§E6.35Brauer 群の定義

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中心単純代数を同型だけで分類すると、n≥2n\geq2のとき、KKとMn(K)M_n(K)は異なる代数として残る。しかし、いずれも同じ基礎体上の線形代数を表し、行列次数の違いは中心斜体の違いではない。Brauer 同値は、全行列代数をテンソル因子として加えた後に同型になる中心単純代数を同一視する。

本記事では、固定した可換体KK上で議論する。中心単純代数と反対代数には§E6.33 定義 2.1と§E6.33 命題 3.1を用いる。代数のテンソル積には§E6.33 定理 5.1を用い、その加群としての結合同型には§E6.14 定理 8.1を用いる。Artin–Wedderburn の定理に基づく単純 Artin 環の分類には§E6.25 定理 8.2を用いる。

1 行列安定化と Brauer 同値

Brauer 同値の推移性と積の well-defined 性では、二つの行列因子を一つにまとめる。最初に、そのための同型を固定する。

補題 1.1. 正の整数m,nm,nに対して、KK-代数同型

κm,n ⁣:Mm(K)⊗KMn(K)→ ≅ Mmn(K)\kappa_{m,n}\colon M_m(K)\otimes_KM_n(K) \xrightarrow{\ \cong\ } M_{mn}(K)

が存在する。第一因子と第二因子の行列単位をそれぞれEijE_{ij}とFpqF_{pq}と書くと、この同型は

Eij⊗Fpq⟼G(i−1)n+p,(j−1)n+qE_{ij}\otimes F_{pq} \longmapsto G_{(i-1)n+p,(j-1)n+q}

によって定まる。

証明.EijE_{ij}の全体とFpqF_{pq}の全体は、それぞれMm(K)M_m(K)とMn(K)M_n(K)のKK-基底である。テンソル積の基底に関する§E6.33 命題 5.3の証明により、

{Eij⊗Fpq∣1≤i,j≤m, 1≤p,q≤n}\{E_{ij}\otimes F_{pq}\mid 1\leq i,j\leq m,\ 1\leq p,q\leq n\}

は左辺のKK-基底である。右辺に現れるG(i−1)n+p,(j−1)n+qG_{(i-1)n+p,(j-1)n+q}の全体はMmn(K)M_{mn}(K)の行列単位を重複なく尽くす。したがって表示した対応は、ただ一つのKK-線形同型κm,n\kappa_{m,n}を定める。

行列単位の積を計算すると、

(Eij⊗Fpq)(Ekℓ⊗Frs)=δjkδqrEiℓ⊗Fps\begin{aligned} &(E_{ij}\otimes F_{pq})(E_{k\ell}\otimes F_{rs})\\ &\qquad =\delta_{jk}\delta_{qr} E_{i\ell}\otimes F_{ps} \end{aligned}

である。一方、対応する右辺の行列単位の積は

G(i−1)n+p,(j−1)n+qG(k−1)n+r,(ℓ−1)n+s=δjkδqrG(i−1)n+p,(ℓ−1)n+sG_{(i-1)n+p,(j-1)n+q} G_{(k-1)n+r,(\ell-1)n+s} =\delta_{jk}\delta_{qr} G_{(i-1)n+p,(\ell-1)n+s}

である。よってκm,n\kappa_{m,n}は積を保つ。また

Im⊗In=∑i=1m∑p=1nEii⊗FppI_m\otimes I_n =\sum_{i=1}^m\sum_{p=1}^nE_{ii}\otimes F_{pp}

はImnI_{mn}へ移るため、κm,n\kappa_{m,n}は単位元を保つ。したがってκm,n\kappa_{m,n}はKK-代数同型である。▨

定義 1.2.A,BA,Bを中心単純KK-代数とする。正の整数m,nm,nが存在して

A⊗KMm(K)≅B⊗KMn(K)A\otimes_KM_m(K) \cong B\otimes_KM_n(K)

がKK-代数同型として成り立つとき、AAとBBはBrauer 同値 (Brauer equivalence) であるといい、

A∼BrBA\sim_{\mathrm{Br}}B

と書く。

この定義で許すのは、固定した基礎体KK上の行列代数による安定化だけである。環として同型であっても、KKの構造準同型を保たない同型は Brauer 同値の定義に用いない。

命題 1.3. 中心単純KK-代数の全体において、関係∼Br\sim_{\mathrm{Br}}は反射律、対称律および推移律を満たす。

証明. 任意の中心単純KK-代数AAに対して、

A⊗KM1(K)≅AA\otimes_KM_1(K)\cong A

であるからA∼BrAA\sim_{\mathrm{Br}}Aである。したがって反射律が成り立つ。

A∼BrBA\sim_{\mathrm{Br}}Bを与えるKK-代数同型の逆写像は、B∼BrAB\sim_{\mathrm{Br}}Aを与える。したがって対称律が成り立つ。

A∼BrBA\sim_{\mathrm{Br}}BおよびB∼BrCB\sim_{\mathrm{Br}}Cとする。正の整数m,n,p,qm,n,p,qとKK-代数同型

A⊗KMm(K)≅B⊗KMn(K),B⊗KMp(K)≅C⊗KMq(K)A\otimes_KM_m(K)\cong B\otimes_KM_n(K), \qquad B\otimes_KM_p(K)\cong C\otimes_KM_q(K)

を取る。第一の同型にMp(K)M_p(K)を、第二の同型にMn(K)M_n(K)をテンソルし、結合同型と因子交換同型§E6.33 命題 5.2を用いると、

A⊗KMm(K)⊗KMp(K)≅B⊗KMn(K)⊗KMp(K)≅B⊗KMp(K)⊗KMn(K)≅C⊗KMq(K)⊗KMn(K)\begin{aligned} A\otimes_KM_m(K)\otimes_KM_p(K) &\cong B\otimes_KM_n(K)\otimes_KM_p(K)\\ &\cong B\otimes_KM_p(K)\otimes_KM_n(K)\\ &\cong C\otimes_KM_q(K)\otimes_KM_n(K) \end{aligned}

を得る。結合同型が代数同型であることは、純テンソルについて

((a⊗x)⊗y)((a′⊗x′)⊗y′)⟼aa′⊗(xx′⊗yy′)((a\otimes x)\otimes y)((a'\otimes x')\otimes y') \longmapsto aa'\otimes(xx'\otimes yy')

となることから従う。補題補題 1.1によって二つの行列因子をまとめると、

A⊗KMmp(K)≅C⊗KMqn(K)A\otimes_KM_{mp}(K) \cong C\otimes_KM_{qn}(K)

となる。よってA∼BrCA\sim_{\mathrm{Br}}Cであり、推移律が成り立つ。▨

Artin–Wedderburn の定理は、行列安定化が単純 Artin 環の分類から行列次数を除く操作であることを示す。

命題 1.4. 任意の中心単純KK-代数AAに対して、ある正の整数rrと有限次元中心斜体DDが存在し、

A≅Mr(D)A\cong M_r(D)

がKK-代数同型として成り立つ。

証明.AAの左イデアルはKK-線形部分空間である。左イデアルの真の降鎖ではKK-次元が真に減少するため、有限次元性からAAは左 Artin 環である。AAは単純環でもあるから、§E6.25 定理 8.2により、ある斜体DDと正の整数rrが存在して、環同型

θ ⁣:A→ ≅ Mr(D)\theta\colon A\xrightarrow{\ \cong\ }M_r(D)

が成り立つ。

Mr(D)M_r(D)の中心を計算する。中心元XXは各行列単位EiiE_{ii}と可換するため対角行列である。さらにEijE_{ij}と可換するため、すべての対角成分が同じ元d∈Dd\in Dになる。XXがaE11aE_{11}と可換することから、任意のa∈Da\in Dに対してda=adda=adである。したがって

Z(Mr(D))=Z(D)IrZ(M_r(D))=Z(D)I_r

である。

環同型は中心を中心へ写す。Z(A)=K1AZ(A)=K1_Aであるから、

θ(c1A)=ιD(c)Ir\theta(c1_A)=\iota_D(c)I_r

によって写像ιD ⁣:K→Z(D)\iota_D\colon K\to Z(D)を定めると、ιD\iota_Dは体同型である。この写像をDDのKK-代数構造とする。するとθ\thetaは構成からKK線形であり、KK-代数同型になる。またDDは角E11Mr(D)E11E_{11}M_r(D)E_{11}と同一視されるため、有限次元KK-線形空間Mr(D)M_r(D)の部分空間であり、KK上有限次元である。さらにZ(D)=ιD(K)Z(D)=\iota_D(K)であるから、DDは有限次元中心斜体KK-代数である。▨

例 1.5 (全行列代数の Brauer 類). 正の整数nnに対してMn(K)M_n(K)は§E6.33 定理 4.1により中心単純KK-代数である。Brauer 同値の定義でm=1m=1、右辺の行列次数をnnとすれば、

Mn(K)⊗KM1(K)≅K⊗KMn(K)M_n(K)\otimes_KM_1(K) \cong K\otimes_KM_n(K)

である。したがって

Mn(K)∼BrKM_n(K)\sim_{\mathrm{Br}}K

であり、すべての全行列代数はKKと同じ Brauer 類を表す。

例 1.6 (中心性を外すことができない例).C\mathbb CをR\mathbb R-代数とみなすと、C\mathbb Cは有限次元単純R\mathbb R-代数である。しかし

Z(C)=C≠R1Z(\mathbb C)=\mathbb C\neq\mathbb R1

であるため、C\mathbb Cは中心単純R\mathbb R-代数ではない。したがってC\mathbb Cは、本記事で定義するBr⁡(R)\operatorname{Br}(\mathbb R)の代表元にはならない。有限次元性と単純性だけでは Brauer 群の対象を定めるには不十分である。

2 中心単純代数のテンソル積

Brauer 類の積を[A⊗KB][A\otimes_KB]によって定めるには、A⊗KBA\otimes_KBが再び中心単純であることを証明する必要がある。その証明では、非零両側イデアルから第二因子だけに属する非零元を取り出す。

定義 2.1.KK-線形空間V,WV,Wと非零元z∈V⊗KWz\in V\otimes_KWに対して、

z=∑i=1rvi⊗wiz=\sum_{i=1}^r v_i\otimes w_i

と表示することができる正の整数rrの最小値を、zzのテンソル長 (tensor length) という。

テンソル長が最小である表示では、v1,…,vrv_1,\ldots,v_rとw1,…,wrw_1,\ldots,w_rはそれぞれ一次独立である。例えばwr=∑i<rciwiw_r=\sum_{i<r}c_iw_iならば

∑i=1rvi⊗wi=∑i<r(vi+civr)⊗wi\sum_{i=1}^rv_i\otimes w_i =\sum_{i<r}(v_i+c_iv_r)\otimes w_i

となり、より短い表示を得るためである。viv_iの場合も同じ議論が成り立つ。

補題 2.2.AAを中心単純KK-代数、BBを単位的結合的KK-代数とする。A⊗KBA\otimes_KBの任意の非零両側イデアルIIは、ある非零元b∈Bb\in Bに対する

1A⊗b1_A\otimes b

を含む。

証明.IIの非零元のうちテンソル長が最小である元を取り、

z=∑i=1rai⊗biz=\sum_{i=1}^r a_i\otimes b_i

と書く。最小表示を選んだため、a1,…,ara_1,\ldots,a_rとb1,…,brb_1,\ldots,b_rはそれぞれ一次独立であり、特にa1≠0a_1\neq0である。

AAは単純環であるから、a1a_1が生成する両側イデアルAa1AAa_1AはAA全体である。したがって、有限個のuj,vj∈Au_j,v_j\in Aが存在して

∑juja1vj=1A\sum_j u_ja_1v_j=1_A

となる。IIは両側イデアルであるため、

w:=∑j(uj⊗1B)z(vj⊗1B)=∑i=1rci⊗bi∈I,ci:=∑jujaivjw:=\sum_j(u_j\otimes1_B)z(v_j\otimes1_B) =\sum_{i=1}^r c_i\otimes b_i \in I, \qquad c_i:=\sum_j u_ja_iv_j

である。c1=1Ac_1=1_Aであり、bib_iは一次独立であるからw≠0w\neq0である。wwの表示は長さが高々rrであり、rrの最小性からwwのテンソル長もrrである。

任意のx∈Ax\in Aに対して、

(x⊗1B)w−w(x⊗1B)=∑i=2r(xci−cix)⊗bi(x\otimes1_B)w-w(x\otimes1_B) =\sum_{i=2}^r(xc_i-c_ix)\otimes b_i

はIIに属する。右辺のテンソル長は高々r−1r-1であるため、rrの最小性から右辺は零でなければならない。b2,…,brb_2,\ldots,b_rは一次独立であるから、任意のiiとxxに対してxci=cixxc_i=c_ixとなる。c1=1Ac_1=1_Aも中心に属するため、すべてのcic_iがZ(A)=K1AZ(A)=K1_Aに属する。

ci=λi1Ac_i=\lambda_i1_Aと書けば、

w=1A⊗(∑i=1rλibi)w=1_A\otimes\left(\sum_{i=1}^r\lambda_ib_i\right)

となる。λ1=1\lambda_1=1とbib_iの一次独立性から、括弧内の元は零ではない。したがって所要の非零元1A⊗b1_A\otimes bがIIに属する。▨

定理 2.3.A,BA,Bを中心単純KK-代数とする。このときA⊗KBA\otimes_KBも中心単純KK-代数である。

証明.§E6.33 定理 5.1によりA⊗KBA\otimes_KBは単位的結合的KK-代数である。また§E6.33 命題 5.3により有限次元である。

AAは非零有限次元KK-線形空間であるから、KK-線形写像ε ⁣:A→K\varepsilon\colon A\to Kでε(1A)=1\varepsilon(1_A)=1を満たすものが存在する。テンソル積上の誘導写像§E6.14 命題 6.1によってε⊗id⁡B\varepsilon\otimes\operatorname{id}_Bが定まり、

(ε⊗id⁡B)(1A⊗b)=b(\varepsilon\otimes\operatorname{id}_B)(1_A\otimes b)=b

となる。したがって写像b↦1A⊗bb\mapsto1_A\otimes bは単射である。特に1A⊗1B≠01_A\otimes1_B\neq0であり、A⊗KBA\otimes_KBは非零である。

単純性を示す。IIをA⊗KBA\otimes_KBの非零両側イデアルとする。補題補題 2.2により、ある0≠b∈B0\neq b\in Bに対して1A⊗b∈I1_A\otimes b\in Iである。BBは単純であるからBbB=BBbB=Bであり、有限個のyj,zj∈By_j,z_j\in Bが存在して

∑jyjbzj=1B\sum_jy_jbz_j=1_B

となる。したがって

∑j(1A⊗yj)(1A⊗b)(1A⊗zj)=1A⊗1B\sum_j(1_A\otimes y_j)(1_A\otimes b)(1_A\otimes z_j) =1_A\otimes1_B

はIIに属する。単位元を含む両側イデアルは環全体であるから、I=A⊗KBI=A\otimes_KBである。よってA⊗KBA\otimes_KBは単純である。

中心を計算する。z∈Z(A⊗KB)z\in Z(A\otimes_KB)を取り、b1,…,brb_1,\ldots,b_rが一次独立となる表示

z=∑i=1rai⊗biz=\sum_{i=1}^ra_i\otimes b_i

を選ぶ。任意のx∈Ax\in Aに対して

0=(x⊗1B)z−z(x⊗1B)=∑i=1r(xai−aix)⊗bi0=(x\otimes1_B)z-z(x\otimes1_B) =\sum_{i=1}^r(xa_i-a_ix)\otimes b_i

である。bib_iの一次独立性からxai=aixxa_i=a_ixがすべてのiiについて成り立つ。したがってai∈Z(A)=K1Aa_i\in Z(A)=K1_Aであり、あるb∈Bb\in Bによってz=1A⊗bz=1_A\otimes bと書くことができる。上で示した写像b↦1A⊗bb\mapsto1_A\otimes bの単射性を用いる。任意のy∈By\in Bに対して

0=(1A⊗b)(1A⊗y)−(1A⊗y)(1A⊗b)=1A⊗(by−yb)0=(1_A\otimes b)(1_A\otimes y) -(1_A\otimes y)(1_A\otimes b) =1_A\otimes(by-yb)

であるから、by=ybby=ybである。よってb∈Z(B)=K1Bb\in Z(B)=K1_Bである。したがって

Z(A⊗KB)=K(1A⊗1B)Z(A\otimes_KB)=K(1_A\otimes1_B)

となる。有限次元性、単純性および中心性をすべて得たため、A⊗KBA\otimes_KBは中心単純KK-代数である。▨

3 包絡代数と自己準同型環

反対代数は、右からの乗法を左作用の一部として記述する。左乗法と右乗法を同時に作用させると、中心単純代数のすべてのKK-線形自己準同型が得られる。

定理 3.1.AAを中心単純KK-代数とする。写像

ΦA ⁣:A⊗KAop⟶End⁡K(A),ΦA(a⊗bop)(x):=axb\Phi_A\colon A\otimes_KA^{\mathrm{op}} \longrightarrow\operatorname{End}_K(A), \qquad \Phi_A(a\otimes b^{\mathrm{op}})(x):=axb

はKK-代数同型である。特にd=dim⁡KAd=\dim_KAと置くと、

A⊗KAop≅Md(K)A\otimes_KA^{\mathrm{op}}\cong M_d(K)

である。

証明. 写像(a,b)↦(x↦axb)(a,b)\mapsto(x\mapsto axb)はaaとbbのそれぞれについてKK線形であるため、テンソル積の普遍性によってKK-線形写像ΦA\Phi_Aを定める。AopA^{\mathrm{op}}の積では順序が逆になるので、

(a⊗bop)(c⊗dop)=ac⊗(db)op(a\otimes b^{\mathrm{op}})(c\otimes d^{\mathrm{op}}) =ac\otimes(db)^{\mathrm{op}}

である。任意のx∈Ax\in Aに対して

ΦA(ac⊗(db)op)(x)=acxdb,(ΦA(a⊗bop)∘ΦA(c⊗dop))(x)=a(cxd)b=acxdb\begin{aligned} \Phi_A(ac\otimes(db)^{\mathrm{op}})(x) &=acxdb,\\ \bigl(\Phi_A(a\otimes b^{\mathrm{op}}) \circ\Phi_A(c\otimes d^{\mathrm{op}})\bigr)(x) &=a(cxd)b=acxdb \end{aligned}

となる。さらにΦA(1A⊗1Aop)=id⁡A\Phi_A(1_A\otimes1_A^{\mathrm{op}})=\operatorname{id}_Aであるから、ΦA\Phi_Aは単位元を保つKK-代数準同型である。

単射性を示す。ker⁡ΦA\ker\Phi_AはA⊗KAopA\otimes_KA^{\mathrm{op}}の両側イデアルである。ker⁡ΦA≠0\ker\Phi_A\neq0ならば、補題補題 2.2をB=AopB=A^{\mathrm{op}}へ適用することにより、ある0≠b∈A0\neq b\in Aに対して

1A⊗bop∈ker⁡ΦA1_A\otimes b^{\mathrm{op}}\in\ker\Phi_A

となる。しかし

ΦA(1A⊗bop)(1A)=b≠0\Phi_A(1_A\otimes b^{\mathrm{op}})(1_A)=b\neq0

であり、矛盾する。したがってker⁡ΦA=0\ker\Phi_A=0である。

d=dim⁡KAd=\dim_KAと置く。反対代数の次元とテンソル積の次元に関する§E6.33 命題 3.1と§E6.33 命題 5.3により、

dim⁡K(A⊗KAop)=d2\dim_K(A\otimes_KA^{\mathrm{op}})=d^2

である。一方、AAのKK-基底e1,…,ede_1,\ldots,e_dを選ぶと、KK-線形自己準同型は各eie_iの像によって一意に定まり、各像はdd個の係数をもつ。したがって

dim⁡KEnd⁡K(A)=d2\dim_K\operatorname{End}_K(A)=d^2

である。同じ有限次元をもつ線形空間の間の単射であるから、ΦA\Phi_Aは全射でもある。

選んだ基底に関する行列表示は、合成を行列積へ写すKK-代数同型

End⁡K(A)≅Md(K)\operatorname{End}_K(A)\cong M_d(K)

を与える。二つの同型を合成すると、A⊗KAop≅Md(K)A\otimes_KA^{\mathrm{op}}\cong M_d(K)を得る。▨

4 Brauer 類の可換群

Brauer 同値類を[A][A]と書く。積の候補は

[A][B]:=[A⊗KB][A][B]:=[A\otimes_KB]

である。中心単純代数のテンソル積閉性だけでは、この式が代表元の選び方に依存しないことまでは分からない。次の主定理では、well-defined 性と群の公理を順に証明する。

4.1 証明方針

最初に、二つの代表元をそれぞれ行列安定化して得た同型をテンソルし、行列因子を補題補題 1.1によってまとめる。この安定化操作によって積の well-defined 性を示す。結合律と可換律にはテンソル積の結合同型と因子交換同型を用いる。KKの類が単位元であることを単位同型から示し、最後に定理 3.1を用いてAopA^{\mathrm{op}}の類が[A][A]の逆元であることを示す。

定理 4.1. 中心単純KK-代数の Brauer 同値類の全体をBr⁡(K)\operatorname{Br}(K)と書く。演算

[A]⋅[B]:=[A⊗KB][A]\cdot[B]:=[A\otimes_KB]

はBr⁡(K)\operatorname{Br}(K)上で well-defined であり、Br⁡(K)\operatorname{Br}(K)を可換群にする。単位元は[K][K]であり、[A][A]の逆元は[Aop][A^{\mathrm{op}}]である。

証明. 定理定理 2.3によりA⊗KBA\otimes_KBは中心単純KK-代数であるから、表示した積は中心単純代数の Brauer 類を値としてもつ。

代表元に関する well-defined 性を示す。A∼BrA′A\sim_{\mathrm{Br}}A'およびB∼BrB′B\sim_{\mathrm{Br}}B'とする。正の整数m,m′,n,n′m,m',n,n'とKK-代数同型

A⊗KMm(K)≅A′⊗KMm′(K),A\otimes_KM_m(K)\cong A'\otimes_KM_{m'}(K),B⊗KMn(K)≅B′⊗KMn′(K)B\otimes_KM_n(K)\cong B'\otimes_KM_{n'}(K)

を取る。二つの同型をテンソルし、結合同型と因子交換同型によって因子を並べ替えると、

(A⊗KB)⊗K(Mm(K)⊗KMn(K))≅(A′⊗KB′)⊗K(Mm′(K)⊗KMn′(K))\begin{aligned} &(A\otimes_KB)\otimes_K (M_m(K)\otimes_KM_n(K))\\ &\qquad\cong (A'\otimes_KB')\otimes_K (M_{m'}(K)\otimes_KM_{n'}(K)) \end{aligned}

を得る。補題補題 1.1によって、

(A⊗KB)⊗KMmn(K)≅(A′⊗KB′)⊗KMm′n′(K)(A\otimes_KB)\otimes_KM_{mn}(K) \cong (A'\otimes_KB')\otimes_KM_{m'n'}(K)

となる。したがってA⊗KB∼BrA′⊗KB′A\otimes_KB\sim_{\mathrm{Br}}A'\otimes_KB'であり、積は代表元の選び方に依存しない。

結合律を示す。 加群のテンソル積の結合同型§E6.14 定理 8.1は、純テンソルについて

(a⊗b)⊗c⟼a⊗(b⊗c)(a\otimes b)\otimes c \longmapsto a\otimes(b\otimes c)

で与えられる。純テンソルの積を両辺で計算すれば、この写像は単位元を保つKK-代数同型でもある。したがって

([A][B])[C]=[(A⊗KB)⊗KC]=[A⊗K(B⊗KC)]=[A]([B][C])([A][B])[C] =[(A\otimes_KB)\otimes_KC] =[A\otimes_K(B\otimes_KC)] =[A]([B][C])

である。

可換律を示す。 因子交換同型§E6.33 命題 5.2により

A⊗KB≅B⊗KAA\otimes_KB\cong B\otimes_KA

であるから、

[A][B]=[B][A][A][B]=[B][A]

である。

単位元を示す。 写像

K⊗KA⟶A,c⊗a⟼caK\otimes_KA\longrightarrow A, \qquad c\otimes a\longmapsto ca

は、逆写像a↦1K⊗aa\mapsto1_K\otimes aをもつKK-代数同型である。したがって

[K][A]=[A][K][A]=[A]

である。可換律から[A][K]=[A][A][K]=[A]も成り立つ。

逆元を示す。§E6.33 命題 3.1によりAopA^{\mathrm{op}}も中心単純KK-代数である。d=dim⁡KAd=\dim_KAとすると、定理定理 3.1により

A⊗KAop≅Md(K)A\otimes_KA^{\mathrm{op}}\cong M_d(K)

である。例例 1.5によりMd(K)∼BrKM_d(K)\sim_{\mathrm{Br}}Kであるから、

[A][Aop]=[K][A][A^{\mathrm{op}}]=[K]

となる。可換律により逆向きの積も[K][K]である。したがってBr⁡(K)\operatorname{Br}(K)は、単位元[K][K]と逆元[Aop][A^{\mathrm{op}}]をもつ可換群である。▨

注意 4.2 (扱わない発展的構成). 本記事の結論は、固定した基礎体KKごとに可換群Br⁡(K)\operatorname{Br}(K)が定まることである。個々の基礎体についてBr⁡(K)\operatorname{Br}(K)の元を列挙する問題、交差積代数によって中心単純代数を構成する方法、および群コホモロジーによって Brauer 類を記述する方法は、本記事の群構造の証明には用いない。本記事では、三つの問題を発展的な問題として位置づけるに留める。

5 演習

問題 5.1. 次の五項目を、本記事の定義と証明から導け。

  1. M2(K)⊗KM3(K)≅M6(K)M_2(K)\otimes_KM_3(K)\cong M_6(K)を、行列単位の像を明示して証明せよ。
  2. A∼BrBA\sim_{\mathrm{Br}}BとB∼BrCB\sim_{\mathrm{Br}}CからA∼BrCA\sim_{\mathrm{Br}}Cを導く際に、行列次数がどのように変化するかを示せ。
  3. A,BA,Bが中心単純KK-代数であるとき、A⊗KBA\otimes_KBの非零両側イデアルが単位元を含むことを証明せよ。
  4. 標準写像ΦA ⁣:A⊗KAop→End⁡K(A)\Phi_A\colon A\otimes_KA^{\mathrm{op}}\to\operatorname{End}_K(A)が単射であることを、両側イデアルからの純テンソルの抽出を用いて証明せよ。さらに有限次元性から全射を導け。
  5. [Mn(K)]=[K][M_n(K)]=[K]と[A]−1=[Aop][A]^{-1}=[A^{\mathrm{op}}]を証明し、C\mathbb Cを通常のR\mathbb R-代数とみなした代数がBr⁡(R)\operatorname{Br}(\mathbb R)の代表元にならない理由を述べよ。
解答 (演習の解答).
  1. M2(K)M_2(K)の行列単位をEijE_{ij}、M3(K)M_3(K)の行列単位をFpqF_{pq}とする。写像

    Eij⊗Fpq⟼G3(i−1)+p,3(j−1)+qE_{ij}\otimes F_{pq} \longmapsto G_{3(i-1)+p,3(j-1)+q}

    は、左辺の3636個の基底元をM6(K)M_6(K)の3636個の行列単位へ全単射に写す。さらに

    (Eij⊗Fpq)(Ekℓ⊗Frs)=δjkδqrEiℓ⊗Fps(E_{ij}\otimes F_{pq})(E_{k\ell}\otimes F_{rs}) =\delta_{jk}\delta_{qr}E_{i\ell}\otimes F_{ps}

    であり、像の行列単位も同じ積を満たす。この写像は単位元も保つため、KK-代数同型である。

  2. A∼BrBA\sim_{\mathrm{Br}}BとB∼BrCB\sim_{\mathrm{Br}}Cを与える同型を

    A⊗KMm(K)≅B⊗KMn(K),B⊗KMp(K)≅C⊗KMq(K)A\otimes_KM_m(K)\cong B\otimes_KM_n(K), \qquad B\otimes_KM_p(K)\cong C\otimes_KM_q(K)

    とする。第一の同型へMp(K)M_p(K)、第二の同型へMn(K)M_n(K)をテンソルする。中央の二つの行列因子を交換し、Mm(K)⊗KMp(K)≅Mmp(K)M_m(K)\otimes_KM_p(K)\cong M_{mp}(K)とMq(K)⊗KMn(K)≅Mqn(K)M_q(K)\otimes_KM_n(K)\cong M_{qn}(K)を用いると、

    A⊗KMmp(K)≅C⊗KMqn(K)A\otimes_KM_{mp}(K) \cong C\otimes_KM_{qn}(K)

    を得る。したがってA∼BrCA\sim_{\mathrm{Br}}Cである。

  3. IIをA⊗KBA\otimes_KBの非零両側イデアルとする。IIの非零元からテンソル長が最小のものを選び、単純性AaA=AAaA=Aを用いて第一係数を1A1_Aにする。x⊗1Bx\otimes1_Bとの交換子はテンソル長が真に短いため零である。したがって残りの第一係数もZ(A)=K1AZ(A)=K1_Aに属し、ある0≠b∈B0\neq b\in Bに対して1A⊗b∈I1_A\otimes b\in Iとなる。BBの単純性から、有限個のyj,zj∈By_j,z_j\in Bを用いて∑jyjbzj=1B\sum_jy_jbz_j=1_Bと書くことができる。よって

    1A⊗1B=∑j(1A⊗yj)(1A⊗b)(1A⊗zj)∈I1_A\otimes1_B =\sum_j(1_A\otimes y_j)(1_A\otimes b)(1_A\otimes z_j) \in I

    である。単位元を含む両側イデアルは環全体であるから、I=A⊗KBI=A\otimes_KBとなる。

  4. ker⁡ΦA\ker\Phi_AはA⊗KAopA\otimes_KA^{\mathrm{op}}の両側イデアルである。核が非零ならば、純テンソル抽出の補題により、ある0≠b∈A0\neq b\in Aに対して1A⊗bop∈ker⁡ΦA1_A\otimes b^{\mathrm{op}}\in\ker\Phi_Aとなる。しかし

    ΦA(1A⊗bop)(1A)=b≠0\Phi_A(1_A\otimes b^{\mathrm{op}})(1_A)=b\neq0

    であるため矛盾する。よってΦA\Phi_Aは単射である。d=dim⁡KAd=\dim_KAとすると、定義域の次元はd2d^2である。終域の自己準同型は基底のdd個の元の像によって定まり、各像はdd個の係数をもつため、終域の次元もd2d^2である。したがってΦA\Phi_Aは全射であり、KK-代数同型である。

  5. Brauer 同値の定義で

    Mn(K)⊗KM1(K)≅K⊗KMn(K)M_n(K)\otimes_KM_1(K) \cong K\otimes_KM_n(K)

    であるから[Mn(K)]=[K][M_n(K)]=[K]である。d=dim⁡KAd=\dim_KAとすれば

    A⊗KAop≅End⁡K(A)≅Md(K)A\otimes_KA^{\mathrm{op}} \cong\operatorname{End}_K(A) \cong M_d(K)

    であるため、[A][Aop]=[K][A][A^{\mathrm{op}}]=[K]となる。したがって[Aop][A^{\mathrm{op}}]は[A][A]の逆元である。一方、C\mathbb Cは単純な有限次元R\mathbb R-代数であるが、中心がC\mathbb CでありR1\mathbb R1より大きい。中心単純性を満たさないため、C\mathbb CはBr⁡(R)\operatorname{Br}(\mathbb R)の代表元ではない。

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参考文献

  1. Richard S. Pierce, Associative Algebras, Graduate Texts in Mathematics, Springer, New York, 1982.中心単純代数、包絡代数および Brauer 同値の標準的な定式化を参考にした。
  2. Philippe Gille and Tamás Szamuely, Central Simple Algebras and Galois Cohomology, 2nd ed., Cambridge Studies in Advanced Mathematics 165, Cambridge University Press, Cambridge, 2017.Brauer 群の積、単位元および反対代数による逆元の定式化を参考にした。
  3. T. Y. Lam, A First Course in Noncommutative Rings, 2nd ed., Graduate Texts in Mathematics, Springer, New York, 2001.単純 Artin 環と行列環の対応、および両側イデアルを用いる議論を参考にした。

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