§E6.37鎖ホモトピーと長完全列

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鎖写像は複体の微分と両立するが、成分が異なる二つの鎖写像がホモロジー上でも異なるとは限らない。サイクルの像の差が境界に入れば、その差は境界による商で消え、二つの鎖写像は同じ準同型を誘導する。

鎖ホモトピーは、鎖写像の差を微分を通る二つの項の和として表し、この消失をすべての整数次数で同時に捉える。恒等写像を微分とホモトピーの合成の和として表すことができる二項複体は零複体と鎖ホモトピー同値になる一方、すべてのホモロジーに同型を誘導する鎖写像が鎖ホモトピー同値になるとは限らない。

複体の短完全列にも、各次数の短完全性だけからは読み取ることができない関係がある。連結準同型は、商側のサイクルを中央の複体へ持ち上げ、その境界を部分複体へ戻すことによって、隣り合う次数のホモロジーを一つの長完全列に結ぶ。ほかの次数を零とする二項複体の例では、任意の加群準同型が連結準同型として現れるため、各次数の短完全列が分裂していても、連結準同型が零になるとは限らない。

鎖ホモトピーと連結準同型は、微分と次数間の関係を保って複体を比較するための基本的な道具である。本記事では、単位元をもつ結合環上で整数全体に次数づけられた鎖複体と余鎖複体について、鎖ホモトピーと長完全列の基本的な性質と具体例を解説する。

1 鎖ホモトピー

定義 1.1.RRを単位元をもつ結合環、C,DC,Dを左RR-加群の鎖複体、f,g ⁣:C→Df,g\colon C\to Dを鎖写像とする。左RR-線形写像の族

hn ⁣:Cn⟶Dn+1(n∈Z)h_n\colon C_n\longrightarrow D_{n+1}\qquad(n\in\Z)

であって、すべての整数nnに対して

fn−gn=dn+1D∘hn+hn−1∘dnCf_n-g_n=d_{n+1}^D\circ h_n+h_{n-1}\circ d_n^C

を満たすものを、ffからggへの鎖ホモトピー (chain homotopy) という。このような族が存在するとき、ffとggは鎖ホモトピック (chain homotopic) であるといい、f≃gf\simeq gと書く。

命題 1.2. 左RR-加群の二つの鎖複体C,DC,Dに対し、鎖ホモトピックであるという関係はCCからDDへの鎖写像全体の集合上の同値関係である。また、f,g ⁣:C→Df,g\colon C\to Dがf≃gf\simeq gを満たし、u ⁣:E→Cu\colon E\to Cとv ⁣:D→Fv\colon D\to Fが左RR-加群の鎖写像であるならば、

v∘f∘u≃v∘g∘uv\circ f\circ u\simeq v\circ g\circ u

が成り立つ。

証明. 証明は演習とする(問題 4.1)。▨

命題 1.3. 左RR-加群の鎖写像f,g ⁣:C→Df,g\colon C\to Dが鎖ホモトピックであれば、すべての整数nnに対して

Hn(f)=Hn(g) ⁣:Hn(C)⟶Hn(D)H_n(f)=H_n(g)\colon H_n(C)\longrightarrow H_n(D)

が成り立つ。

証明.ffからggへの鎖ホモトピーhhとサイクルz∈Zn(C)z\in Z_n(C)を取る。dnC(z)=0d_n^C(z)=0であるから

fn(z)−gn(z)=dn+1D(hn(z))∈Bn(D)f_n(z)-g_n(z)=d_{n+1}^D(h_n(z))\in B_n(D)

である。したがって[fn(z)]=[gn(z)][f_n(z)]=[g_n(z)]であり、§E6.36 命題 2.4の誘導写像の表示からHn(f)([z])=Hn(g)([z])H_n(f)([z])=H_n(g)([z])を得る。すべてのホモロジー類はサイクルで代表されるため、Hn(f)=Hn(g)H_n(f)=H_n(g)である。▨

定義 1.4. 左RR-加群の鎖写像f ⁣:C→Df\colon C\to Dに対し、鎖写像g ⁣:D→Cg\colon D\to Cであって

g∘f≃id⁡C,f∘g≃id⁡Dg\circ f\simeq\id_C,\qquad f\circ g\simeq\id_D

を満たすものが存在するとき、ffを鎖ホモトピー同値 (chain homotopy equivalence)、ggをffのホモトピー逆という。鎖ホモトピー同値C→DC\to Dが存在するとき、CCとDDは鎖ホモトピー同値であるという。

系 1.5. 左RR-加群の鎖写像f ⁣:C→Df\colon C\to Dが鎖ホモトピー同値であれば、すべての整数nnに対してHn(f)H_n(f)は同型である。ggがffのホモトピー逆であれば、Hn(g)H_n(g)はHn(f)H_n(f)の逆写像である。

証明.命題 1.3と§E6.36 命題 2.4により

Hn(g)Hn(f)=Hn(g∘f)=Hn(id⁡C)=id⁡Hn(C),H_n(g)H_n(f)=H_n(g\circ f)=H_n(\id_C)=\id_{H_n(C)},Hn(f)Hn(g)=Hn(f∘g)=Hn(id⁡D)=id⁡Hn(D)H_n(f)H_n(g)=H_n(f\circ g)=H_n(\id_D)=\id_{H_n(D)}

である。▨

例 1.6.MMを左RR-加群とする。D1=D0=MD_1=D_0=M、d1D=id⁡Md_1^D=\id_Mとし、ほかの次数の加群と微分を零とする鎖複体DDを考える。h0=id⁡M ⁣:D0→D1h_0=\id_M\colon D_0\to D_1とし、ほかのhnh_nを零とすれば、次数00ではd1Dh0=id⁡Md_1^Dh_0=\id_M、次数11ではh0d1D=id⁡Mh_0d_1^D=\id_Mである。ほかの次数ではすべての写像が零である。したがってid⁡D≃0\id_D\simeq0である。

零複体はすべての次数の加群が零である複体である。零写像D→0D\to0と0→D0\to Dの合成は、DD上ではid⁡D\id_Dとホモトピックであり、零複体上では恒等写像に等しい。よってDDは零複体と鎖ホモトピー同値である。

命題 1.7. 正整数mmに対して、左Z\Z-加群の鎖複体C(m)C(m)を、次数11と00に置いた写像Z→×mZ\Z\xrightarrow{\times m}\Zにより定め、ほかの次数の加群と微分を零とする。整数aaに対し、f(a) ⁣:C(m)→C(m)f^{(a)}\colon C(m)\to C(m)を次数1,01,0のいずれでもaa倍写像とし、ほかの次数では零とする。これは鎖写像であり、任意の整数a,ba,bについて

f(a)≃f(b)⟺a−b∈mZf^{(a)}\simeq f^{(b)}\quad\Longleftrightarrow\quad a-b\in m\Z

が成り立つ。

証明. 証明は演習とする(問題 4.2)。▨

例 1.8. 左Z\Z-加群の鎖複体CCを、次数1,01,0に置いた写像Z→×2Z\Z\xrightarrow{\times2}\Zにより定め、ほかの次数の加群と微分を零とする。DDは次数00にだけZ/2Z\Z/2\Zを置き、すべての微分を零とする複体とする。商写像q0 ⁣:Z→Z/2Zq_0\colon\Z\to\Z/2\Zと、ほかの次数の零写像によってq ⁣:C→Dq\colon C\to Dを定める。次数11の鎖写像の条件はq0∘(×2)=0q_0\circ(\times2)=0であり、ほかの次数の条件も両辺が零であるため成り立つ。

H0(C)=Z/2Z=H0(D)H_0(C)=\Z/2\Z=H_0(D)であり、H0(q)H_0(q)は恒等写像である。次数00以外の両複体のホモロジーは零であるから、すべてのHn(q)H_n(q)は同型である。

一方、任意の鎖写像g ⁣:D→Cg\colon D\to Cの成分g0 ⁣:Z/2Z→Zg_0\colon\Z/2\Z\to\Zは零である。実際、任意のx∈Z/2Zx\in\Z/2\Zについて2g0(x)=g0(2x)=02g_0(x)=g_0(2x)=0であり、整数における二倍写像は単射である。したがってH0(g)=0H_0(g)=0であり、H0(q)H_0(q)の逆写像にはならない。系 1.5により、qqは鎖ホモトピー同値ではない。

2 複体の短完全列と連結準同型

定義 2.1.A,B,CA,B,Cを同じ環RR上の左加群の鎖複体、i ⁣:A→Bi\colon A\to Bとp ⁣:B→Cp\colon B\to Cを鎖写像とする。すべての整数nnに対して

0⟶An→inBn→pnCn⟶00\longrightarrow A_n\xrightarrow{i_n}B_n\xrightarrow{p_n}C_n\longrightarrow0

が左RR-加群の短完全列であるとき、

0⟶A→iB→pC⟶00\longrightarrow A\xrightarrow{i}B\xrightarrow{p}C\longrightarrow0

を鎖複体の短完全列 (short exact sequence of chain complexes) という。

定理 2.2. 左RR-加群の鎖複体の短完全列

0⟶A→iB→pC⟶00\longrightarrow A\xrightarrow{i}B\xrightarrow{p}C\longrightarrow0

に対して、各整数nnに左RR-線形写像

∂n ⁣:Hn(C)⟶Hn−1(A)\partial_n\colon H_n(C)\longrightarrow H_{n-1}(A)

が定まり、列

⋯⟶Hn(A)→Hn(i)Hn(B)→Hn(p)Hn(C)→∂nHn−1(A)→Hn−1(i)Hn−1(B)⟶⋯\cdots\longrightarrow H_n(A)\xrightarrow{H_n(i)}H_n(B) \xrightarrow{H_n(p)}H_n(C)\xrightarrow{\partial_n} H_{n-1}(A)\xrightarrow{H_{n-1}(i)}H_{n-1}(B) \longrightarrow\cdots

は完全である。

写像∂n\partial_nは次の公式を満たす。サイクルc∈Zn(C)c\in Z_n(C)に対して、pn(b)=cp_n(b)=cを満たすb∈Bnb\in B_nを取り、in−1(a)=dnB(b)i_{n-1}(a)=d_n^B(b)を満たすa∈An−1a\in A_{n-1}を取ると、aaは一意に存在するサイクルであり、

∂n([c])=[a]\partial_n([c])=[a]

である。この写像を連結準同型という。

証明. 各整数kkとX=A,B,CX=A,B,Cに対してQk(X):=Xk/Bk(X)Q_k(X):=X_k/B_k(X)とおき、整数nnを固定する。dnXd_n^Xの像はZn−1(X)Z_{n-1}(X)に含まれ、dnXd_n^XはBn(X)B_n(X)を零へ送る。§E6.2 命題 4.3により左RR-線形写像

dˉnX ⁣:Qn(X)⟶Zn−1(X),x+Bn(X)⟼dnX(x)\bar d_n^X\colon Q_n(X)\longrightarrow Z_{n-1}(X),\qquad x+B_n(X)\longmapsto d_n^X(x)

が定まる。dˉnX(x+Bn(X))=0\bar d_n^X(x+B_n(X))=0であることとx∈Zn(X)x\in Z_n(X)であることは同値である。したがって、写像[z]↦z+Bn(X)[z]\mapsto z+B_n(X)によって

ker⁡dˉnX=Hn(X)\ker\bar d_n^X=H_n(X)

と同一視することができる。またim⁡dˉnX=Bn−1(X)\im\bar d_n^X=B_{n-1}(X)であるから、

coker⁡dˉnX=Zn−1(X)/Bn−1(X)=Hn−1(X)\coker\bar d_n^X=Z_{n-1}(X)/B_{n-1}(X)=H_{n-1}(X)

である。

鎖写像はサイクルと境界を保つ(§E6.36 補題 2.3)。したがってi,pi,pはサイクル加群間の制限写像Zk(i),Zk(p)Z_k(i),Z_k(p)と、境界で割った商加群間の誘導写像Qk(i),Qk(p)Q_k(i),Q_k(p)を与える。たとえばQk(i)Q_k(i)はa+Bk(A)a+B_k(A)をik(a)+Bk(B)i_k(a)+B_k(B)へ送る。

各整数kkに対して、微分と鎖写像の条件による可換図式

可換図式 0 Ak Bk Ck 0 0 Ak−1 Bk−1 Ck−1 0 ik dkA pk dkB dkC ik−1 pk−1 図 2.2.1

の両行は短完全である。k=n+1k=n+1の図式の縦射の余核はQn(A),Qn(B),Qn(C)Q_n(A),Q_n(B),Q_n(C)である。§E6.9 補題 1.8 (2)と§E6.9 補題 1.8 (4)により、

Qn(A)→Qn(i)Qn(B)→Qn(p)Qn(C)⟶0Q_n(A)\xrightarrow{Q_n(i)}Q_n(B)\xrightarrow{Q_n(p)}Q_n(C)\longrightarrow0

は完全である。またk=n−1k=n-1の図式の縦射の核はZn−1(A),Zn−1(B),Zn−1(C)Z_{n-1}(A),Z_{n-1}(B),Z_{n-1}(C)である。§E6.9 補題 1.8 (1)と§E6.9 補題 1.8 (3)により、

0⟶Zn−1(A)→Zn−1(i)Zn−1(B)→Zn−1(p)Zn−1(C)0\longrightarrow Z_{n-1}(A)\xrightarrow{Z_{n-1}(i)}Z_{n-1}(B)\xrightarrow{Z_{n-1}(p)}Z_{n-1}(C)

は完全である。

鎖写像の等式は商への因子化後も成り立つため、次の図式は可換である。

可換図式 Qn(A) Qn(B) Qn(C) 0 0 Zn−1(A) Zn−1(B) Zn−1(C) Qn(i) dˉnA Qn(p) dˉnB dˉnC Zn−1(i) Zn−1(p) 図 2.2.2

この二つの完全列へ§E6.9 命題 2.1を適用し、その連結準同型を∂n\partial_nとする。縦射の核と余核をホモロジーに同一視すると、蛇の補題による横射は[z]↦[ik(z)][z]\mapsto[i_k(z)]または[z]↦[pk(z)][z]\mapsto[p_k(z)]である。§E6.36 命題 2.4により、これらはそれぞれHk(i),Hk(p)H_k(i),H_k(p)である。よって六項列

Hn(A)→Hn(i)Hn(B)→Hn(p)Hn(C)→∂nHn−1(A)→Hn−1(i)Hn−1(B)→Hn−1(p)Hn−1(C)H_n(A)\xrightarrow{H_n(i)}H_n(B)\xrightarrow{H_n(p)}H_n(C) \xrightarrow{\partial_n}H_{n-1}(A) \xrightarrow{H_{n-1}(i)}H_{n-1}(B) \xrightarrow{H_{n-1}(p)}H_{n-1}(C)

を得る。この列は中間の四つの項で完全である。すべての整数nnについて六項列を重ねると、すべての位置で完全な長完全列を得る。

サイクルc∈Zn(C)c\in Z_n(C)とpn(b)=cp_n(b)=cを満たすb∈Bnb\in B_nを取る。pn−1(dnB(b))=dnC(c)=0p_{n-1}(d_n^B(b))=d_n^C(c)=0であるから、短完全性によりin−1(a)=dnB(b)i_{n-1}(a)=d_n^B(b)を満たすa∈An−1a\in A_{n-1}が一意に存在する。さらに

in−2(dn−1A(a))=dn−1B(in−1(a))=dn−1B(dnB(b))=0i_{n-2}(d_{n-1}^A(a))=d_{n-1}^B(i_{n-1}(a))=d_{n-1}^B(d_n^B(b))=0

とin−2i_{n-2}の単射性から、a∈Zn−1(A)a\in Z_{n-1}(A)である。上の蛇の図式ではb+Bn(B)b+B_n(B)がc+Bn(C)c+B_n(C)の持ち上げであり、その縦射による像はin−1(a)i_{n-1}(a)である。蛇の連結準同型の表示(§E6.9 解答)を適用すると、∂n([c])=a+Bn−1(A)=[a]\partial_n([c])=a+B_{n-1}(A)=[a]となる。▨

命題 2.3. 左RR-加群の鎖複体の短完全列二つと、鎖写像α ⁣:A→A′\alpha\colon A\to A'、β ⁣:B→B′\beta\colon B\to B'、γ ⁣:C→C′\gamma\colon C\to C'が可換図式

可換図式 0 A B C 0 0 A′ B′ C′ 0 i α p β γ i′ p′ 図 2.3.1

を与えるとする。両行の連結準同型を∂n,∂n′\partial_n,\partial'_nとすれば、すべての整数nnに対して

Hn−1(α)∘∂n=∂n′∘Hn(γ)H_{n-1}(\alpha)\circ\partial_n =\partial'_n\circ H_n(\gamma)

が成り立つ。またHn(α),Hn(β),Hn(γ)H_n(\alpha),H_n(\beta),H_n(\gamma)は、両行から得られる長完全列の間の射を与える。

証明.c∈Zn(C)c\in Z_n(C)を取り、pn(b)=cp_n(b)=c、in−1(a)=dnB(b)i_{n-1}(a)=d_n^B(b)を満たすb∈Bnb\in B_n、a∈Zn−1(A)a\in Z_{n-1}(A)を取る。可換性により

pn′(βn(b))=γn(c),p'_n(\beta_n(b))=\gamma_n(c),dnB′(βn(b))=βn−1(dnB(b))=in−1′(αn−1(a))d_n^{B'}(\beta_n(b)) =\beta_{n-1}(d_n^B(b)) =i'_{n-1}(\alpha_{n-1}(a))

である。定理 2.2の公式により、∂n′Hn(γ)\partial'_nH_n(\gamma)とHn−1(α)∂nH_{n-1}(\alpha)\partial_nはともに[c][c]を[αn−1(a)][\alpha_{n-1}(a)]へ送る。ほかの正方形の可換性は、βi=i′α\beta i=i'\alpha、p′β=γpp'\beta=\gamma pと§E6.36 命題 2.4の合成則から従う。▨

系 2.4. 左RR-加群の鎖複体の短完全列0→A→iB→pC→00\to A\xrightarrow{i}B\xrightarrow{p}C\to0と整数nnに対し、Hn(B)=Hn−1(B)=0H_n(B)=H_{n-1}(B)=0ならば、∂n ⁣:Hn(C)→Hn−1(A)\partial_n\colon H_n(C)\to H_{n-1}(A)は同型である。

証明.定理 2.2により、列0→Hn(C)→∂nHn−1(A)→00\to H_n(C)\xrightarrow{\partial_n}H_{n-1}(A)\to0は完全である。したがって∂n\partial_nは単射かつ全射であり、左RR-加群の同型である。▨

例 2.5.u ⁣:M→Nu\colon M\to Nを左RR-加群の射とする。B1=MB_1=M、B0=NB_0=N、d1B=ud_1^B=uとし、ほかの次数の加群と微分を零とする。AAは次数00にだけNNを置いた複体、CCは次数11にだけMMを置いた複体とし、両複体の微分をすべて零とする。i0=id⁡Ni_0=\id_N、p1=id⁡Mp_1=\id_Mとし、ほかの成分を零とすれば、i ⁣:A→Bi\colon A\to Bとp ⁣:B→Cp\colon B\to Cは鎖写像である。実際、次数11の条件はd1Bi1=i0d1A=0d_1^Bi_1=i_0d_1^A=0とd1Cp1=p0d1B=0d_1^Cp_1=p_0d_1^B=0であり、ほかの次数でも両辺は零である。

各次数の列は、次数11では0→0→M→id⁡M→00\to0\to M\xrightarrow{\id}M\to0、次数00では0→N→id⁡N→0→00\to N\xrightarrow{\id}N\to0\to0となる。ほかの次数では全項が零である。よって0→A→iB→pC→00\to A\xrightarrow{i}B\xrightarrow{p}C\to0は、次数ごとに分裂する短完全列である。

H1(C)=MH_1(C)=M、H0(A)=NH_0(A)=Nであり、任意のc∈Mc\in Mの持ち上げはb=c∈B1b=c\in B_1である。d1B(b)=u(c)=i0(u(c))d_1^B(b)=u(c)=i_0(u(c))であるから、定理 2.2により∂1=u\partial_1=uである。またH1(B)=ker⁡uH_1(B)=\ker u、H0(B)=coker⁡uH_0(B)=\coker uであり、それ以外のホモロジーは零である。長完全列の非零となりうる部分は

0⟶ker⁡u⟶M→uN⟶coker⁡u⟶00\longrightarrow\ker u\longrightarrow M\xrightarrow{u}N \longrightarrow\coker u\longrightarrow0

となる。M=N=ZM=N=\Z、u=×2u=\times2の場合、連結準同型は整数の二倍写像であり、この完全列は

0⟶0⟶Z→×2Z⟶Z/2Z⟶00\longrightarrow0\longrightarrow\Z\xrightarrow{\times2}\Z \longrightarrow\Z/2\Z\longrightarrow0

である。したがって、次数ごとに短完全列が分裂していても、連結準同型が零になるとは限らない。

3 余鎖ホモトピーとコホモロジー長完全列

定義 3.1.A,BA,Bを同じ環RR上の左加群の余鎖複体、f,g ⁣:A→Bf,g\colon A\to Bを余鎖写像とする。左RR-線形写像の族hn ⁣:An→Bn−1h^n\colon A^n\to B^{n-1}であって、すべての整数nnに対して

fn−gn=δBn−1∘hn+hn+1∘δAnf^n-g^n=\delta_B^{n-1}\circ h^n+h^{n+1}\circ\delta_A^n

を満たすものを余鎖ホモトピー (cochain homotopy) という。このような族が存在するときf≃gf\simeq gと書く。余鎖写像f ⁣:A→Bf\colon A\to Bが余鎖ホモトピー同値 (cochain homotopy equivalence) であるとは、余鎖写像g ⁣:B→Ag\colon B\to Aが存在してgf≃id⁡Agf\simeq\id_Aとfg≃id⁡Bfg\simeq\id_Bを満たすことをいう。

余鎖写像i ⁣:A→Bi\colon A\to Bとp ⁣:B→Cp\colon B\to Cに対し、すべての整数nnで0→An→inBn→pnCn→00\to A^n\xrightarrow{i^n}B^n\xrightarrow{p^n}C^n\to0が短完全列であるとき、0→A→iB→pC→00\to A\xrightarrow{i}B\xrightarrow{p}C\to0を余鎖複体の短完全列という。

命題 3.2. 左RR-加群の余鎖複体について、余鎖ホモトピックであるという関係は、同じ二複体間の余鎖写像全体の集合上の同値関係であり、余鎖写像との前後の合成で保たれる。余鎖写像f,g ⁣:A→Bf,g\colon A\to Bがf≃gf\simeq gを満たせば、各整数nnでHn(f)=Hn(g)H^n(f)=H^n(g)である。余鎖写像ffが余鎖ホモトピー同値であれば、各Hn(f)H^n(f)は同型である。

証明.§E6.36 命題 3.2により、Ck=A−kC_k=A^{-k}、Dk=B−kD_k=B^{-k}、dkC=δA−kd_k^C=\delta_A^{-k}、dkD=δB−kd_k^D=\delta_B^{-k}とおくと鎖複体を得る。Fk=f−kF_k=f^{-k}、Gk=g−kG_k=g^{-k}、sk=h−ks_k=h^{-k}とおけば、sk ⁣:Ck→Dk+1s_k\colon C_k\to D_{k+1}であり、余鎖ホモトピーの等式は

Fk−Gk=dk+1Dsk+sk−1dkCF_k-G_k=d_{k+1}^D s_k+s_{k-1}d_k^C

となる。この対応は逆にhn=s−nh^n=s_{-n}とおくことで戻り、恒等写像と合成を保つ。したがって命題 1.2、命題 1.3、系 1.5を適用し、Hk(C)=H−k(A)H_k(C)=H^{-k}(A)と同一視すれば、すべての主張が従う。▨

定理 3.3. 左RR-加群の余鎖複体の短完全列0→A→iB→pC→00\to A\xrightarrow{i}B\xrightarrow{p}C\to0に対して、各整数nnに連結準同型∂n ⁣:Hn(C)→Hn+1(A)\partial^n\colon H^n(C)\to H^{n+1}(A)が定まり、列

⋯⟶Hn(A)→Hn(i)Hn(B)→Hn(p)Hn(C)→∂nHn+1(A)→Hn+1(i)Hn+1(B)⟶⋯\cdots\longrightarrow H^n(A)\xrightarrow{H^n(i)}H^n(B) \xrightarrow{H^n(p)}H^n(C)\xrightarrow{\partial^n} H^{n+1}(A)\xrightarrow{H^{n+1}(i)}H^{n+1}(B)\longrightarrow\cdots

は完全である。c∈Zn(C)c\in Z^n(C)、pn(b)=cp^n(b)=c、in+1(a)=δBn(b)i^{n+1}(a)=\delta_B^n(b)ならば、a∈Zn+1(A)a\in Z^{n+1}(A)であり、

∂n([c])=[a]\partial^n([c])=[a]

である。

さらに、別の余鎖複体の短完全列0→A′→i′B′→p′C′→00\to A'\xrightarrow{i'}B'\xrightarrow{p'}C'\to0と余鎖写像α ⁣:A→A′\alpha\colon A\to A'、β ⁣:B→B′\beta\colon B\to B'、γ ⁣:C→C′\gamma\colon C\to C'がβi=i′α\beta i=i'\alpha、p′β=γpp'\beta=\gamma pを満たすとする。このとき、各次数の誘導写像は長完全列の間の射を与え、

Hn+1(α)∘∂n=∂′n∘Hn(γ)H^{n+1}(\alpha)\circ\partial^n =\partial'{}^n\circ H^n(\gamma)

が成り立つ。

証明.X~k:=X−k\widetilde X_k:=X^{-k}、dkX~:=δX−kd_k^{\widetilde X}:=\delta_X^{-k}をX=A,B,CX=A,B,Cに対して定め、i~k=i−k\widetilde i_k=i^{-k}、p~k=p−k\widetilde p_k=p^{-k}とおく。§E6.36 命題 3.2によりX~\widetilde Xは鎖複体であり、各次数の加群の列を変えていないため0→A~→i~B~→p~C~→00\to\widetilde A\xrightarrow{\widetilde i}\widetilde B\xrightarrow{\widetilde p}\widetilde C\to0は短完全列である。

定理 2.2の次数−n-nの連結準同型を∂n\partial^nとおくと、その始域はH−n(C~)=Hn(C)H_{-n}(\widetilde C)=H^n(C)、終域はH−n−1(A~)=Hn+1(A)H_{-n-1}(\widetilde A)=H^{n+1}(A)である。鎖版の長完全列をこの同一視で書き換えると、主張の列を得る。持ち上げの等式はp~−n(b)=c\widetilde p_{-n}(b)=c、i~−n−1(a)=d−nB~(b)\widetilde i_{-n-1}(a)=d_{-n}^{\widetilde B}(b)であり、元の余鎖複体ではpn(b)=cp^n(b)=c、in+1(a)=δBn(b)i^{n+1}(a)=\delta_B^n(b)となる。よって鎖版の公式から∂n([c])=[a]\partial^n([c])=[a]を得る。

α,β,γ\alpha,\beta,\gammaの次数を反転すると鎖複体の短完全列の射になる。命題 2.3を次数−n-nに適用すれば、主張の自然性が従う。▨

4 演習

問題 4.1.命題 1.2の証明を完成させよ。

解答.

鎖写像f ⁣:C→Df\colon C\to Dに対し、すべての次数でhn=0h_n=0とおけばfn−fn=dn+1Dhn+hn−1dnC=0f_n-f_n=d_{n+1}^Dh_n+h_{n-1}d_n^C=0であるため、f≃ff\simeq fである。hhがffからggへのホモトピーならば、

gn−fn=dn+1D(−hn)+(−hn−1)dnCg_n-f_n=d_{n+1}^D(-h_n)+(-h_{n-1})d_n^C

であり、−h-hはggからffへのホモトピーである。hhがffからggへ、ssがggからℓ\ellへのホモトピーならば、両等式を加えて

fn−ℓn=dn+1D(hn+sn)+(hn−1+sn−1)dnCf_n-\ell_n=d_{n+1}^D(h_n+s_n)+(h_{n-1}+s_{n-1})d_n^C

を得る。準同型の零写像、符号反転、和はいずれも左RR-線形であるため、反射性・対称性・推移性が成り立つ。

鎖写像u ⁣:E→Cu\colon E\to C、v ⁣:D→Fv\colon D\to Fに対し、tn:=vn+1hnun ⁣:En→Fn+1t_n:=v_{n+1}h_nu_n\colon E_n\to F_{n+1}とおく。合成tnt_nは左RR-線形であり、鎖写像の等式から

dn+1Ftn+tn−1dnE=vndn+1Dhnun+vnhn−1un−1dnE=vn(dn+1Dhn+hn−1dnC)un=vn(fn−gn)un\begin{aligned} d_{n+1}^Ft_n+t_{n-1}d_n^E &=v_n d_{n+1}^Dh_nu_n+v_nh_{n-1}u_{n-1}d_n^E\\ &=v_n(d_{n+1}^Dh_n+h_{n-1}d_n^C)u_n\\ &=v_n(f_n-g_n)u_n \end{aligned}

である。よってvfu≃vguvfu\simeq vguである。▨

問題 4.2.命題 1.7の証明を完成させよ。また、m=2m=2、a=3a=3、b=1b=1の場合のホモトピーを具体的に与えよ。

解答.

整数倍写像はZ\Z-線形であり、ma=amma=amであるから、次数11における鎖写像の条件は成り立つ。ほかの次数では両辺が零であるため、f(a)f^{(a)}は鎖写像である。

族hn ⁣:C(m)n→C(m)n+1h_n\colon C(m)_n\to C(m)_{n+1}のうち、非零となりうる成分はh0 ⁣:Z→Zh_0\colon\Z\to\Zだけである。t:=h0(1)t:=h_0(1)とおけば、Z\Z-線形性からh0(x)=txh_0(x)=txである。ホモトピーの等式は、次数00ではa−b=mta-b=mt、次数11ではa−b=tma-b=tmとなる。したがってホモトピーが存在するならばa−b∈mZa-b\in m\Zである。

逆にa−b=mta-b=mtを満たす整数ttが存在するならば、h0=×th_0=\times t、hn=0h_n=0(n≠0n\ne0)とおく。次数0,10,1で上記の等式が成り立ち、ほかの次数では両辺が零であるため、hhはホモトピーである。m=2m=2、a=3a=3、b=1b=1ではt=1t=1であり、h0=id⁡Zh_0=\id_{\Z}と取ることができる。▨

問題 4.3. 各整数nnに対してPn=Z/4ZP_n=\Z/4\Z、dnP=×2d_n^P=\times2とする。PPが鎖複体であり、すべてのHn(P)H_n(P)が零であることを示せ。また、id⁡P\id_Pと零写像が鎖ホモトピックではないことを示せ。

解答.

微分はZ\Z-線形であり、連続する二つの微分の合成はZ/4Z\Z/4\Z上の四倍写像、すなわち零写像である。したがってPPは鎖複体である。任意の整数nnについて

Zn(P)={0+4Z,2+4Z}=Bn(P)Z_n(P)=\{0+4\Z,2+4\Z\}=B_n(P)

であり、Hn(P)=0H_n(P)=0である。

id⁡P≃0\id_P\simeq0と仮定し、そのホモトピーをhhとする。各hnh_nは1+4Z1+4\Zの像によって決まり、ある整数tnt_nによる乗法である。したがって

(dn+1Phn+hn−1dnP)(1+4Z)=2(tn+tn−1)+4Z(d_{n+1}^Ph_n+h_{n-1}d_n^P)(1+4\Z) =2(t_n+t_{n-1})+4\Z

は0+4Z0+4\Zまたは2+4Z2+4\Zであり、id⁡Pn(1+4Z)=1+4Z\id_{P_n}(1+4\Z)=1+4\Zに等しくない。ホモトピーの等式に反するため、id⁡P≄0\id_P\not\simeq0である。▨

問題 4.4.A,BA,Bをともに、次数1,01,0に置いたZ→×3Z\Z\xrightarrow{\times3}\Zと、ほかの次数の零加群からなる鎖複体とする。C1=C0=Z/3ZC_1=C_0=\Z/3\Z、Cn=0C_n=0(n≠0,1n\ne0,1)とし、CCの微分をすべて零とする。i ⁣:A→Bi\colon A\to Bは次数1,01,0の三倍写像、p ⁣:B→Cp\colon B\to Cは次数1,01,0の商写像とし、ほかの成分を零とする。

0→A→iB→pC→00\to A\xrightarrow{i}B\xrightarrow{p}C\to0が鎖複体の短完全列であることを示し、その長完全列の非零となりうる部分とすべての写像を求めよ。さらに、X~n=X−n\widetilde X^n=X_{-n}、δX~n=d−nX\delta_{\widetilde X}^n=d_{-n}^X(X=A,B,CX=A,B,C)による余鎖複体の短完全列について、連結準同型の始域、終域、値を求めよ。

解答.

iiの鎖写像の条件は次数11で3(3x)=3(3x)3(3x)=3(3x)となり、ppの条件はp0(3x)=0p_0(3x)=0となる。ほかの次数では両辺が零である。次数1,01,0の列は0→Z→×3Z→Z/3Z→00\to\Z\xrightarrow{\times3}\Z\to\Z/3\Z\to0であり、三倍写像の単射性と商写像の核が3Z3\Zであることから短完全である。ほかの次数では全項が零である。

A,BA,Bの三倍写像は単射であるから、H1(A)=H1(B)=0H_1(A)=H_1(B)=0、H0(A)=H0(B)=Z/3ZH_0(A)=H_0(B)=\Z/3\Zである。CCの微分は零であるからH1(C)=H0(C)=Z/3ZH_1(C)=H_0(C)=\Z/3\Zである。三つの複体とも、ほかの次数のホモロジーは零である。

c=x+3Z∈C1c=x+3\Z\in C_1の持ち上げとしてb=x∈B1b=x\in B_1を取ると、d1B(b)=3x=i0(x)d_1^B(b)=3x=i_0(x)である。したがって定理 2.2により

∂1(x+3Z)=x+3Z\partial_1(x+3\Z)=x+3\Z

であり、連結準同型は恒等写像である。特に1+3Z1+3\Zの像は1+3Z1+3\Zであり、負の恒等写像による像2+3Z2+3\Zとは異なる。

H0(i)H_0(i)は三倍写像の誘導射であるから零写像であり、H0(p)H_0(p)は恒等写像である。よって長完全列の非零となりうる部分は

0⟶Z/3Z→id⁡Z/3Z→0Z/3Z→id⁡Z/3Z⟶00\longrightarrow\Z/3\Z\xrightarrow{\id}\Z/3\Z \xrightarrow{0}\Z/3\Z\xrightarrow{\id}\Z/3\Z\longrightarrow0

である。左から順にH1(C),H0(A),H0(B),H0(C)H_1(C),H_0(A),H_0(B),H_0(C)が並ぶ。恒等写像の像は次の零写像の核に等しく、零写像の像は次の恒等写像の核に等しいため、完全性を直接確認することができる。

余鎖複体では非零の項が次数−1,0-1,0にあり、∂−1 ⁣:H−1(C~)→H0(A~)\partial^{-1}\colon H^{-1}(\widetilde C)\to H^0(\widetilde A)の始域と終域はともにZ/3Z\Z/3\Zである。微分と持ち上げの写像は変わらないため、定理 3.3により∂−1(x+3Z)=x+3Z\partial^{-1}(x+3\Z)=x+3\Zである。ほかの連結準同型は始域または終域が零であるため零写像である。▨

前提記事