1 点で消える関数のイデアル
命題 1.1.Xを位相空間、x∈Xとする。
Mx:={f∈C(X,R)∣f(x)=0}はC(X,R)の極大イデアルであり、評価写像evxは環同型
C(X,R)/Mx⟶R,f+Mx⟼f(x)を誘導する。
命題 1.2.Xをコンパクト空間、I⊊C(X,R)を真のイデアルとする。このとき、Iに属するすべての関数が零になる点が存在する。すなわち、
f∈I⋂Z(f)=∅である。
証明.X=∅ならばC(X,R)は空写像だけからなる零環であり、真のイデアルをもたない。したがって、仮定からX=∅である。
n∈N≥1とf1,…,fn∈Iをとり、g=∑j=1nfj2とおく。イデアルの性質によりg∈Iであり、実数の平方は非負であるから
Z(g)=j=1⋂nZ(fj)である。この共通部分が空ならば、§E2.16 命題 5.1 (2)により1/g∈C(X,R)である。すると1=g(1/g)∈Iとなり、I=C(X,R)を得るが、これはIが真のイデアルであることに反する。よって、閉集合族(Z(f))f∈Iは有限交差性をもつ。
0∈Iなので添字集合Iは空でなく、§E2.16 命題 4.3 (1)により各Z(f)は閉集合である。Xのコンパクト性と§E2.19 定理 3.2により、⋂f∈IZ(f)=∅である。▨
定理 1.3.Xをコンパクト Hausdorff 空間とする。
- C(X,R)の任意の極大イデアルMに対して、M=Mxを満たすx∈Xが存在する。
- 写像x↦Mxは、XからC(X,R)の極大イデアル全体への全単射である。
証明.(1)を示す。Mは真のイデアルなので、命題 1.2によりx∈⋂f∈MZ(f)をとることができる。このときM⊆Mxであり、命題 1.1によりMxは真のイデアルである。Mの極大性からM=Mxである。
(2)を示す。命題 1.1と(1)により、x↦Mxは極大イデアル全体への全射である。相異なるx,x′∈Xをとる。§E2.19 系 6.12によりXは T3½ 空間であり、§E2.15 命題 1.5により{x′}は閉集合である。§E2.15 定義 1.7 (2)により、f(x)=0、f(x′)=1を満たす連続関数f:X→[0,1]が存在する。fを実数値関数とみなすと、f∈Mxかつf∈/Mx′である。したがってMx=Mx′であり、写像は単射でもある。▨
2 実極大イデアル
定義 2.1 (実極大イデアル).Xを位相空間とする。ある環準同型φ:C(X,R)→Rの核として表されるイデアルを、C(X,R)の 実極大イデアル (real maximal ideal) という。
命題 2.2.Xを位相空間とする。任意の環準同型φ:C(X,R)→Rの核は極大イデアルであり、φはその核から一意に定まる。また、C(X,R)のイデアルMが実極大イデアルであることと、商環C(X,R)/Mが環としてRに同型であることは同値である。
証明.§E2.34 系 1.5により、任意のc∈Rに対してφ(c)=cであるから、φは全射である。§E6.3 定理 6.2によりC(X,R)/kerφ≅Rであり、§E6.4 命題 3.2 (2)によりkerφは極大イデアルである。
ψ:C(X,R)→Rをkerψ=kerφを満たす環準同型とする。任意のf∈C(X,R)に対して、定数関数φ(f)を引けばf−φ(f)∈kerφ=kerψである。ψも実定数を固定するから、
0=ψ(f−φ(f))=ψ(f)−φ(f)である。よってψ=φである。
Mが実極大イデアルならば、M=kerφとなるφに対して既に示した同型を用いればC(X,R)/M≅Rを得る。逆に、環同型α:C(X,R)/M→Rが存在するとする。§E6.3 命題 5.1の商準同型をq:C(X,R)→C(X,R)/Mとすれば、α∘qは環準同型であり、αの単射性からker(α∘q)=kerq=Mである。したがってMは実極大イデアルである。▨
定理 2.3.Xを実コンパクト空間とする。写像x↦Mxは、XからC(X,R)の実極大イデアル全体への全単射である。
証明. 各x∈Xに対してMx=kerevxであるから、Mxは実極大イデアルである。逆に、実極大イデアルMをとり、M=kerφとなる環準同型φ:C(X,R)→Rをとる。実コンパクト性の定義§E2.34 定義 1.2により、φ=evxとなるx∈Xが存在する。したがってM=Mxであり、写像x↦Mxは全射である。
Mx=Mx′とすると、命題 2.2によりevx=evx′である。Xは T3½ 空間なので、x=x′ならば§E2.15 命題 1.5と§E2.15 定義 1.7 (2)により、f(x)=0、f(x′)=1を満たす実数値連続関数fが存在する。これはevx=evx′に反するからx=x′であり、写像は単射である。▨
系 2.4.Xをコンパクト Hausdorff 空間とする。C(X,R)のすべての極大イデアルは実極大イデアルである。
証明.定理 1.3 (1)により、任意の極大イデアルは、あるx∈Xに対してMx=kerevxと表される。▨
例 2.5.Dを可算無限集合に離散位相を入れた空間とする。有限台関数の集合
I:={f∈C(D,R)∣{d∈D∣f(d)=0} は有限集合である}は、共通零点をもたない真のイデアルである。
実際、零関数はIに属する。f,g∈Iに対してf−gが零でない点はfまたはgが零でない点に限られ、その集合は有限であるからf−g∈Iである。h∈C(D,R)とf∈Iに対してhfが零でない点はfが零でない点に限られるからhf∈Iである。よってIはイデアルである。定数関数1の台は無限集合Dなので1∈/Iであり、Iは真のイデアルである。
各d∈Dに対して、dで値1をとり、他の点で値0をとる関数δdは連続である。実際、任意の開集合の逆像はDの部分集合であり、離散位相では開集合である。δd∈Iかつδd(d)=1なので、dはIの共通零点ではない。したがって⋂f∈IZ(f)=∅である。
3 環同型と極大イデアルの対応
命題 3.1.A、Bを可換環、Φ:A→Bを環同型とする。Bの任意の極大イデアルNに対して、Φ−1(N)はAの極大イデアルである。
証明. 商準同型q:B→B/NとΦの合成q∘Φは全射であり、その核はΦ−1(N)である。§E6.3 命題 6.1と§E6.3 定理 6.2により、Φ−1(N)はイデアルであり、
A/Φ−1(N)≅B/Nである。Nの極大性と§E6.4 命題 3.2 (2)によりB/Nは体なので、同じ特徴づけによりΦ−1(N)は極大イデアルである。▨
命題 3.2.X、Yをコンパクト Hausdorff 空間、Φ:C(X,R)→C(Y,R)を環同型とする。このとき、任意のf∈C(X,R)に対して
Φ(f)=f∘τを満たす同相写像τ:Y→Xが一意に存在する。この写像は、各y∈Yについて
Φ−1(My)=Mτ(y)という極大イデアルの対応によって定まる。
4 演習
問題 4.1.命題 3.2を、極大イデアルの分類から証明せよ。Φと逆同型に対応する写像を構成し、関数の値の一致と点と閉集合の分離を用いて、両写像が互いに逆の連続写像であることを示せ。
解答.
C(∅,R)は零環であり、空でない空間上では定数関数0と1が異なる。したがって、XとYの一方だけが空の場合には環同型Φは存在しない。両方が空の場合は、一意の空写像Y→Xが要求を満たす同相写像である。以下、XとYは空でないとする。
各y∈Yについて、命題 1.1と命題 3.1により、Φ−1(My)はC(X,R)の極大イデアルである。定理 1.3 (2)により
Φ−1(My)=Mτ(y)となる点τ(y)∈Xが一意に存在し、写像τ:Y→Xが定まる。同じ分類を逆同型Ψ:=Φ−1:C(Y,R)→C(X,R)へ適用して、
Ψ−1(Mx)=Mσ(x)(x∈X)により写像σ:X→Yを定める。逆像の合成により
Mτ(σ(x))=Φ−1(Ψ−1(Mx))=Mx,Mσ(τ(y))=Ψ−1(Φ−1(My))=Myである。定理 1.3 (2)の単射性からτ∘σ=idXかつσ∘τ=idYであり、τとσは互いに逆の全単射である。
y∈Yに対し、evy∘Φは環準同型C(X,R)→Rである。§E2.34 系 1.5により、任意のc∈Rに対してΦ(c)(y)=cである。任意のf∈C(X,R)についてf−f(τ(y))∈Mτ(y)=Φ−1(My)なので、
0=Φ(f−f(τ(y)))(y)=Φ(f)(y)−f(τ(y))である。したがってΦ(f)=f∘τである。Ψとσに対してもこの計算を適用すると、任意のg∈C(Y,R)に対してΨ(g)=g∘σを得る。
U⊆Xを開集合、y∈τ−1(U)とする。§E2.19 系 6.12と§E2.15 定義 1.7 (2)により、a(τ(y))=0であり、X∖U上で値1をとる連続関数a:X→[0,1]が存在する。aを実数値関数とみなすとa∘τ=Φ(a)は連続であるから、
V=(a∘τ)−1((−1/2,1/2))はyを含む開集合である。z∈Vならばa(τ(z))=1なのでτ(z)∈Uであり、V⊆τ−1(U)である。したがってτ−1(U)の各点はその集合に含まれる開近傍をもち、τ−1(U)は開集合である。よってτは連続である。Yもコンパクト Hausdorff 空間であり、すべてのg∈C(Y,R)に対してg∘σ=Ψ(g)は連続なので、XとY、τとσを入れ替えた同じ議論によりσも連続である。ゆえにτは同相写像である。
τ′:Y→XもΦ(f)=f∘τ′を満たすとする。各y∈Yについて、
Φ−1(My)={f∈C(X,R)∣f(τ′(y))=0}=Mτ′(y)である。Φ−1(My)=Mτ(y)と定理 1.3 (2)の単射性からτ′(y)=τ(y)を得る。したがってτ′=τである。
逆に、同相写像τ:Y→Xが与えられれば、§E2.12 命題 1.10によりf↦f∘τとg↦g∘τ−1は連続関数環の間の写像を定める。各点ごとの和、積、単位元を保ち、互いに逆であるから、両写像は環同型である。▨