§E6.32Jordan 標準形の存在再訪

最終更新

線形作用素を行列として変形する代わりに、線形空間を多項式環上の加群として分類する。作用素TTは変数xxの作用になり、基底変更による相似は加群同型になる。この翻訳により、PID 上有限生成加群の構造定理から有理標準形が直接得られる。その単因子を素因子の冪へ分解すると、Jordan ブロックが現れる条件も明確になる。

本記事を通じてKKは任意の体、VVは有限次元KK線形空間、T∈End⁡K(V)T\in\operatorname{End}_K(V)とする。特に断らない限り多項式環はK[x]K[x]と書く。作用素多項式には§E3.18 定義 1.1、評価写像の積の保存には§E3.18 定理 1.2、最小多項式には§E3.22 定義 1.1および§E3.22 命題 1.2を用いる。

注意 1 (零空間に関する規約).V=0V=0のとき、TTは零空間のただ一つの自己準同型である。恒等写像IVI_Vも零写像であるため、すべてのp∈K[x]p\in K[x]がp(T)=0p(T)=0を満たす。したがって零化イデアルはK[x]=(1)K[x]=(1)であり、最小多項式を

mT=1m_T=1

とする。零次正方行列の行列式を11とする規約により、特性多項式もχT=1\chi_T=1とする。単因子、初等因子、有理標準形のブロックおよび Jordan ブロックはいずれも空族とする。

1 第1段階:作用素から多項式加群へ

1.1 多項式の作用と加群公理

作用素へ多項式を代入する操作は環の演算を保つ。したがって、その評価をベクトルに作用させると、多項式環上の加群が得られる。

命題 1.1.p∈K[x]p\in K[x]とv∈Vv\in Vに対して

p⋅v:=p(T)vp\mathbin{\cdot}v:=p(T)v

と定めると、VVはK[x]K[x]加群になる。定数多項式a∈Ka\in Kの作用は、もとのスカラー倍avavに一致する。

証明.p,q∈K[x]p,q\in K[x]、v,w∈Vv,w\in Vとする。§E3.18 定理 1.2と各p(T)p(T)のKK線形性により、

(p+q)⋅v=(p+q)(T)v=p(T)v+q(T)v=p⋅v+q⋅v,p⋅(v+w)=p(T)(v+w)=p(T)v+p(T)w=p⋅v+p⋅w,(pq)⋅v=(pq)(T)v=p(T)q(T)v=p⋅(q⋅v),1⋅v=IVv=v\begin{aligned} (p+q)\mathbin{\cdot}v &=(p+q)(T)v=p(T)v+q(T)v =p\mathbin{\cdot}v+q\mathbin{\cdot}v,\\ p\mathbin{\cdot}(v+w) &=p(T)(v+w)=p(T)v+p(T)w =p\mathbin{\cdot}v+p\mathbin{\cdot}w,\\ (pq)\mathbin{\cdot}v &=(pq)(T)v=p(T)q(T)v =p\mathbin{\cdot}(q\mathbin{\cdot}v),\\ 1\mathbin{\cdot}v &=I_Vv=v \end{aligned}

が成り立つ。零多項式の作用も零であるため、K[x]K[x]加群の公理がすべて成り立つ。

定数多項式aaについてa(T)=aIVa(T)=aI_Vであるから、a⋅v=ava\mathbin{\cdot}v=avである。したがって、このK[x]K[x]加群の定数による作用は、与えられたKK線形空間の構造を保つ。▨

この加群をVTV_Tと書く。x⋅v=Tvx\mathbin{\cdot}v=Tvであるため、K[x]K[x]加群VTV_TはTTの作用を失わずに記録する。

1.2 有限生成性とねじれ性

KK基底は、定数多項式だけを用いても全空間を生成する。最小多項式は、すべてのベクトルを同時に零へ送る非零多項式である。

命題 1.2.VTV_Tは有限生成K[x]K[x]加群であり、すべての元がねじれ元である。さらに

Ann⁡K[x](VT):={p∈K[x]:p⋅v=0 for every v∈V}=(mT)\operatorname{Ann}_{K[x]}(V_T) :=\{p\in K[x]:p\mathbin{\cdot}v=0\text{ for every }v\in V\} =(m_T)

が成り立つ。

証明.v1,…,vnv_1,\ldots,v_nをVVのKK基底とする。任意のv∈Vv\in Vは、あるa1,…,an∈Ka_1,\ldots,a_n\in Kによって

v=a1v1+⋯+anvnv=a_1v_1+\cdots+a_nv_n

と書くことができる。各aia_iを定数多項式とみなせば、右辺はK[x]K[x]線形結合である。したがってv1,…,vnv_1,\ldots,v_nはVTV_Tを生成する。V=0V=0の場合には空な基底が零加群を生成する。

V≠0V\neq0とする。§E3.22 命題 1.2によりmT(T)=0m_T(T)=0であり、mTm_Tは非零多項式である。したがって、任意のv∈Vv\in Vについて

mT⋅v=mT(T)v=0m_T\mathbin{\cdot}v=m_T(T)v=0

となり、vvはねじれ元である。V=0V=0の場合にも非零多項式11が唯一のベクトルを零にする。

最後に、ppがVTV_T全体を零にすることはp(T)=0p(T)=0と同値である。最小多項式の定義と割り切り条件から、そのようなpp全体は(mT)(m_T)である。V=0V=0の場合にも両辺はK[x]K[x]に等しい。▨

1.3 構造定理の適用

K[x]K[x]は Euclid 整域であり、特に PID である。したがってVTV_Tには PID 上有限生成加群の構造定理を適用することができる。

定理 1.3.V≠0V\neq0とする。このとき、正の次数をもつモニック多項式

f1∣f2∣⋯∣fsf_1\mid f_2\mid\cdots\mid f_s

がただ一つ存在し、K[x]K[x]加群として

VT≅K[x]/(f1)⊕⋯⊕K[x]/(fs)V_T\cong K[x]/(f_1)\oplus\cdots\oplus K[x]/(f_s)

となる。V=0V=0のときはs=0s=0とし、右辺を空直和とする。

証明.§E6.28 命題 3.1によりK[x]K[x]は PID である。命題 1.2によりVTV_Tは有限生成であるため、§E6.29 定理 14.1を適用すると

VT≅K[x]t⊕K[x]/(a1)⊕⋯⊕K[x]/(as),0≠a1∣⋯∣asV_T\cong K[x]^t\oplus K[x]/(a_1)\oplus\cdots\oplus K[x]/(a_s), \qquad 0\neq a_1\mid\cdots\mid a_s

を得る。各aia_iは非単元である。

t>0t>0なら、自由直和因子の標準基底ベクトルeeは、任意の非零p∈K[x]p\in K[x]に対してpe≠0pe\neq0を満たす。非零多項式で零化されないeeの存在は、VTV_Tのすべての元がねじれ元であることに反する。したがってt=0t=0である。

各aia_iを最高次係数で割ってモニック多項式fif_iに取り替えても、生成するイデアルと商加群は変わらない。非単元であるためdeg⁡fi>0\deg f_i>0である。単元倍を除く単因子の一意性とモニック性により、列f1,…,fsf_1,\ldots,f_sは一意である。零加群については構造定理の空な表示を用いる。▨

このf1,…,fsf_1,\ldots,f_sをTTの単因子または不変因子という。本記事では整除順に並べたモニック多項式として固定する。

2 第1段階:相似と加群同型

相似を与える線形同型は作用素と可換する。この可換条件は、多項式環の作用を保つ条件に等しい。

定理 2.1.V,WV,Wを有限次元KK線形空間とし、T∈End⁡K(V)T\in\operatorname{End}_K(V)、S∈End⁡K(W)S\in\operatorname{End}_K(W)とする。次の条件は同値である。

  1. あるKK線形同型φ:V→W\varphi:V\to Wが存在してφT=Sφ\varphi T=S\varphiとなる。
  2. VTV_TとWSW_SはK[x]K[x]加群として同型である。

証明.(1)⇒\Rightarrow(2)を示す。(1)を仮定する。φT=Sφ\varphi T=S\varphiから次数に関する帰納法によって

φTj=Sjφ\varphi T^j=S^j\varphi

がすべてのj≥0j\geq0について成り立つ。したがって任意のp∈K[x]p\in K[x]とv∈Vv\in Vに対して

φ(p⋅v)=φ(p(T)v)=p(S)φ(v)=p⋅φ(v)\varphi(p\mathbin{\cdot}v) =\varphi(p(T)v) =p(S)\varphi(v) =p\mathbin{\cdot}\varphi(v)

となる。よってφ\varphiはK[x]K[x]線形同型である。

(2)⇒\Rightarrow(1)を示す。(2)を仮定し、K[x]K[x]線形同型をφ:VT→WS\varphi:V_T\to W_Sとする。定数多項式の作用がもとのスカラー倍であるため、φ\varphiはKK線形である。またx⋅v=Tvx\mathbin{\cdot}v=Tvおよびx⋅w=Swx\mathbin{\cdot}w=Swであるから、

φ(Tv)=φ(x⋅v)=x⋅φ(v)=Sφ(v)\varphi(Tv) =\varphi(x\mathbin{\cdot}v) =x\mathbin{\cdot}\varphi(v) =S\varphi(v)

が成り立つ。したがってφT=Sφ\varphi T=S\varphiである。▨

同じ次元の空間に基底を選ぶと、(1)は表現行列が相似であることを意味する。この対応は§E3.4 命題 2.2と§E3.4 定理 2.3による。したがって、作用素の相似類を分類する問題は、加群VTV_Tの同型類を分類する問題に等しい。

3 第1段階:巡回商と同伴行列

単因子表示の各直和因子で、変数xxの作用を具体的な基底によって行列へ戻す。

定義 3.1. 正の次数ddをもつモニック多項式を

f=xd+cd−1xd−1+⋯+c1x+c0f=x^d+c_{d-1}x^{d-1}+\cdots+c_1x+c_0

とする。ffの同伴行列 (companion matrix) を

C(f):=(00⋯0−c010⋯0−c101⋱0−c2⋮⋱⋱⋮⋮0⋯01−cd−1)∈Mat⁡d×d(K)C(f):= \begin{pmatrix} 0&0&\cdots&0&-c_0\\ 1&0&\cdots&0&-c_1\\ 0&1&\ddots&0&-c_2\\ \vdots&\ddots&\ddots&\vdots&\vdots\\ 0&\cdots&0&1&-c_{d-1} \end{pmatrix} \in\operatorname{Mat}_{d\times d}(K)

と定める。d=1d=1の場合にはC(f)=(−c0)C(f)=(-c_0)である。

行列の第jj列は第jj基底ベクトルの像の座標であるという列ベクトル規約を用いている。したがって、11は副対角成分に並び、係数の負号は最終列に現れる。

命題 3.2.f∈K[x]f\in K[x]を正の次数ddをもつモニック多項式とする。剰余類を上線で表すと、

1‾,x‾,…,xd−1‾\overline{1},\overline{x},\ldots,\overline{x^{d-1}}

はK[x]/(f)K[x]/(f)のKK基底である。この基底に関して、xx倍写像

μx:K[x]/(f)⟶K[x]/(f),g‾⟼xg‾\mu_x:K[x]/(f)\longrightarrow K[x]/(f), \qquad \overline{g}\longmapsto\overline{xg}

の表現行列はC(f)C(f)である。

証明.§E6.28 定理 2.1により、任意のg∈K[x]g\in K[x]は

g=qf+r,deg⁡r<dg=qf+r, \qquad \deg r<d

とただ一通りに書くことができる。したがって1‾,x‾,…,xd−1‾\overline{1},\overline{x},\ldots,\overline{x^{d-1}}は商を生成する。これらのKK線形結合が零なら、その次数がdd未満の多項式はffの倍数であるため零である。よって、この族は基底である。

0≤j<d−10\leq j<d-1について

μx(xj‾)=xj+1‾\mu_x(\overline{x^j})=\overline{x^{j+1}}

である。一方、商ではf‾=0\overline f=0であるため、

μx(xd−1‾)=xd‾=−c01‾−c1x‾−⋯−cd−1xd−1‾\mu_x(\overline{x^{d-1}}) =\overline{x^d} =-c_0\overline1-c_1\overline x-\cdots-c_{d-1}\overline{x^{d-1}}

となる。各基底ベクトルの像の座標を列に並べると、最初のd−1d-1列には副対角成分の11が現れ、最後の列は

(−c0,−c1,…,−cd−1)T(-c_0,-c_1,\ldots,-c_{d-1})^{\mathsf T}

となる。得られた表現行列がC(f)C(f)である。▨

注意 3.3 (同伴行列の規約).§E3.24 定義 1.1でも同伴行列を導入した。本記事では加群の元を列座標で表し、左から表現行列を掛ける規約を明記した。転置した同伴行列を用いる文献もあるため、副対角成分と最終列の位置を定義から確認する必要がある。

4 第1段階:有理標準形

単因子表示の加群同型を各巡回商の標準基底へ移すと、作用素の表現行列は同伴行列のブロック対角行列になる。

定義 4.1. 正の次数をもつモニック多項式の整除列

f1∣⋯∣fsf_1\mid\cdots\mid f_s

に対して、ブロック対角行列

C(f1)⊕⋯⊕C(fs)C(f_1)\oplus\cdots\oplus C(f_s)

を、この単因子列に対応する有理標準形 (rational canonical form) という。空な単因子列に対応する有理標準形は零次正方行列とする。

定理 4.2. 有限次元KK線形空間上の任意の自己準同型TTは、ある基底に関して

C(f1)⊕⋯⊕C(fs),f1∣⋯∣fsC(f_1)\oplus\cdots\oplus C(f_s), \qquad f_1\mid\cdots\mid f_s

という表現行列をもつ。ここでf1,…,fsf_1,\ldots,f_sはTTのモニック単因子である。この形は、ブロックを整除順に並べると一意である。

証明.定理 1.3により、K[x]K[x]加群同型

Φ:VT⟶K[x]/(f1)⊕⋯⊕K[x]/(fs)\Phi:V_T\longrightarrow K[x]/(f_1)\oplus\cdots\oplus K[x]/(f_s)

が存在する。右辺の各直和因子に命題 3.2の基底を取り、それらを順に連結して直和のKK基底とする。その逆像はVVのKK基底である。K[x]K[x]線形性により

Φ(Tv)=Φ(x⋅v)=x⋅Φ(v)\Phi(Tv)=\Phi(x\mathbin{\cdot}v) =x\mathbin{\cdot}\Phi(v)

である。右辺でxxは各直和因子を保ち、その表現行列はC(fi)C(f_i)である。したがって、逆像基底に関するTTの表現行列は

C(f1)⊕⋯⊕C(fs)C(f_1)\oplus\cdots\oplus C(f_s)

となる。

同じ作用素が二つの整除順の有理標準形をもつと仮定する。二つの行列は同じ作用素の表現行列であるから相似であり、定理 2.1により対応するK[x]K[x]加群は同型である。§E6.29 定理 14.1の単因子の一意性から、二つの単因子列は単元倍を除いて一致する。すべての単因子をモニックに選んでいるため、対応する多項式は一致する。よって整除順のブロック列も一意である。

V=0V=0の場合には空な基底と空な単因子列を用い、零次正方行列が唯一の表現行列になる。▨

注意 4.3 (既習の有理標準形との関係).§E3.24 定理 4.1は線形代数における有理標準形の記述を与えた。本記事の存在証明と一意性証明はその結果を用いず、PID 上有限生成加群の構造定理から改めて導いた。

5 第2段階:単因子と二つの多項式

有理標準形の各ブロックについて、最小多項式を加群の零化イデアルから求める。その後に最小多項式が特性多項式を割ることと次数を用いると、行列式を展開せずに同伴行列の特性多項式が得られる。

命題 5.1.f∈K[x]f\in K[x]を次数d>0d>0のモニック多項式とし、μx\mu_xをK[x]/(f)K[x]/(f)上のxx倍写像とする。このとき

mμx=f,χμx=fm_{\mu_x}=f, \qquad \chi_{\mu_x}=f

が成り立つ。したがってC(f)C(f)の最小多項式と特性多項式はいずれもffである。

証明.p∈K[x]p\in K[x]とする。p(μx)p(\mu_x)は剰余類へのpp倍写像である。実際、xxについては定義から成り立ち、多項式の和と積を用いると一般のppについて成り立つ。したがって、p(μx)=0p(\mu_x)=0なら

p‾=p(μx)(1‾)=0\overline p =p(\mu_x)(\overline1) =0

であるからf∣pf\mid pである。逆にf∣pf\mid pなら、すべてのg‾∈K[x]/(f)\overline g\in K[x]/(f)について

p(μx)(g‾)=pg‾=0p(\mu_x)(\overline g)=\overline{pg}=0

となる。よってμx\mu_xの零化イデアルは(f)(f)である。ffはモニックであるため、最小多項式の定義からmμx=fm_{\mu_x}=fを得る。

§E3.22 系 1.3により

f=mμx∣χμxf=m_{\mu_x}\mid\chi_{\mu_x}

である。命題 3.2によりK[x]/(f)K[x]/(f)の次元はddであるから、χμx\chi_{\mu_x}は次数ddのモニック多項式である。ffも次数ddのモニック多項式であるため、整除関係からχμx=f\chi_{\mu_x}=fとなる。最後の主張は、C(f)C(f)がμx\mu_xの表現行列であることから従う。▨

この証明は同伴行列の特性多項式を前提にしていない。最小多項式を商加群から直接計算し、線形代数で既に証明した最小多項式と特性多項式の整除関係だけを用いている。

定理 5.2.V≠0V\neq0とし、f1∣⋯∣fsf_1\mid\cdots\mid f_sをTTのモニック単因子とする。このとき

χT=∏i=1sfi,mT=fs\chi_T=\prod_{i=1}^s f_i, \qquad m_T=f_s

が成り立つ。V=0V=0のときは、空積と零空間の規約により

χT=mT=1\chi_T=m_T=1

である。

証明.V≠0V\neq0とする。定理 4.2により、ある基底に関するTTの表現行列は

C(f1)⊕⋯⊕C(fs)C(f_1)\oplus\cdots\oplus C(f_s)

である。ブロック対角行列の特性行列もブロック対角であり、行列式は各ブロックの行列式の積になる。命題 5.1により各ブロックの特性多項式はfif_iであるから、

χT=∏i=1sfi\chi_T=\prod_{i=1}^s f_i

を得る。

多項式p∈K[x]p\in K[x]がTTを零化することは、有理標準形のすべてのブロックを零化することと同値である。命題 5.1の零化イデアルの計算により、ブロック零化条件は

fi∣p(1≤i≤s)f_i\mid p \qquad(1\leq i\leq s)

と同値である。整除列f1∣⋯∣fsf_1\mid\cdots\mid f_sにより、すべての条件はfs∣pf_s\mid pという一つの条件に等しい。したがってTTの零化イデアルは(fs)(f_s)であり、fsf_sはモニックであるからmT=fsm_T=f_sとなる。

V=0V=0の場合には単因子族が空であるため、特性多項式の式の右辺は空積11である。最小多項式については注意 1によりmT=1m_T=1である。▨

単因子の最大の要素は、作用素全体を零化するために必要なすべての素因子と最大の指数を同時に記録する。一方、特性多項式はすべての単因子を重複度とともに掛け合わせたものである。

6 第2段階:初等因子

単因子を既約多項式の冪へ分解すると、各巡回商は中国剰余定理によってさらに直和分解する。

定義 6.1.TTの各モニック単因子を

fi=∏qqei,qf_i=\prod_{q}q^{e_{i,q}}

とモニック既約多項式へ一意に分解する。ここでei,q>0e_{i,q}>0となる対(i,q)(i,q)だけを残した多重集合

{qei,q:ei,q>0}\left\{q^{e_{i,q}}:e_{i,q}>0\right\}

をTTの初等因子 (elementary divisor of an operator) の多重集合という。V=0V=0の初等因子は空族とする。

定理 6.2.TTの初等因子を重複を保ってq1e1,…,qrerq_1^{e_1},\ldots,q_r^{e_r}と書くと、K[x]K[x]加群として

VT≅⨁j=1rK[x]/(qjej)V_T\cong \bigoplus_{j=1}^r K[x]/(q_j^{e_j})

となる。初等因子の多重集合はVTV_Tの同型類、したがってTTの相似類から一意に定まる。

証明.§E6.28 定理 5.1により、各単因子fif_iは相異なるモニック既約多項式の冪の積へ一意に分解する。相異なる既約多項式の冪は互いに素であるため、§E6.29 命題 11.1をR=K[x]R=K[x]に適用すると

K[x]/(fi)≅⨁q:ei,q>0K[x]/(qei,q)K[x]/(f_i) \cong \bigoplus_{q:e_{i,q}>0}K[x]/(q^{e_{i,q}})

を得る。各iiについて得た同型を直和し、定理 1.3の表示へ代入すると、主張の初等因子表示が得られる。

一意性は§E6.29 定理 14.1の初等因子表示の一意性から従う。K[x]K[x]の素元の同伴類にはただ一つのモニック代表があるため、各qjq_jをモニックに選ぶと同伴による曖昧さも消える。▨

単因子表示と初等因子表示は同じ加群を異なる粒度で記述する。単因子は整除列として巡回成分をまとめ、初等因子は既約多項式ごとの一次成分へ分離する。

7 第2段階:一次因子への分解条件

多項式がKK上で一次因子へ分解することを、単にKK上で分解するという。定数多項式11は一次因子の空積であるため、KK上で分解すると定める。

定理 7.1. 次の条件は同値である。

  1. mTm_TはKK上で分解する。
  2. すべての単因子fif_iはKK上で分解する。
  3. すべての初等因子は、あるλ∈K\lambda\in Kとe≥1e\geq1によって(x−λ)e(x-\lambda)^eと書くことができる。
  4. χT\chi_TはKK上で分解する。

V=0V=0の場合にも、空族と空積の規約によって四条件はすべて成り立つ。

証明.(1)⇒\Rightarrow(2)を示す。V≠0V\neq0とする。定理 5.2によりmT=fsm_T=f_sである。各fif_iはfsf_sを割るため、fsf_sが一次因子の積なら、各fif_iの既約因子も一次式である。したがって(2)が従う。

(2)⇒\Rightarrow(1)を示す。反対に(2)なら、特にfs=mTf_s=m_Tが分解するため(1)が従う。

(2)⇔\Leftrightarrow(3)を示す。各fif_iのモニック既約因子の冪が初等因子である。体上のモニック既約多項式が一次式であることは、そのモニック既約多項式があるλ∈K\lambda\in Kに対してx−λx-\lambdaに等しいことと同値である。したがって、すべてのfif_iが分解することと、すべての初等因子が(x−λ)e(x-\lambda)^eの形であることは同値である。よって両条件は同値である。

(2)⇒\Rightarrow(4)を示す。(2)を仮定する。定理 5.2により

χT=∏i=1sfi\chi_T=\prod_{i=1}^s f_i

であるから、χT\chi_Tも一次因子の積である。したがって(4)が成り立つ。

(4)⇒\Rightarrow(1)を示す。反対に(4)を仮定する。同じ定理によりmT=fsm_T=f_sはχT\chi_Tを割る。一次因子の積のモニック約数は、その既約因子がすべて一次式であるため、やはり一次因子の積である。よってmTm_Tは分解し、(1)が成り立つ。

V=0V=0の場合にはmT=χT=1m_T=\chi_T=1であり、単因子と初等因子はいずれも空族である。したがって四条件はすべて成り立つ。▨

この同値は係数体KKの内部だけで述べている。KK上で分解しない多項式に対して体を拡大したり、分解体を構成したりする問題は扱わない。

8 第3段階:一次初等因子と Jordan ブロック

初等因子が(x−λ)e(x-\lambda)^eである巡回商では、y=x−λy=x-\lambdaと置く。yyの冪を降順に並べると、xxの作用は対角成分λ\lambdaと超対角成分11をもつ。

定義 8.1.λ∈K\lambda\in Kとe≥1e\geq1に対して

Je(λ):=(λ10⋯00λ1⋱⋮⋮⋱⋱⋱00⋯0λ10⋯⋯0λ)∈Mat⁡e×e(K)J_e(\lambda):= \begin{pmatrix} \lambda&1&0&\cdots&0\\ 0&\lambda&1&\ddots&\vdots\\ \vdots&\ddots&\ddots&\ddots&0\\ 0&\cdots&0&\lambda&1\\ 0&\cdots&\cdots&0&\lambda \end{pmatrix} \in\operatorname{Mat}_{e\times e}(K)

を固有値λ\lambda、大きさeeのJordan ブロック (Jordan block) という。e=1e=1のときはJ1(λ)=(λ)J_1(\lambda)=(\lambda)である。Jordan ブロックの有限直和をJordan 標準形 (Jordan normal form) といい、零次正方行列を空な Jordan 標準形とする。

命題 8.2.λ∈K\lambda\in K、e≥1e\geq1とし、y=x−λy=x-\lambdaと置く。K[x]/(ye)K[x]/(y^e)の基底

ye−1‾,ye−2‾,…,y‾,1‾\overline{y^{e-1}},\overline{y^{e-2}},\ldots,\overline y,\overline1

に関して、xx倍写像の表現行列はJe(λ)J_e(\lambda)である。

証明. 基底を

b1=ye−1‾,b2=ye−2‾,…,be=1‾b_1=\overline{y^{e-1}}, \quad b_2=\overline{y^{e-2}}, \quad\ldots\quad, b_e=\overline1

と書く。x=λ+yx=\lambda+yであるから、最初の基底ベクトルについて

x⋅b1=λb1+ye‾=λb1x\mathbin{\cdot}b_1 =\lambda b_1+\overline{y^e} =\lambda b_1

となる。2≤j≤e2\leq j\leq eについては

x⋅bj=λbj+y⋅bj=λbj+bj−1x\mathbin{\cdot}b_j =\lambda b_j+y\mathbin{\cdot}b_j =\lambda b_j+b_{j-1}

である。

列ベクトル規約では第jj列がx⋅bjx\mathbin{\cdot}b_jの座標である。第11列には第11行のλ\lambdaだけが現れ、第jj列には第jj行のλ\lambdaと第j−1j-1行の11が現れる。したがって、λ\lambdaは対角成分に並び、11は位置(j−1,j)(j-1,j)、すなわち超対角成分に並ぶ。得られる行列はJe(λ)J_e(\lambda)である。▨

注意 8.3 (Jordan ブロックの規約).§E3.29 定義 1.1の Jordan ブロックも超対角成分を11とする。本記事では、この向きが基底ye−1,…,1y^{e-1},\ldots,1と列ベクトル規約から生じることを明示した。

9 第3段階:Jordan 標準形の存在条件

一次初等因子一つが Jordan ブロック一つに対応する。したがって Jordan 標準形が係数体KK上に存在するための条件は、初等因子の既約多項式がすべて一次式であることである。

定理 9.1.TTがKK上の Jordan 標準形をもつための必要十分条件は、mTm_TがKK上で分解することである。同値に、χT\chi_TがKK上で分解することが必要十分である。

証明.mTm_TがKK上で分解すると仮定する。定理 7.1により、TTの各初等因子は(x−λj)ej(x-\lambda_j)^{e_j}の形である。定理 6.2から

VT≅⨁jK[x]/((x−λj)ej)V_T\cong \bigoplus_jK[x]/\bigl((x-\lambda_j)^{e_j}\bigr)

を得る。各直和因子に命題 8.2の逆順基底を取り、これらを連結して直和の基底とする。加群同型による逆像基底に関するTTの表現行列は

⨁jJej(λj)\bigoplus_jJ_{e_j}(\lambda_j)

である。したがってTTはKK上の Jordan 標準形をもつ。

反対に、ある基底に関するTTの表現行列が Jordan ブロックの直和であると仮定する。Je(λ)J_e(\lambda)の特性行列xIe−Je(λ)xI_e-J_e(\lambda)は対角成分がx−λx-\lambdaである上三角行列なので、

χJe(λ)=(x−λ)e\chi_{J_e(\lambda)}=(x-\lambda)^e

である。ブロック対角行列の特性多項式は各ブロックの特性多項式の積であるため、χT\chi_TはKK上で分解する。定理 7.1によりmTm_TもKK上で分解する。

V=0V=0の場合にはmT=χT=1m_T=\chi_T=1が空積として分解し、空な Jordan 標準形が存在する。▨

定理 9.2.mTm_TがKK上で分解するとする。このときTTの Jordan 標準形に現れる対

(λ,e)(\lambda,e)

の多重集合、すなわち各固有値に属する各ブロックの大きさと個数は一意である。ブロックを並べる順序だけが任意である。

証明.命題 8.2により、一つのブロックJe(λ)J_e(\lambda)が定めるK[x]K[x]加群は

K[x]/((x−λ)e)K[x]/\bigl((x-\lambda)^e\bigr)

と同型である。したがって Jordan 標準形に現れるブロックの多重集合は、対応する作用素加群の初等因子の多重集合に一致する。

二つの Jordan 標準形が同じ作用素を表すなら、二つの行列は相似である。定理 2.1により、それらが定めるK[x]K[x]加群は同型である。定理 6.2により初等因子の多重集合は一意であるため、(x−λ)e(x-\lambda)^eの多重集合も一致する。モニック一次式x−λx-\lambdaからλ\lambdaは一意に定まり、指数からブロックの大きさeeが定まる。よってブロックの順序を除いて Jordan 標準形は一意である。▨

注意 9.3 (分解の一意性定理の到達点). Jordan–Hölder の定理が記録するのは単純組成因子の多重集合であり、拡張の仕方や作用素の相似類は決めない。有限長半単純加群の分解は単純直和因子の多重度を決めるが、非自明な Jordan ブロックに対応するK[x]/((x−λ)e)K[x]/((x-\lambda)^e)はe>1e>1なら半単純でない。Krull–Schmidt の定理は有限長作用素加群の直既約因子を抽象的に一意化するが、その因子を固有値とブロックサイズで表示するところまでは述べない。

PID 上有限生成加群の構造定理は単因子と初等因子を一意にし、本記事は分裂条件の下で初等因子(x−λ)e(x-\lambda)^eを Jordan ブロックJe(λ)J_e(\lambda)へ翻訳する。したがって Jordan 標準形が分類するのは、相似類を決める固有値とブロックサイズの多重集合である。ブロックの順序、Jordan 基底、具体的な基底変換行列は一意でない。また最小多項式が基礎体上で分裂しない場合には Jordan 標準形は存在せず、係数体上で常に存在する有理標準形が単因子を分類データとして用いる。

注意 9.4 (既習の Jordan 標準形との関係).§E3.29 定理 2.1と§E3.29 定理 2.2は線形代数における Jordan 標準形の存在と一意性を述べた。本記事の証明はそれらの結果を前提とせず、PID 上有限生成加群の構造定理と初等因子の一意性から導いた。

9.1 単因子一つと Jordan ブロック一つは対応しない

有理標準形では単因子fif_i一つが同伴行列ブロックC(fi)C(f_i)一つに対応する。Jordan 標準形では初等因子(x−λ)e(x-\lambda)^e一つが Jordan ブロックJe(λ)J_e(\lambda)一つに対応する。この二つの対応を混同してはならない。

命題 9.5. 単因子が

f=∏j=1r(x−λj)ejf=\prod_{j=1}^r(x-\lambda_j)^{e_j}

と相異なる一次式の冪の積に分解するとき、

K[x]/(f)≅⨁j=1rK[x]/((x−λj)ej)K[x]/(f) \cong \bigoplus_{j=1}^rK[x]/\bigl((x-\lambda_j)^{e_j}\bigr)

である。したがって、一つの単因子ffは有理標準形では一つの同伴行列ブロックを与えるが、一般には Jordan 標準形でrr個の Jordan ブロックを与える。

証明.λi≠λj\lambda_i\neq\lambda_jならx−λix-\lambda_iとx−λjx-\lambda_jは互いに素であり、それらの正の冪も互いに素である。§E6.29 命題 11.1により表示された加群同型を得る。左辺では命題 3.2の基底が一つのC(f)C(f)を与え、右辺では命題 8.2の基底がrr個の Jordan ブロックを与える。▨

10 第3段階:例

10.1 実数体上で分解しない回転

例 10.1 (実回転行列と Jordan 標準形の非存在).K=RK=\mathbb Rとし、

A=(0−110)A= \begin{pmatrix} 0&-1\\ 1&0 \end{pmatrix}

を考える。f=x2+1f=x^2+1と置くと、定義 3.1の列規約により

A=C(x2+1)A=C(x^2+1)

である。命題 5.1から

χA=mA=x2+1\chi_A=m_A=x^2+1

となる。x2+1x^2+1はR\mathbb R上で既約であり、一次因子へ分解しない。したがって定理 9.1により、AAはR\mathbb R上の Jordan 標準形をもたない。有理標準形は係数体上で常に存在し、この場合にはAA自身が一つの同伴行列ブロックからなる有理標準形である。

10.2 二つの単因子と三つの Jordan ブロック

例 10.2 (単因子と初等因子の異なる個数). 任意の体KK上で単因子を

f1=x−1,f2=(x−1)2(x−2)f_1=x-1, \qquad f_2=(x-1)^2(x-2)

とする。f1∣f2f_1\mid f_2であるから、これらは単因子の整除列をなす。対応する作用素加群は

VT≅K[x]/(x−1)⊕K[x]/((x−1)2(x−2))V_T\cong K[x]/(x-1) \oplus K[x]/\bigl((x-1)^2(x-2)\bigr)

である。

1≠21\neq2であるためx−1x-1とx−2x-2は互いに素である。中国剰余分解により

K[x]/((x−1)2(x−2))≅K[x]/((x−1)2)⊕K[x]/(x−2)K[x]/\bigl((x-1)^2(x-2)\bigr) \cong K[x]/\bigl((x-1)^2\bigr) \oplus K[x]/(x-2)

となる。したがって初等因子の多重集合は

{x−1,(x−1)2,x−2}\left\{x-1,(x-1)^2,x-2\right\}

であり、Jordan 標準形はブロックの順序を除いて

J1(1)⊕J2(1)⊕J1(2)J_1(1)\oplus J_2(1)\oplus J_1(2)

である。

定理 5.2により

χT=f1f2=(x−1)3(x−2),mT=f2=(x−1)2(x−2)\chi_T=f_1f_2=(x-1)^3(x-2), \qquad m_T=f_2=(x-1)^2(x-2)

となる。単因子は二つであるが Jordan ブロックは三つであり、とくに単因子f2f_2一つがJ2(1)J_2(1)とJ1(2)J_1(2)の二つのブロックを与える。

10.3 冪零作用素

例 10.3 (冪零作用素の初等因子).KKを任意の体とし、

VN≅K[x]/(x2)⊕K[x]/(x3)V_N\cong K[x]/(x^2)\oplus K[x]/(x^3)

とする。単因子はx2∣x3x^2\mid x^3であり、初等因子もx2,x3x^2,x^3である。命題 8.2でλ=0\lambda=0とすると、Jordan 標準形は

J2(0)⊕J3(0)=(0100000000000100000100000)J_2(0)\oplus J_3(0) = \begin{pmatrix} 0&1&0&0&0\\ 0&0&0&0&0\\ 0&0&0&1&0\\ 0&0&0&0&1\\ 0&0&0&0&0 \end{pmatrix}

となる。また

χN=x2x3=x5,mN=x3\chi_N=x^2x^3=x^5, \qquad m_N=x^3

である。よってN3=0N^3=0であるが、N2≠0N^2\neq0である。最大の Jordan ブロックの大きさ33が最小多項式の指数に一致する。

10.4 零空間

例 10.4 (零空間の標準形).V=0V=0では単因子と初等因子はいずれも空族である。有理標準形と Jordan 標準形はいずれも零次正方行列であり、

χT=mT=1\chi_T=m_T=1

である。多項式11は一次因子の空積として分解するため、Jordan 標準形の存在条件も例外なく成り立つ。

11 第4段階:演習

問題 11.1 (多項式加群と標準形の確認). 次の各問に答えよ。

  1. p⋅v=p(T)vp\mathbin{\cdot}v=p(T)vがVVにK[x]K[x]加群の構造を定めることを、和、ベクトルの加法、積および単位元に関する公理をすべて書いて証明せよ。KK基底がK[x]K[x]上の生成系になることと、mTm_Tがすべての元を零化することも示せ。
  2. PID 上有限生成加群の構造定理をVTV_Tに適用したとき、自由階数が零になることを証明せよ。単因子を正の次数をもつモニック多項式の整除列として一意に選ぶことができる理由も述べよ。
  3. T∈End⁡K(V)T\in\operatorname{End}_K(V)とS∈End⁡K(W)S\in\operatorname{End}_K(W)に対し、φT=Sφ\varphi T=S\varphiを満たすKK線形同型φ\varphiが存在することと、VT≅WSV_T\cong W_SがK[x]K[x]加群として成り立つことが同値であると証明せよ。
  4. モニック多項式 f=xd+cd−1xd−1+⋯+c1x+c0f=x^d+c_{d-1}x^{d-1}+\cdots+c_1x+c_0 に対し、K[x]/(f)K[x]/(f)の基底1,x,…,xd−11,x,\ldots,x^{d-1}におけるxx倍写像の各列を計算せよ。その最小多項式と特性多項式がともにffであることも証明せよ。
  5. TTの単因子をf1∣⋯∣fsf_1\mid\cdots\mid f_sとする。χT=∏ifi\chi_T=\prod_i f_iとmT=fsm_T=f_sを証明せよ。V=0V=0の場合にこの二つの式をどのように解釈するかも答えよ。
  6. mTm_TがKK上で分解すること、すべてのfif_iが分解すること、すべての初等因子が(x−λ)e(x-\lambda)^eの形であること、およびχT\chi_Tが分解することが同値であると証明せよ。
  7. y=x−λy=x-\lambdaと置き、K[x]/(ye)K[x]/(y^e)の逆順基底ye−1,…,1y^{e-1},\ldots,1におけるxx倍写像の各列を計算せよ。その計算と初等因子の一意性から、Jordan 標準形の存在条件とブロックの一意性を導け。
  8. 単因子f1=x−1f_1=x-1、f2=(x−1)2(x−2)f_2=(x-1)^2(x-2)をもつ作用素について、初等因子、Jordan ブロック、χT\chi_TおよびmTm_Tを求めよ。この例が「一つの単因子は一つの Jordan ブロックに対応する」という主張への反例になる理由を説明せよ。さらに、実回転行列および零空間について Jordan 標準形の存在条件を確認せよ。
解答 (演習の解答).
  1. §E3.18 定理 1.2とp(T)p(T)の線形性により

    (p+q)⋅v=p⋅v+q⋅v,p⋅(v+w)=p⋅v+p⋅w,(pq)⋅v=p⋅(q⋅v),1⋅v=v\begin{aligned} (p+q)\mathbin{\cdot}v&=p\mathbin{\cdot}v+q\mathbin{\cdot}v,\\ p\mathbin{\cdot}(v+w)&=p\mathbin{\cdot}v+p\mathbin{\cdot}w,\\ (pq)\mathbin{\cdot}v&=p\mathbin{\cdot}(q\mathbin{\cdot}v),\\ 1\mathbin{\cdot}v&=v \end{aligned}

    が成り立つ。これらはK[x]K[x]加群の公理である。KK基底v1,…,vnv_1,\ldots,v_nによる表示v=∑iaiviv=\sum_i a_iv_iは、各ai∈Ka_i\in Kを定数多項式とみなすとK[x]K[x]線形結合でもある。したがって同じ基底がVTV_Tを生成する。またmT(T)=0m_T(T)=0であるため、すべてのvvについてmT⋅v=0m_T\mathbin{\cdot}v=0となる。V=0V=0では空な基底が生成系であり、mT=1m_T=1が零加群を零化する。

  2. 構造定理による表示に自由直和因子K[x]tK[x]^tがあり、t>0t>0であると仮定する。その標準基底ベクトルeeは、K[x]K[x]が整域であるため、どの非零p∈K[x]p\in K[x]に対してもpe≠0pe\neq0を満たす。非零多項式で零化されないeeの存在は、VTV_Tがねじれ加群であることに反する。よってt=0t=0である。残る単因子は非零非単元なので正の次数をもち、最高次係数で割ると同じイデアルを生成するモニック多項式になる。構造定理は単因子を同伴関係まで一意に定め、各同伴類のモニック代表は一つだけであるため、モニック単因子の整除列は一意である。

  3. φT=Sφ\varphi T=S\varphiなら、帰納法によりφTj=Sjφ\varphi T^j=S^j\varphiとなる。よって任意のppに対してφp(T)=p(S)φ\varphi p(T)=p(S)\varphiであり、

    φ(p⋅v)=p⋅φ(v)\varphi(p\mathbin{\cdot}v)=p\mathbin{\cdot}\varphi(v)

    となる。したがってφ\varphiはK[x]K[x]線形同型である。逆にK[x]K[x]線形同型φ\varphiは、任意のa∈Ka\in Kとv∈Vv\in Vに対して

    φ(av)=φ(a⋅v)=a⋅φ(v)=aφ(v)\varphi(av)=\varphi(a\mathbin{\cdot}v) =a\mathbin{\cdot}\varphi(v)=a\varphi(v)

    を満たすためKK線形である。さらに、変数xxの作用を保つことから

    φ(Tv)=φ(x⋅v)=x⋅φ(v)=Sφ(v)\varphi(Tv)=\varphi(x\mathbin{\cdot}v) =x\mathbin{\cdot}\varphi(v)=S\varphi(v)

    を満たす。

  4. 最初のd−1d-1個の基底ベクトルについて

    x⋅xj‾=xj+1‾(0≤j<d−1)x\mathbin{\cdot}\overline{x^j}=\overline{x^{j+1}} \qquad(0\leq j<d-1)

    である。最後の基底ベクトルについて

    x⋅xd−1‾=−c01‾−c1x‾−⋯−cd−1xd−1‾x\mathbin{\cdot}\overline{x^{d-1}} =-c_0\overline1-c_1\overline x-\cdots-c_{d-1}\overline{x^{d-1}}

    となる。したがって列規約の行列は、副対角成分が11、最終列が(−c0,…,−cd−1)T(-c_0,\ldots,-c_{d-1})^{\mathsf T}であるC(f)C(f)である。

    ppがxx倍写像を零化するなら、その1‾\overline1への作用からp‾=0\overline p=0、すなわちf∣pf\mid pを得る。反対にf∣pf\mid pなら、あるh∈K[x]h\in K[x]に対してp=fhp=fhとなり、任意のg‾∈K[x]/(f)\overline g\in K[x]/(f)についてp⋅g‾=fhg‾=0p\mathbin{\cdot}\overline g=\overline{fhg}=0となる。したがって零化イデアルは(f)(f)であり、最小多項式はffである。最小多項式は特性多項式を割り、両者は次数ddのモニック多項式なので、特性多項式もffである。

  5. 有理標準形はC(f1)⊕⋯⊕C(fs)C(f_1)\oplus\cdots\oplus C(f_s)であり、各ブロックの特性多項式はfif_iである。ブロック対角行列の行列式は各ブロックの行列式の積なので

    χT=∏i=1sfi\chi_T=\prod_{i=1}^sf_i

    となる。ppが全ブロックを零化することは、すべてのiiについてfi∣pf_i\mid pとなることと同値である。整除列ではこの条件はfs∣pf_s\mid pと同値なので、零化イデアルは(fs)(f_s)、したがってmT=fsm_T=f_sである。V=0V=0ではs=0s=0とし、特性多項式の式の右辺を空積11と解釈する。最小多項式も零化イデアルK[x]=(1)K[x]=(1)のモニック生成元11である。

  6. mT=fsm_T=f_sであり、各fif_iはfsf_sを割る。したがってmTm_Tが分解すればすべてのfif_iが分解し、逆向きはfsf_sを取れば従う。初等因子は各fif_iのモニック既約因子の冪であるため、すべてのfif_iが分解することは、すべての初等因子が(x−λ)e(x-\lambda)^eの形であることと同値である。またχT=∏ifi\chi_T=\prod_i f_iなので、すべてのfif_iが分解すればχT\chi_Tも分解する。逆にχT\chi_Tが分解すれば、そのモニック約数mTm_Tも分解する。V=0V=0ではmT=χT=1m_T=\chi_T=1を空積とし、単因子族と初等因子族についての全称命題は空虚に成り立つ。

  7. b1=ye−1‾,…,be=1‾b_1=\overline{y^{e-1}},\ldots,b_e=\overline1と置く。x=λ+yx=\lambda+yとye=0y^e=0から

    x⋅b1=λb1,x⋅bj=λbj+bj−1(2≤j≤e)x\mathbin{\cdot}b_1=\lambda b_1, \qquad x\mathbin{\cdot}b_j=\lambda b_j+b_{j-1} \quad(2\leq j\leq e)

    となる。第jj列には第jj行のλ\lambdaと、j≥2j\geq2のとき第j−1j-1行の11が現れるため、表現行列は超対角成分が11であるJe(λ)J_e(\lambda)である。

    mTm_Tが分解すれば、すべての初等因子は(x−λ)e(x-\lambda)^eであり、初等因子表示の各直和因子へこの基底を入れると Jordan 標準形が得られる。反対に Jordan 標準形が存在すれば、その特性多項式は各ブロックの(x−λ)e(x-\lambda)^eの積なので分解し、したがってmTm_Tも分解する。さらに、一つのJe(λ)J_e(\lambda)は一つの初等因子(x−λ)e(x-\lambda)^eに対応する。初等因子の多重集合は加群同型から一意に定まるため、Jordan ブロックの固有値、大きさおよび個数も順序を除いて一意である。

  8. f1f_1から初等因子x−1x-1が一つ、f2f_2から(x−1)2(x-1)^2とx−2x-2が一つずつ得られる。したがって初等因子の多重集合は

    {x−1,(x−1)2,x−2}\{x-1,(x-1)^2,x-2\}

    であり、Jordan ブロックは

    J1(1),J2(1),J1(2)J_1(1),\quad J_2(1),\quad J_1(2)

    である。また

    χT=f1f2=(x−1)3(x−2),mT=f2=(x−1)2(x−2)\chi_T=f_1f_2=(x-1)^3(x-2), \qquad m_T=f_2=(x-1)^2(x-2)

    となる。特に一つの単因子f2f_2は、互いに素な二つの一次素因子の冪を含むため、二つの Jordan ブロックJ2(1)J_2(1)とJ1(2)J_1(2)を与える。

    実回転行列はC(x2+1)C(x^2+1)であり、R\mathbb R上ではmT=x2+1m_T=x^2+1が分解しないため、実 Jordan 標準形をもたない。零空間ではmT=1m_T=1が一次因子の空積として分解し、空な Jordan 標準形が存在する。

▨

12 第4段階:仮定と後続範囲の境界

本記事の分類を支える入力は§E6.29 定理 14.1である。前記事「PID 上有限生成加群の構造定理」は Smith 標準形、単因子表示および初等因子表示の存在と一意性を証明する。本記事はそれらを再証明せず、係数環をK[x]K[x]、対象を有限次元作用素から得られる有限生成ねじれ加群に限定して、線形作用素の標準形へ翻訳する。

作用素多項式、最小多項式、表現行列および基底変更は線形代数 II の結果を入力として用いる。一方、線形代数 II における有理標準形と Jordan 標準形の存在・一意性は比較対象に限り、本記事の証明には用いない。本記事の証明経路は、巡回部分空間や一般固有空間を逐次構成する既習の証明とは別に、PID 上の加群分類を一度適用して単因子と初等因子を得る経路である。

係数体KKは全編で固定する。多項式がKK上で分解しない場合にも有理標準形は存在するが、KK上の Jordan 標準形は存在しない。体拡大、分解体、代数閉包、分離性および Galois 理論は後続単元「体論」が扱う。本記事は分解体を構成せず、体を拡大したときに単因子または Jordan ブロックがどのように変化するかも扱わない。

さらに、本記事は有限次元性から生じる有限生成ねじれK[x]K[x]加群だけを扱う。一般環上の自己準同型の分類、無限生成加群、純完全列、torsion theory、平坦被覆および Mittag–Leffler 加群は後続単元「加群論」などが扱う。本記事の「ねじれ」は PIDK[x]K[x]上で各元が非零多項式により零化されるという意味であり、後続の一般的な torsion theory を前提としない。

参考文献

  1. David S. Dummit and Richard M. Foote, Abstract Algebra, 3rd ed., Wiley, 2004.PID 上有限生成加群の構造定理、単因子、初等因子および有理標準形との対応を参考にした。
  2. Kenneth Hoffman and Ray Kunze, Linear Algebra, 2nd ed., Prentice Hall, Englewood Cliffs, N.J., 1971.巡回部分空間、有理標準形、最小多項式および Jordan 標準形を参考にした。
  3. Steven Roman, Advanced Linear Algebra, 3rd ed., Graduate Texts in Mathematics, Springer, New York, 2008.多項式加群としての線形作用素と標準形の一意性を参考にした。

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