§E6.13Hom の左完全性

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加群準同型の始域または終域を固定すると、ほかの加群の間の準同型から Hom 集合の間の写像が定まる。終域側の準同型を後から合成すると矢印の向きは保たれ、始域側の準同型を先に合成すると矢印の向きは反転する。この二つの操作は、短完全列の左端と中央における完全性を保つ。

本記事ではRRを単位元をもつ結合環とし、すべての加群を左RR加群、すべての写像を左RR線形写像とする。RRは可換とは限らない。加群準同型と Hom の記号には§E6.2 定義 4.1を用いる。§E6.2 命題 4.2により、Hom⁡R(M,N)\operatorname{Hom}_R(M,N)は点ごとの加法によってアーベル群になり、RR線形写像の合成はRR線形である。短完全列と完全性には§E6.9 定義 1.1の規約を用いる。

1 Hom の加法群構造と係数環

一般の非可換環では、Hom⁡R(M,N)\operatorname{Hom}_R(M,N)を無条件に左RR加群とみなすことはできない。本記事で完全性を考える際には、Hom をアーベル群として扱う。

例 1.1 (追加構造なしには Hom の左作用が定まらない例).kkを体、R:=Mat⁡2×2(k)R:=\operatorname{Mat}_{2\times2}(k)とし、左正則加群RR{}_RRを考える。f:=id⁡R∈Hom⁡R(R,R)f:=\operatorname{id}_R\in\operatorname{Hom}_R(R,R)とする。r∈Rr\in Rに対して

(r⋅f)(x):=rf(x)(r\cdot f)(x):=r f(x)

と定めても、r⋅fr\cdot fは一般には左RR線形でない。

実際、

p:=(0100),q:=(0010)p:=\begin{pmatrix}0&1\\0&0\end{pmatrix}, \qquad q:=\begin{pmatrix}0&0\\1&0\end{pmatrix}

と置くと、

pq=(1000)≠(0001)=qppq=\begin{pmatrix}1&0\\0&0\end{pmatrix} \ne \begin{pmatrix}0&0\\0&1\end{pmatrix}=qp

である。写像p⋅fp\cdot fについて、左RR線形性をq∈Rq\in Rと1R∈R1_R\in Rで検査すると

(p⋅f)(q1R)=pq,q(p⋅f)(1R)=qp(p\cdot f)(q1_R)=pq, \qquad q(p\cdot f)(1_R)=qp

となり、両者は一致しない。したがってp⋅f∉Hom⁡R(R,R)p\cdot f\notin\operatorname{Hom}_R(R,R)である。

追加の双加群構造がある場合には§E6.2 定理 5.1のような作用を定めることができるが、以下の結果にはそのような追加構造を仮定しない。

2 固定した始域から Hom を取る操作

左RR加群PPを固定する。終域の間の写像を後から合成すると、Hom の間の写像が同じ向きに定まる。

定義 2.1.u ⁣:A→Bu\colon A\to Bを左RR加群準同型とする。写像

u∗=Hom⁡R(P,u) ⁣:Hom⁡R(P,A)⟶Hom⁡R(P,B)u_*=\operatorname{Hom}_R(P,u)\colon \operatorname{Hom}_R(P,A)\longrightarrow\operatorname{Hom}_R(P,B)

を

u∗(φ):=u∘φu_*(\varphi):=u\circ\varphi

によって定め、この写像を固定した始域に対する共変 Hom 写像 (covariant Hom map with fixed source) という。

合成u∘φu\circ\varphiは§E6.2 命題 4.2によりRR線形であるため、この式は well-defined である。

命題 2.2. 固定した左RR加群PPに対して、次が成り立つ。

  1. 任意のRR線形写像u ⁣:A→Bu\colon A\to Bに対して、u∗u_*はアーベル群の準同型である。
  2. AAの恒等写像に対して (id⁡A)∗=id⁡Hom⁡R(P,A)(\operatorname{id}_A)_* =\operatorname{id}_{\operatorname{Hom}_R(P,A)} である。
  3. RR線形写像A→uB→vCA\xrightarrow{u}B\xrightarrow{v}Cに対して (v∘u)∗=v∗∘u∗(v\circ u)_*=v_*\circ u_* である。

証明.φ,ψ∈Hom⁡R(P,A)\varphi,\psi\in\operatorname{Hom}_R(P,A)とx∈Px\in Pに対して、uuの加法性から

u∗(φ+ψ)(x)=u(φ(x)+ψ(x))=u(φ(x))+u(ψ(x))=(u∗(φ)+u∗(ψ))(x)\begin{aligned} u_*(\varphi+\psi)(x) &=u\bigl(\varphi(x)+\psi(x)\bigr)\\ &=u(\varphi(x))+u(\psi(x))\\ &=\bigl(u_*(\varphi)+u_*(\psi)\bigr)(x) \end{aligned}

となる。またu∗(0)=u∘0=0u_*(0)=u\circ0=0である。したがってu∗u_*は加法群準同型である。

任意のφ ⁣:P→A\varphi\colon P\to Aに対して

(id⁡A)∗(φ)=id⁡A∘φ=φ(\operatorname{id}_A)_*(\varphi) =\operatorname{id}_A\circ\varphi =\varphi

である。さらに、任意のφ ⁣:P→A\varphi\colon P\to Aに対して合成の結合律から

(v∘u)∗(φ)=(v∘u)∘φ=v∘(u∘φ)=v∗(u∗(φ))(v\circ u)_*(\varphi) =(v\circ u)\circ\varphi =v\circ(u\circ\varphi) =v_*(u_*(\varphi))

となる。よって表示した恒等写像と合成に関する二等式が成り立つ。▨

3 固定した終域への Hom を取る操作

左RR加群NNを固定する。始域の間の写像を先に合成すると、Hom の間の写像は反対向きに定まる。

定義 3.1.u ⁣:A→Bu\colon A\to Bを左RR加群準同型とする。写像

u∗=Hom⁡R(u,N) ⁣:Hom⁡R(B,N)⟶Hom⁡R(A,N)u^*=\operatorname{Hom}_R(u,N)\colon \operatorname{Hom}_R(B,N)\longrightarrow\operatorname{Hom}_R(A,N)

を

u∗(ψ):=ψ∘uu^*(\psi):=\psi\circ u

によって定め、この写像を固定した終域に対する反変 Hom 写像 (contravariant Hom map with fixed target) という。

命題 3.2. 固定した左RR加群NNに対して、次が成り立つ。

  1. 任意のRR線形写像u ⁣:A→Bu\colon A\to Bに対して、u∗u^*はアーベル群の準同型である。
  2. AAの恒等写像に対して (id⁡A)∗=id⁡Hom⁡R(A,N)(\operatorname{id}_A)^* =\operatorname{id}_{\operatorname{Hom}_R(A,N)} である。
  3. RR線形写像A→uB→vCA\xrightarrow{u}B\xrightarrow{v}Cに対して (v∘u)∗=u∗∘v∗(v\circ u)^*=u^*\circ v^* である。

証明.φ,ψ∈Hom⁡R(B,N)\varphi,\psi\in\operatorname{Hom}_R(B,N)とx∈Ax\in Aに対して

u∗(φ+ψ)(x)=(φ+ψ)(u(x))=φ(u(x))+ψ(u(x))=(u∗(φ)+u∗(ψ))(x)u^*(\varphi+\psi)(x) =(\varphi+\psi)(u(x)) =\varphi(u(x))+\psi(u(x)) =\bigl(u^*(\varphi)+u^*(\psi)\bigr)(x)

となり、u∗(0)=0u^*(0)=0である。したがってu∗u^*は加法群準同型である。

任意のφ ⁣:A→N\varphi\colon A\to Nに対してφ∘id⁡A=φ\varphi\circ\operatorname{id}_A=\varphiであるから、恒等写像に関する等式を得る。任意のθ ⁣:C→N\theta\colon C\to Nに対して

(v∘u)∗(θ)=θ∘(v∘u)=(θ∘v)∘u=u∗(v∗(θ))(v\circ u)^*(\theta) =\theta\circ(v\circ u) =(\theta\circ v)\circ u =u^*(v^*(\theta))

となるため、合成の順序が反転する等式を得る。▨

4 共変 Hom の左完全性

短完全列

0⟶A′→ i A→ p A′′⟶00\longrightarrow A' \xrightarrow{\ i\ }A \xrightarrow{\ p\ }A'' \longrightarrow0

を取る。§E6.9 定義 1.1により、iiは単射、ppは全射であり、im⁡i=ker⁡p\operatorname{im}i=\ker pである。

共変な列では、値が単射iiの像に入る写像をiiを通して一意に因子化する。反変な列では、全射ppを通る因子写像を持ち上げから構成し、両方の場合に因子写像の加法性とRR線形性を確認する。

命題 4.1.RRを単位元をもつ結合環とし、

0⟶A′→ i A→ p A′′⟶00\longrightarrow A' \xrightarrow{\ i\ }A \xrightarrow{\ p\ }A'' \longrightarrow0

を左RR加群の短完全列とする。

  1. 任意の左RR加群PPに対して、アーベル群の列 0⟶Hom⁡R(P,A′)→ i∗ Hom⁡R(P,A)→ p∗ Hom⁡R(P,A′′)0\longrightarrow\operatorname{Hom}_R(P,A') \xrightarrow{\ i_*\ }\operatorname{Hom}_R(P,A) \xrightarrow{\ p_*\ }\operatorname{Hom}_R(P,A'') は完全である。
  2. 任意の左RR加群NNに対して、アーベル群の列 0⟶Hom⁡R(A′′,N)→ p∗ Hom⁡R(A,N)→ i∗ Hom⁡R(A′,N)0\longrightarrow\operatorname{Hom}_R(A'',N) \xrightarrow{\ p^*\ }\operatorname{Hom}_R(A,N) \xrightarrow{\ i^*\ }\operatorname{Hom}_R(A',N) は完全である。

表示した列の右端に→0\to0は付けない。したがって、p∗p_*またはi∗i^*の全射性は主張していない。

証明. まず共変な列を証明する。

i∗i_*の単射性。φ∈Hom⁡R(P,A′)\varphi\in\operatorname{Hom}_R(P,A')がi∗(φ)=i∘φ=0i_*(\varphi)=i\circ\varphi=0を満たすとする。任意のx∈Px\in Pに対してi(φ(x))=0i(\varphi(x))=0である。iiは単射であるためφ(x)=0\varphi(x)=0となり、φ=0\varphi=0である。よってi∗i_*は単射である。

im⁡i∗⊆ker⁡p∗\operatorname{im}i_*\subseteq\ker p_*。 任意のφ ⁣:P→A′\varphi\colon P\to A'に対して

p∗(i∗(φ))=p∘i∘φ=0p_*(i_*(\varphi)) =p\circ i\circ\varphi =0

である。最後の等式にはim⁡i=ker⁡p\operatorname{im}i=\ker pを用いた。

ker⁡p∗⊆im⁡i∗\ker p_*\subseteq\operatorname{im}i_*。ψ∈Hom⁡R(P,A)\psi\in\operatorname{Hom}_R(P,A)がp∗(ψ)=p∘ψ=0p_*(\psi)=p\circ\psi=0を満たすとする。各x∈Px\in Pについてψ(x)∈ker⁡p=im⁡i\psi(x)\in\ker p=\operatorname{im}iであるため、i(φ(x))=ψ(x)i(\varphi(x))=\psi(x)を満たすφ(x)∈A′\varphi(x)\in A'が存在する。iiは単射であるため、このφ(x)\varphi(x)は一意である。この対応によって写像φ ⁣:P→A′\varphi\colon P\to A'を定める。

x,y∈Px,y\in Pに対して

i(φ(x+y))=ψ(x+y)=ψ(x)+ψ(y)=i(φ(x)+φ(y))i(\varphi(x+y)) =\psi(x+y) =\psi(x)+\psi(y) =i(\varphi(x)+\varphi(y))

である。iiの単射性からφ(x+y)=φ(x)+φ(y)\varphi(x+y)=\varphi(x)+\varphi(y)を得る。同様に、r∈Rr\in Rに対して

i(φ(rx))=ψ(rx)=rψ(x)=i(rφ(x))i(\varphi(rx)) =\psi(rx) =r\psi(x) =i(r\varphi(x))

であるため、φ(rx)=rφ(x)\varphi(rx)=r\varphi(x)となる。よってφ\varphiはRR線形であり、定義からi∘φ=ψi\circ\varphi=\psiである。したがってψ=i∗(φ)\psi=i_*(\varphi)であり、共変な列の完全性を得る。

次に反変な列を証明する。

p∗p^*の単射性。α∈Hom⁡R(A′′,N)\alpha\in\operatorname{Hom}_R(A'',N)がp∗(α)=α∘p=0p^*(\alpha)=\alpha\circ p=0を満たすとする。任意のz∈A′′z\in A''に対して、ppの全射性からp(a)=zp(a)=zとなるa∈Aa\in Aが存在する。したがって

α(z)=α(p(a))=0\alpha(z)=\alpha(p(a))=0

であり、α=0\alpha=0である。よってp∗p^*は単射である。

im⁡p∗⊆ker⁡i∗\operatorname{im}p^*\subseteq\ker i^*。 任意のα ⁣:A′′→N\alpha\colon A''\to Nに対して

i∗(p∗(α))=α∘p∘i=0i^*(p^*(\alpha)) =\alpha\circ p\circ i =0

である。

ker⁡i∗⊆im⁡p∗\ker i^*\subseteq\operatorname{im}p^*。β∈Hom⁡R(A,N)\beta\in\operatorname{Hom}_R(A,N)がi∗(β)=β∘i=0i^*(\beta)=\beta\circ i=0を満たすとする。z∈A′′z\in A''に対して、ppの全射性を用いてp(a)=zp(a)=zとなるa∈Aa\in Aを取り、

α(z):=β(a)\alpha(z):=\beta(a)

と定める。

この値がaaの選び方に依存しないことを示す。p(a)=p(a′)p(a)=p(a')ならば

a−a′∈ker⁡p=im⁡ia-a'\in\ker p=\operatorname{im}i

であるため、あるa0∈A′a_0\in A'によってa−a′=i(a0)a-a'=i(a_0)と書くことができる。したがって

β(a)−β(a′)=β(i(a0))=0\beta(a)-\beta(a') =\beta(i(a_0)) =0

である。よってα\alphaは well-defined である。

z,w∈A′′z,w\in A''に対してp(a)=zp(a)=z、p(b)=wp(b)=wとなるa,b∈Aa,b\in Aを取ると、p(a+b)=z+wp(a+b)=z+wであるから

α(z+w)=β(a+b)=β(a)+β(b)=α(z)+α(w)\alpha(z+w) =\beta(a+b) =\beta(a)+\beta(b) =\alpha(z)+\alpha(w)

となる。r∈Rr\in Rに対してp(ra)=rzp(ra)=rzであるから

α(rz)=β(ra)=rβ(a)=rα(z)\alpha(rz)=\beta(ra)=r\beta(a)=r\alpha(z)

となる。したがってα\alphaはRR線形である。任意のa∈Aa\in Aに対して

(p∗(α))(a)=α(p(a))=β(a)(p^*(\alpha))(a) =\alpha(p(a)) =\beta(a)

であるため、β=p∗(α)\beta=p^*(\alpha)となる。以上により反変な列も完全である。▨

5 余核に対する反変 Hom の形

反変な場合の左完全性は、左端の単射を仮定しない形へ拡張することができる。右端の全射とその直前の完全性だけを仮定した列は、右端の加群を左隣の加群の余核として表示している。次の系は、反変 Hom がこの余核を核へ移すことを述べる。この形は、余核として与えた加群からの準同型を、その一つ左の加群からの準同型のうち合成が零になるものとして読み替えるときに用いる。

系 5.1.RRを単位元をもつ結合環とし、左RR加群の列

B→ u A→ p C⟶0B\xrightarrow{\ u\ }A \xrightarrow{\ p\ }C \longrightarrow0

を完全とする。すなわちppは全射であり、im⁡u=ker⁡p\operatorname{im}u=\ker pである。このとき、任意の左RR加群NNに対して、アーベル群の列

0⟶Hom⁡R(C,N)→ p∗ Hom⁡R(A,N)→ u∗ Hom⁡R(B,N)0\longrightarrow\operatorname{Hom}_R(C,N) \xrightarrow{\ p^*\ }\operatorname{Hom}_R(A,N) \xrightarrow{\ u^*\ }\operatorname{Hom}_R(B,N)

は完全である。

とくに、β ⁣:A→N\beta\colon A\to Nがβ∘u=0\beta\circ u=0を満たすならば、α∘p=β\alpha\circ p=\betaを満たすRR線形写像α ⁣:C→N\alpha\colon C\to Nがただ一つ存在する。

証明.A′:=im⁡u=ker⁡pA':=\operatorname{im}u=\ker pと置き、i ⁣:A′→Ai\colon A'\to Aを包含写像、u‾ ⁣:B→A′\overline u\colon B\to A'をuuの終域をA′A'へ制限した写像とする。A′A'はAAの部分加群であるため、iiは単射なRR線形写像であり、u‾\overline uは全射なRR線形写像であってu=i∘u‾u=i\circ\overline uが成り立つ。仮定im⁡i=A′=ker⁡p\operatorname{im}i=A'=\ker pとppの全射性により、列

0⟶A′→ i A→ p C⟶00\longrightarrow A' \xrightarrow{\ i\ }A \xrightarrow{\ p\ }C \longrightarrow0

は短完全列である。したがって命題 4.1 (2)により、

0⟶Hom⁡R(C,N)→ p∗ Hom⁡R(A,N)→ i∗ Hom⁡R(A′,N)0\longrightarrow\operatorname{Hom}_R(C,N) \xrightarrow{\ p^*\ }\operatorname{Hom}_R(A,N) \xrightarrow{\ i^*\ }\operatorname{Hom}_R(A',N)

は完全である。

u=i∘u‾u=i\circ\overline uからu∗=u‾ ∗∘i∗u^*=\overline u^{\,*}\circ i^*である。u‾\overline uは全射であるため、φ∘u‾=0\varphi\circ\overline u=0を満たすφ ⁣:A′→N\varphi\colon A'\to Nは零写像に限り、u‾ ∗\overline u^{\,*}は単射である。単射な準同型を後から合成しても核は変わらないため

ker⁡u∗=ker⁡(u‾ ∗∘i∗)=ker⁡i∗\ker u^* =\ker(\overline u^{\,*}\circ i^*) =\ker i^*

である。ゆえにp∗p^*は単射であり、im⁡p∗=ker⁡i∗=ker⁡u∗\operatorname{im}p^*=\ker i^*=\ker u^*が成り立つ。よって表示した列は完全である。

最後の主張を示す。β∘u=0\beta\circ u=0はβ∈ker⁡u∗=im⁡p∗\beta\in\ker u^*=\operatorname{im}p^*を意味するため、α∘p=β\alpha\circ p=\betaを満たすα\alphaが存在する。p∗p^*が単射であるため、このα\alphaは一意である。▨

6 右端の写像が全射でない例

左完全性は、二つの列の右端の写像が全射であることを含まない。共変な列では、p∗p_*の全射性はA′′A''への写像をppに沿って持ち上げることができるかどうかを表す。反変な列では、i∗i^*の全射性はA′A'上の写像をAA全体へ延長することができるかどうかを表す。

定義 6.1. 全射p ⁣:A→Bp\colon A\to BとRR線形写像α ⁣:P→B\alpha\colon P\to Bに対して、RR線形写像α~ ⁣:P→A\widetilde\alpha\colon P\to Aが

p∘α~=αp\circ\widetilde\alpha=\alpha

を満たすとき、α~\widetilde\alphaをα\alphaのppに沿う持ち上げ (lift along a surjection) という。

固定したppとPPに対して、

p∗ ⁣:Hom⁡R(P,A)⟶Hom⁡R(P,B)p_*\colon\operatorname{Hom}_R(P,A)\longrightarrow\operatorname{Hom}_R(P,B)

が全射であることは、すべてのα ⁣:P→B\alpha\colon P\to Bがppに沿う持ち上げをもつことと同値である。本記事では、すべての全射に対するこの条件を加群の性質として定義しない。

例 6.2 (共変 Hom と反変 Hom の非全射性). 整数n≥2n\ge2に対して、Z\mathbb Z加群の短完全列

0⟶Z→ ×n Z→ q Z/nZ⟶00\longrightarrow\mathbb Z \xrightarrow{\ \times n\ }\mathbb Z \xrightarrow{\ q\ }\mathbb Z/n\mathbb Z \longrightarrow0

を考える。

共変な場合にはP:=Z/nZP:=\mathbb Z/n\mathbb Zとする。任意の準同型f ⁣:Z/nZ→Zf\colon\mathbb Z/n\mathbb Z\to\mathbb Zに対して、a:=f(1+nZ)a:=f(1+n\mathbb Z)と置くと

na=f(n(1+nZ))=f(0)=0na=f(n(1+n\mathbb Z))=f(0)=0

となる。Z\mathbb Zには非零のnn倍で零となる元がないためa=0a=0であり、f=0f=0である。したがって

Hom⁡Z(Z/nZ,Z)=0\operatorname{Hom}_{\mathbb Z}(\mathbb Z/n\mathbb Z,\mathbb Z)=0

である。一方、

id⁡Z/nZ∈Hom⁡Z(Z/nZ,Z/nZ)\operatorname{id}_{\mathbb Z/n\mathbb Z} \in\operatorname{Hom}_{\mathbb Z}(\mathbb Z/n\mathbb Z,\mathbb Z/n\mathbb Z)

は非零である。よって

q∗ ⁣:Hom⁡Z(Z/nZ,Z)⟶Hom⁡Z(Z/nZ,Z/nZ)q_*\colon \operatorname{Hom}_{\mathbb Z}(\mathbb Z/n\mathbb Z,\mathbb Z) \longrightarrow \operatorname{Hom}_{\mathbb Z}(\mathbb Z/n\mathbb Z,\mathbb Z/n\mathbb Z)

は全射でない。特に恒等写像はqqに沿う持ち上げをもたない。

反変な場合にはN:=ZN:=\mathbb Zとする。準同型f ⁣:Z→Zf\colon\mathbb Z\to\mathbb Zはf(1)=a∈Zf(1)=a\in\mathbb Zによって一意に定まり、f(m)=maf(m)=maである。したがって評価写像により

Hom⁡Z(Z,Z)≅Z\operatorname{Hom}_{\mathbb Z}(\mathbb Z,\mathbb Z)\cong\mathbb Z

と同一視することができる。この同一視の下で、前合成による写像

(×n)∗ ⁣:Hom⁡Z(Z,Z)⟶Hom⁡Z(Z,Z)(\times n)^*\colon \operatorname{Hom}_{\mathbb Z}(\mathbb Z,\mathbb Z) \longrightarrow \operatorname{Hom}_{\mathbb Z}(\mathbb Z,\mathbb Z)

はa↦naa\mapsto naに対応する。実際、

(f∘(×n))(1)=f(n)=na(f\circ(\times n))(1)=f(n)=na

である。n≥2n\ge2であるため11はこの写像の像に属さず、(×n)∗(\times n)^*は全射でない。この非全射性は、準同型nZ→Z, nm↦mn\mathbb Z\to\mathbb Z,\ nm\mapsto mをZ→Z\mathbb Z\to\mathbb Zへ延長することができないことを表す。

7 演習

問題 7.1 (Hom の左完全性の確認). 次の各問に答えよ。

  1. 一般の非可換環上で(r⋅f)(m)=rf(m)(r\cdot f)(m)=rf(m)という式がHom⁡R(M,N)\operatorname{Hom}_R(M,N)の左RR作用を定めない理由を説明し、例 1.1の行列で直接確認せよ。
  2. 固定したPPに対するu∗(φ)=u∘φu_*(\varphi)=u\circ\varphiが加法群準同型であり、恒等写像と合成を同じ向きに保つことを証明せよ。
  3. 固定したNNに対するu∗(ψ)=ψ∘uu^*(\psi)=\psi\circ uが加法群準同型であり、合成の順序を反転させることを証明せよ。
  4. 短完全列に共変 Hom を施した列について、i∗i_*の単射性とim⁡i∗=ker⁡p∗\operatorname{im}i_*=\ker p_*を証明せよ。特に、ker⁡p∗\ker p_*の元から作る因子写像が加法とRRの作用を保つことを示せ。
  5. 短完全列に反変 Hom を施した列について、p∗p^*の単射性とim⁡p∗=ker⁡i∗\operatorname{im}p^*=\ker i^*を証明せよ。特に、A′′A''の元の持ち上げの選択から作る写像の well-defined 性とRR線形性を示せ。
  6. 例 6.2の短完全列について、共変なq∗q_*と反変な(×n)∗(\times n)^*が全射でないことをそれぞれ計算せよ。
  7. 全射p ⁣:A→Bp\colon A\to Bに対するp∗ ⁣:Hom⁡R(P,A)→Hom⁡R(P,B)p_*\colon\operatorname{Hom}_R(P,A)\to\operatorname{Hom}_R(P,B)の全射性を、個別の写像の持ち上げによって言い換えよ。本記事がこの条件を加群の性質として定義しない理由を述べよ。
  8. 完全列B→uA→pC→0B\xrightarrow uA\xrightarrow pC\to0を取る。uuを像への全射と包含へ分解し、命題 4.1 (2)から系 5.1を導け。とくに、全射との合成が核を変えないことを用いてker⁡u∗=ker⁡i∗\ker u^*=\ker i^*を示せ。
解答 (演習の解答).
  1. ffが左RR線形でも、(r⋅f)(sm)=rsf(m)(r\cdot f)(sm)=rsf(m)とs(r⋅f)(m)=srf(m)s(r\cdot f)(m)=srf(m)は一般には一致しない。例のR=Mat⁡2×2(k)R=\operatorname{Mat}_{2\times2}(k)ではf=id⁡Rf=\operatorname{id}_R、r=pr=p、s=qs=q、m=1Rm=1_Rとすると、二つの値はpqpqとqpqpであり一致しない。したがって追加構造なしには Hom を左RR加群とみなさない。
  2. u∗(φ+ψ)=u∘(φ+ψ)=u∘φ+u∘ψu_*(\varphi+\psi)=u\circ(\varphi+\psi)=u\circ\varphi+u\circ\psiであり、零写像も零写像へ移る。恒等写像について(id⁡A)∗(φ)=φ(\operatorname{id}_A)_*(\varphi)=\varphiである。A→uB→vCA\xrightarrow{u}B\xrightarrow{v}Cに対して、合成の結合律から(v∘u)∗(φ)=v∘(u∘φ)=v∗(u∗(φ))(v\circ u)_*(\varphi)=v\circ(u\circ\varphi)=v_*(u_*(\varphi))となる。
  3. u∗(φ+ψ)=(φ+ψ)∘u=φ∘u+ψ∘uu^*(\varphi+\psi)=(\varphi+\psi)\circ u=\varphi\circ u+\psi\circ uである。恒等写像は恒等写像を誘導する。また(v∘u)∗(θ)=θ∘v∘u=u∗(v∗(θ))(v\circ u)^*(\theta)=\theta\circ v\circ u=u^*(v^*(\theta))であるため、合成の順序は反転する。
  4. i∘φ=0i\circ\varphi=0ならばiiの単射性から各点でφ=0\varphi=0となる。p∘i=0p\circ i=0であるためim⁡i∗⊆ker⁡p∗\operatorname{im}i_*\subseteq\ker p_*である。p∘ψ=0p\circ\psi=0ならばψ(x)∈ker⁡p=im⁡i\psi(x)\in\ker p=\operatorname{im}iである。i(φ(x))=ψ(x)i(\varphi(x))=\psi(x)となる一意なφ(x)\varphi(x)を取る。iφ(x+y)=i(φ(x)+φ(y))i\varphi(x+y)=i(\varphi(x)+\varphi(y))とiφ(rx)=i(rφ(x))i\varphi(rx)=i(r\varphi(x))が成り立ち、iiの単射性からφ\varphiはRR線形である。よってi∗(φ)=ψi_*(\varphi)=\psiとなる。
  5. α∘p=0\alpha\circ p=0ならば、ppの全射性からα=0\alpha=0である。p∘i=0p\circ i=0であるためim⁡p∗⊆ker⁡i∗\operatorname{im}p^*\subseteq\ker i^*となる。β∘i=0\beta\circ i=0とし、p(a)=zp(a)=zとなるaaを取ってα(z)=β(a)\alpha(z)=\beta(a)と定める。二つの持ち上げの差はker⁡p=im⁡i\ker p=\operatorname{im}iに属し、β\betaはim⁡i\operatorname{im}iを零に写すため、α\alphaは well-defined である。z,wz,wの持ち上げa,ba,bに対してa+ba+bはz+wz+wの持ち上げであり、raraはrzrzの持ち上げであるため、α\alphaは加法とRRの作用を保つ。定義からα∘p=β\alpha\circ p=\betaである。
  6. Hom⁡Z(Z/nZ,Z)=0\operatorname{Hom}_{\mathbb Z}(\mathbb Z/n\mathbb Z,\mathbb Z)=0であるが、Hom⁡Z(Z/nZ,Z/nZ)\operatorname{Hom}_{\mathbb Z}(\mathbb Z/n\mathbb Z,\mathbb Z/n\mathbb Z)は非零の恒等写像を含むため、q∗q_*は全射でない。Hom⁡Z(Z,Z)≅Z\operatorname{Hom}_{\mathbb Z}(\mathbb Z,\mathbb Z)\cong\mathbb Zの下で(×n)∗(\times n)^*はa↦naa\mapsto naであり、n≥2n\ge2では全射でない。
  7. p∗p_*が全射であることは、任意のα ⁣:P→B\alpha\colon P\to Bに対してp∘α~=αp\circ\widetilde\alpha=\alphaを満たすα~ ⁣:P→A\widetilde\alpha\colon P\to Aが存在することと同値である。すべての全射に対してこの条件を要求して得られる加群の性質は後続記事の対象であるため、本記事では固定したppとα\alphaに対する持ち上げだけを定める。
  8. A′:=im⁡u=ker⁡pA':=\operatorname{im}u=\ker pと置き、u=i∘u‾u=i\circ\overline uと分解する。ここでu‾ ⁣:B→A′\overline u\colon B\to A'は全射、i ⁣:A′→Ai\colon A'\to Aは包含である。0→A′→iA→pC→00\to A'\xrightarrow iA\xrightarrow pC\to0は短完全列であるから、命題 4.1 (2)によりp∗p^*は単射でim⁡p∗=ker⁡i∗\operatorname{im}p^*=\ker i^*である。u∗=u‾ ∗∘i∗u^*=\overline u^{\,*}\circ i^*であり、u‾\overline uが全射であることからu‾ ∗\overline u^{\,*}は単射であるためker⁡u∗=ker⁡i∗\ker u^*=\ker i^*となる。よってim⁡p∗=ker⁡u∗\operatorname{im}p^*=\ker u^*が成り立つ。

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8 後続記事との関係

本記事では、固定した始域または終域に対する Hom の誘導写像を具体的に定め、短完全列から得られる二つの列の左完全性を証明した。あわせて、反変の場合を左端の単射を仮定しない形へ拡張し、反変 Hom が余核を核へ移すことを系 5.1で示した。後続記事はこの系を、自由加群の間の準同型の余核として与えた加群のテンソル積が普遍性を満たすことの証明に用いる。さらに後続記事ではテンソル積と Hom の対応を構成し、全射に沿う持ち上げが常に存在する加群を別に定義して Hom の完全性との関係を扱う。

参考文献

  1. Charles A. Weibel, An Introduction to Homological Algebra, Cambridge University Press, 1994.Hom の共変および反変の左完全性と完全列の標準的な定式化を参考にした。
  2. Joseph J. Rotman, An Introduction to Homological Algebra, 2nd ed., Universitext, Springer, 2009.Hom が誘導する写像、因子化および持ち上げによる元ごとの証明を参考にした。
  3. T. Y. Lam, Lectures on Modules and Rings, Graduate Texts in Mathematics, Springer, New York, 1999.一般の非可換環上の左加群準同型と Hom の加法群構造を参考にした。

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