制限は単射である。仮定からqqは単射なので、L=ker⁡q=0L=\ker q=0である。▨

命題 1.3.RRを単位元をもつ結合環とする。

  1. 左RR-加群の部分加群列A⊆B⊆MA\subseteq B\subseteq Mにおいて、AAがBBで本質的であり、BBがMMで本質的であるならば、AAはMMで本質的である。
  2. 左RR-加群MMの本質的部分加群の有限族(Ni)i∈I(N_i)_{i\in I}に対して、⋂i∈INi\bigcap_{i\in I}N_iはMMで本質的である。空の共通部分はMMとする。
  3. 左RR-加群の線形写像f ⁣:M→Xf\colon M\to XとXXの本質的部分加群NNに対して、f−1(N)f^{-1}(N)はMMで本質的である。
  4. 有限集合IIで添字づけられた左RR-加群の族(Mi)i∈I(M_i)_{i\in I}と本質的部分加群Ni⊆MiN_i\subseteq M_iに対して、⨁i∈INi\bigoplus_{i\in I}N_iは⨁i∈IMi\bigoplus_{i\in I}M_iで本質的である。

証明.(1)を示す。非零部分加群L⊆ML\subseteq Mに対してL∩B≠0L\cap B\ne0であり、AAの本質性から(L∩B)∩A≠0(L\cap B)\cap A\ne0となる。A⊆BA\subseteq BなのでL∩A≠0L\cap A\ne0である。

(2)を示す。N1,N2⊆MN_1,N_2\subseteq Mが本質的であり、L⊆ML\subseteq Mが非零部分加群ならば、L∩N1≠0L\cap N_1\ne0である。N2N_2の本質性から(L∩N1)∩N2≠0(L\cap N_1)\cap N_2\ne0となるので、N1∩N2N_1\cap N_2は本質的である。有限族については帰納法で従う。空の共通部分MMもMMで本質的である。

(3)を示す。非零部分加群L⊆ML\subseteq Mを取る。f(L)=0f(L)=0ならばL⊆f−1(N)L\subseteq f^{-1}(N)である。f(L)≠0f(L)\ne0ならば、f(L)∩Nf(L)\cap Nの非零元yyと、f(x)=yf(x)=yを満たすx∈Lx\in Lを取る。xxはL∩f−1(N)L\cap f^{-1}(N)の非零元である。したがって、どちらの場合もL∩f−1(N)≠0L\cap f^{-1}(N)\ne0となる。

(4)を示す。座標射影をπi ⁣:⨁j∈IMj→Mi\pi_i\colon\bigoplus_{j\in I}M_j\to M_iとする。(3)により各πi−1(Ni)\pi_i^{-1}(N_i)は本質的であり、有限族について

⨁i∈INi=⋂i∈Iπi−1(Ni)\bigoplus_{i\in I}N_i=\bigcap_{i\in I}\pi_i^{-1}(N_i)

が成り立つ。(2)によって結論を得る。I=∅I=\varnothingの場合にも両辺は零加群である。▨

例 1.4. 各n≥1n\ge1に対して、2nZ2^n\ZはZ\Zの本質的部分加群である。実際、Z\Zの任意の非零部分加群はある非零整数mmによってmZm\Zと書け、

lcm⁡(∣m∣,2n)Z⊆mZ∩2nZ\operatorname{lcm}(|m|,2^n)\Z\subseteq m\Z\cap2^n\Z

の左辺は非零である。

一方、すべての2n2^nで割り切れる整数は零だけなので、

⋂n≥12nZ=0\bigcap_{n\ge1}2^n\Z=0

である。零部分加群と非零部分加群Z\Zの共通部分は零であるため、零部分加群はZ\Zで本質的ではない。したがって、命題 1.3 (2)の有限性を除くことはできない。

補題 1.5.RRを単位元をもつ結合環、MMを左RR-加群、A⊆MA\subseteq Mを部分加群とする。A∩C=0A\cap C=0を満たす部分加群C⊆MC\subseteq Mの集合には、包含関係について極大な元が存在する。そのような任意の極大元CCに対して、内部直和A⊕CA\oplus CはMMの本質的部分加群である。

証明.C={C⊆M:C は部分加群であり A∩C=0}\mathcal C=\{C\subseteq M:C\text{ は部分加群であり }A\cap C=0\}と置く。0∈C0\in\mathcal Cであり、C\mathcal Cの空でない鎖の和集合は部分加群である。この和集合とAAの共通部分の元は、鎖の一つの元とAAの共通部分に属するので零である。したがって和集合はC\mathcal Cに属する。空の鎖には00が上界となるので、Zorn の補題§E1.20 定理 2.1 (3)により極大元CCが存在する。

L⊆ML\subseteq MがL∩(A+C)=0L\cap(A+C)=0を満たす部分加群であるとする。a=c+ℓ∈A∩(C+L)a=c+\ell\in A\cap(C+L)ならば、ℓ=a−c∈L∩(A+C)\ell=a-c\in L\cap(A+C)なのでℓ=0\ell=0であり、a=c∈A∩C=0a=c\in A\cap C=0となる。よってC+L∈CC+L\in\mathcal Cである。CCの極大性からC+L=CC+L=C、したがってL⊆CL\subseteq Cとなる。L∩(A+C)=0L\cap(A+C)=0と合わせるとL=0L=0である。したがってA+C=A⊕CA+C=A\oplus CはMMで本質的である。▨

2 入射性と本質拡大

命題 2.1.RRを単位元をもつ結合環、MMを左RR-加群とする。次の二条件は同値である。

  1. MMは入射加群である。
  2. MMからの任意の本質拡大i ⁣:M→Xi\colon M\to Xは同型である。

証明.条件 (a)⇒\Rightarrow(b)を示す。本質拡大i ⁣:M→Xi\colon M\to Xを取る。§E6.17 命題 1.2 条件 (d)により、X=i(M)⊕CX=i(M)\oplus Cとなる部分加群CCが存在する。C∩i(M)=0C\cap i(M)=0とi(M)i(M)の本質性からC=0C=0である。したがってiiは同型である。

条件 (b)⇒\Rightarrow(a)を示す。MMを部分加群として含む左RR-加群XXを取る。補題 1.5によってM∩C=0M\cap C=0を満たす極大な部分加群C⊆XC\subseteq Xを取り、商写像をq ⁣:X→X/Cq\colon X\to X/Cとする。q∣Mq|_Mは単射である。

L⊆X/CL\subseteq X/CがL∩q(M)=0L\cap q(M)=0を満たす部分加群であるとする。D=q−1(L)D=q^{-1}(L)と置くとC⊆DC\subseteq Dである。m∈D∩Mm\in D\cap Mならばq(m)∈L∩q(M)=0q(m)\in L\cap q(M)=0であり、m∈C∩M=0m\in C\cap M=0となる。CCの極大性からD=CD=Cとなり、L=q(D)=0L=q(D)=0を得る。したがってq(M)q(M)はX/CX/Cで本質的である。

仮定からq∣M ⁣:M→X/Cq|_M\colon M\to X/Cは同型である。任意のx∈Xx\in Xに対してq(x)=q(m)q(x)=q(m)となるm∈Mm\in Mが存在するのでX=M+CX=M+Cである。M∩C=0M\cap C=0だからX=M⊕CX=M\oplus Cとなる。XXは任意なので、§E6.17 命題 1.2 条件 (d)によってMMは入射的である。▨

補題 2.2.RRを単位元をもつ結合環、IIを入射左RR-加群、M⊆IM\subseteq Iを部分加群とする。M⊆H⊆IM\subseteq H\subseteq IであってMMがHHで本質的となる部分加群の集合において、HHが包含関係について極大ならば、HHは入射加群である。

証明.H⊆XH\subseteq Xを本質拡大とする。IIの入射性によって包含写像H→IH\to Iをf ⁣:X→If\colon X\to Iへ延長する。f∣Hf|_Hは単射なので、命題 1.2 条件 (c)によりffは単射である。命題 1.3 (1)によってMMはXXで本質的であり、ffがMM上恒等であることからMMはf(X)f(X)で本質的である。H⊆f(X)⊆IH\subseteq f(X)\subseteq IとHHの極大性からf(X)=Hf(X)=Hとなる。

x∈Xx\in Xに対してf(x)∈Hf(x)\in Hであり、ffはHH上恒等なのでf(f(x))=f(x)f(f(x))=f(x)である。ffの単射性からx=f(x)∈Hx=f(x)\in Hとなり、X=HX=Hを得る。したがってHHは真の本質拡大を持たず、命題 2.1により入射的である。▨

3 入射包絡

定義 3.1.RRを単位元をもつ結合環、MMを左RR-加群とする。入射左RR-加群EEへの本質拡大i ⁣:M→Ei\colon M\to EをMMの入射包絡 (injective hull) という。入射包絡の終域をE(M)E(M)と書くことがある。

定理 3.2.RRを単位元をもつ結合環とする。任意の左RR-加群は入射包絡を持つ。

証明. 左RR-加群MMを取り、§E6.17 定理 5.4によって入射加群への単射M→IM\to Iを取る。MMをその像と同定し、

E={H⊆I:H は部分加群であり、M⊆H は本質拡大である}\mathcal E=\{H\subseteq I:H\text{ は部分加群であり、}M\subseteq H\text{ は本質拡大である}\}

と置く。M∈EM\in\mathcal Eである。E\mathcal Eの空でない鎖の和集合UUはIIの部分加群である。x∈U∖{0}x\in U\setminus\{0\}はあるH∈EH\in\mathcal Eに属し、命題 1.2 条件 (b)によりrx∈M∖{0}rx\in M\setminus\{0\}となるr∈Rr\in Rが存在する。よってMMはUUで本質的であり、U∈EU\in\mathcal Eとなる。空の鎖にはMMが上界となる。Zorn の補題§E1.20 定理 2.1 (3)による極大元H∈EH\in\mathcal Eは補題 2.2によって入射的なので、M→HM\to Hは入射包絡である。▨

定理 3.3.RRを単位元をもつ結合環、MMを左RR-加群とし、i ⁣:M→Ei\colon M\to Eとi′ ⁣:M→E′i'\colon M\to E'を入射包絡とする。このとき、f∘i=i′f\circ i=i'を満たす左RR-加群の同型f ⁣:E→E′f\colon E\to E'が存在する。

証明.E′E'の入射性によってi′i'をiiに沿ってf ⁣:E→E′f\colon E\to E'へ延長する。ffのi(M)i(M)への制限は単射なので、命題 1.2 条件 (c)によりffは単射である。EEは入射的であるから、§E6.17 命題 1.2 条件 (d)によりE′=f(E)⊕CE'=f(E)\oplus Cとなる部分加群CCが存在する。i′(M)⊆f(E)i'(M)\subseteq f(E)なのでC∩i′(M)=0C\cap i'(M)=0であり、i′(M)i'(M)の本質性からC=0C=0となる。よってffは同型である。▨

命題 3.4.RRを単位元をもつ結合環、EEを左RR-加群、M⊆EM\subseteq Eを部分加群とする。次の三条件は同値である。

  1. EEは入射的であり、MMはEEで本質的である。
  2. EEは入射的であり、M⊆J⊆EM\subseteq J\subseteq Eを満たす入射部分加群JJはEEに限られる。
  3. MMはEEで本質的であり、任意の左RR-加群XXと単射j ⁣:E→Xj\colon E\to Xに対して、j(M)j(M)がXXで本質的ならばjjは同型である。

証明.条件 (a)⇒\Rightarrow(b)を示す。M⊆J⊆EM\subseteq J\subseteq Eを満たす入射部分加群JJを取る。§E6.17 命題 1.2 条件 (d)によりE=J⊕CE=J\oplus Cと書くと、C∩M=0C\cap M=0である。MMの本質性からC=0C=0となり、J=EJ=Eを得る。

条件 (b)⇒\Rightarrow(a)を示す。定理 3.2によって入射包絡i ⁣:M→Hi\colon M\to Hを取り、EEの入射性によって包含写像M→EM\to Eをf ⁣:H→Ef\colon H\to Eへ延長する。命題 1.2 条件 (c)によりffは単射なので、f(H)f(H)はMMを含む入射部分加群である。仮定からf(H)=Ef(H)=Eとなる。i(M)i(M)はHHで本質的なので、同型ffによってMMはEEで本質的である。

条件 (a)⇒\Rightarrow(c)を示す。単射j ⁣:E→Xj\colon E\to Xに対してj(M)j(M)がXXで本質的であるとする。j(M)⊆j(E)j(M)\subseteq j(E)なのでj(E)j(E)もXXで本質的であり、jjは本質拡大である。EEの入射性と命題 2.1からjjは同型である。

条件 (c)⇒\Rightarrow(a)を示す。本質拡大j ⁣:E→Xj\colon E\to Xを取る。命題 1.3 (1)によりj(M)j(M)はXXで本質的なので、仮定からjjは同型である。命題 2.1によってEEは入射的である。▨

4 入射包絡の例

例 4.1.RRを整域、KKをその分数体とする。包含写像R→KR\to Kは入射包絡である。実際、KKは§E6.17 命題 3.6によって入射RR-加群である。非零元a/b∈Ka/b\in Kに対してb(a/b)=a∈R∖{0}b(a/b)=a\in R\setminus\{0\}なので、命題 1.2 条件 (b)によりRRはKKで本質的である。

例 4.2. 整数環Z\Zに例 4.1を適用すると、包含写像Z→Q\Z\to\Qは入射包絡である。したがってE(Z)=QE(\Z)=\Qと取ることができる。

例 4.3.ppを素数、n≥1n\ge1を整数とする。Prüferpp-群Z(p∞)=Z[1/p]/Z\Z(p^\infty)=\Z[1/p]/\Zに対する写像

in ⁣:Z/pnZ⟶Z(p∞),a+pnZ⟼a/pn+Zi_n\colon\Z/p^n\Z\longrightarrow\Z(p^\infty), \qquad a+p^n\Z\longmapsto a/p^n+\Z

は入射包絡である。

加法群準同型Z→Z(p∞)\Z\to\Z(p^\infty)、a↦a/pn+Za\mapsto a/p^n+\Zの核はpnZp^n\Zなので、商への因子化§E6.2 命題 4.3によってini_nは単射準同型として定まる。像は(1pnZ)/Z(\frac1{p^n}\Z)/\Zである。Z(p∞)\Z(p^\infty)の任意の非零元をx=a/pk+Zx=a/p^k+\Z、k≥1k\ge1、p∤ap\nmid aと書くと、pk−1x=a/p+Zp^{k-1}x=a/p+\Zは非零であり、ini_nの像に属する。命題 1.2 条件 (b)によりini_nは本質拡大である。Z(p∞)\Z(p^\infty)は§E6.17 例 3.7によって入射的なので、ini_nは入射包絡である。

例 4.4.例 4.3と同じ素数ppと整数n≥1n\ge1を取り、Z\Z-加群準同型

u ⁣:Z(p∞)⟶Z(p∞),x⟼(1+pn)xu\colon\Z(p^\infty)\longrightarrow\Z(p^\infty), \qquad x\longmapsto(1+p^n)x

を考える。1+pn1+p^nはppと互いに素である。Z(p∞)\Z(p^\infty)の各元は位数がppの冪である有限巡回部分群に属し、Bézout の等式により1+pn1+p^n倍写像はその部分群上で全単射である。したがってuuは自己同型である。

任意のa+pnZ∈Z/pnZa+p^n\Z\in\Z/p^n\Zに対して

u(in(a+pnZ))−in(a+pnZ)=pn(a/pn+Z)=a+Z=0u\bigl(i_n(a+p^n\Z)\bigr)-i_n(a+p^n\Z) =p^n(a/p^n+\Z)=a+\Z=0

なので、u∘in=inu\circ i_n=i_nである。一方、

u(1/pn+1+Z)−(1/pn+1+Z)=1/p+Z≠0u(1/p^{n+1}+\Z)-(1/p^{n+1}+\Z)=1/p+\Z\ne0

であるから、uuは恒等写像ではない。恒等写像とuuはいずれもini_nと両立する。したがって、定理 3.3はもとの加群上で恒等となる同型の存在を述べるが、そのような同型写像の一意性は述べない。

5 極小入射分解と射影被覆

定義 5.1.RRを単位元をもつ結合環、MMを左RR-加群とする。左RR-加群の完全列

0⟶M→d−1I0→d0I1→d1I2⟶⋯0\longrightarrow M\xrightarrow{d^{-1}}I^0\xrightarrow{d^0}I^1 \xrightarrow{d^1}I^2\longrightarrow\cdots

で各InI^nが入射加群であるものを、MMの入射分解 (injective resolution) という。d−1 ⁣:M→I0d^{-1}\colon M\to I^0と、各n≥0n\ge0においてdnd^nが誘導する単射

d‾ n ⁣:In/im⁡dn−1⟶In+1\overline d^{\,n}\colon I^n/\im d^{n-1}\longrightarrow I^{n+1}

がすべて入射包絡であるとき、この入射分解を極小入射分解 (minimal injective resolution) という。

定理 3.2によりMMの入射包絡を取り、各段で余核の入射包絡を取って商写像と合成すれば、合成の核が直前の像に等しいので、任意のMMは極小入射分解を持つ。

定義 5.2.RRを単位元をもつ結合環、PPを左RR-加群とする。部分加群K⊆PK\subseteq Pが小部分加群 (small submodule) であるとは、任意の部分加群L⊆PL\subseteq Pに対して、K+L=PK+L=PならばL=PL=Pとなることをいう。射影左RR-加群PPから左RR-加群MMへの全射π ⁣:P→M\pi\colon P\to Mであってker⁡π\ker\piが小部分加群であるものを、MMの射影被覆 (projective cover) という。

注意 5.3.Z/2Z\Z/2\ZはZ\Z-加群として射影被覆を持たない。射影被覆π ⁣:P→Z/2Z\pi\colon P\to\Z/2\Zが存在すると仮定し、K=ker⁡πK=\ker\piと置く。§E6.16 命題 1.2 (3)によりPPは自由Z\Z-加群の直和因子である。自由Z\Z-加群では非零整数倍が各座標で単射なので、PPにおいても非零整数倍は単射である。

π(x)=1+2Z\pi(x)=1+2\Zとなるx∈Px\in Pを取る。任意のy∈Py\in Pに対してπ(y)=aπ(x)\pi(y)=a\pi(x)となる整数aaが存在し、y−ax∈Ky-ax\in Kとなるので、P=K+ZxP=K+\Z xである。KKが小部分加群であることからP=ZxP=\Z xを得る。x≠0x\ne0であり非零整数倍は単射なので、a↦axa\mapsto axはZ≅P\Z\cong Pを与える。この同型によってKKは2Z2\Zに対応する。しかし2Z+3Z=Z2\Z+3\Z=\Zかつ3Z≠Z3\Z\ne\Zであるから、KKが小部分加群であることに反する。

6 演習

問題 6.1. 写像

j ⁣:Z/6Z⟶Z(2∞)⊕Z(3∞),a+6Z⟼(a/2+Z,a/3+Z)j\colon\Z/6\Z\longrightarrow\Z(2^\infty)\oplus\Z(3^\infty), \qquad a+6\Z\longmapsto(a/2+\Z,a/3+\Z)

が入射包絡であることを示せ。

解答.

準同型a↦(a/2+Z,a/3+Z)a\mapsto(a/2+\Z,a/3+\Z)が零となることは2∣a2\mid aかつ3∣a3\mid aと同値であり、さらに6∣a6\mid aと同値である。したがって商への因子化によってjjは単射準同型として定まる。

A=(12Z)/ZA=(\frac12\Z)/\Z、B=(13Z)/ZB=(\frac13\Z)/\Zと置くとj(Z/6Z)⊆A⊕Bj(\Z/6\Z)\subseteq A\oplus Bである。任意の整数u,vu,vに対してa=3u+4va=3u+4vはa≡u(mod2)a\equiv u\pmod2、a≡v(mod3)a\equiv v\pmod3を満たすので、j(a+6Z)=(u/2+Z,v/3+Z)j(a+6\Z)=(u/2+\Z,v/3+\Z)である。よってj(Z/6Z)=A⊕Bj(\Z/6\Z)=A\oplus Bとなる。

例 4.3によりAAはZ(2∞)\Z(2^\infty)で本質的であり、BBはZ(3∞)\Z(3^\infty)で本質的である。命題 1.3 (4)によってA⊕BA\oplus BはZ(2∞)⊕Z(3∞)\Z(2^\infty)\oplus\Z(3^\infty)で本質的である。二つの Prüfer 群は入射的であり、有限直和は直積に等しいので、§E6.17 命題 1.3 (1)により終域も入射的である。したがってjjは入射包絡である。▨

前提記事