1 PID 上の自由分解と自由複体
命題 1.1.Rを単項イデアル整域、M,Nを任意のR-加群とする。Mは長さ1以下の自由分解をもち、すべての整数q≥2に対して
TorqR(M,N)=0,ExtRq(M,N)=0が成り立つ。
証明.§E6.38 定理 1.3により、自由加群からの全射F→Mを取り、その核をKとする。§E6.30 定理 1.1によりKも自由である。したがって
0⟶K⟶F⟶M⟶0は長さ1以下の自由分解である。自由加群は射影的であるから(§E6.16 系 1.3)、この分解を用いて Tor と Ext を計算することができる(§E6.41 命題 1.4、§E6.39 定理 1.4)。テンソル積を施した鎖複体と Hom を施した余鎖複体は、ともに次数0,1以外で零である。よって次数q≥2のホモロジーとコホモロジーは零である。▨
補題 1.2.Rを単項イデアル整域、Cを各項が自由R-加群である整数次数の鎖複体とする。すべての整数nに対してZn(C)とBn(C)は自由であり、短完全列
0⟶Zn(C)⟶CndnCBn−1(C)⟶0は分裂する。各次数で切断sn−1:Bn−1(C)→Cnを選ぶと、写像
Zn(C)⊕Bn−1(C)⟶Cn,(z,b)⟼z+sn−1(b)は同型であり、この表示で微分は(z,b)↦(b,0)となる。
各i∈Zに対し、包含Bi(C)↪Zi(C)を次数i+1,iに置き、ほかの項を零とする二項複体をEiとすれば、切断の選択によって複体の同型C≅⨁i∈ZEiが得られる。
証明.Zn(C)とBn(C)はともに自由加群Cnの部分加群であるから、§E6.30 定理 1.1により自由である。Bn−1(C)は射影的であるため、§E6.16 命題 1.2 (2)により表示された短完全列に切断sn−1が存在する。
c∈Cnは
c=(c−sn−1(dnCc))+sn−1(dnCc)と一意に表され、括弧内の元はZn(C)に属する。よって主張の写像は同型である。dnC(z+sn−1(b))=bであり、bはZn−1(C)に属するため、微分の表示は(z,b)↦(b,0)である。次数nにおける⨁iEiの非零となりうる成分はZn(C)とBn−1(C)だけであり、その微分はこの表示と一致する。▨
2 複体のテンソル積
定義 2.1 (複体のテンソル積).Rを単項イデアル整域、C,Dを整数次数のR-加群の鎖複体とする。各n∈Zに対して
(C⊗RD)n=i+j=n⨁Ci⊗RDjとおき、c∈Ci、y∈Djに対して
d(c⊗y)=dCc⊗y+(−1)ic⊗dDyと定める。この鎖複体をC,Dの テンソル積 (tensor product of chain complexes) という。
各成分の式は双線形であり、テンソル積と直和の普遍性によって次数を1下げる線形写像を定める。また、
d2(c⊗y)=dC2c⊗y+((−1)i−1+(−1)i)dCc⊗dDy+c⊗dD2y=0である。したがってこの式は鎖複体を与える。
鎖写像f:C→C′、g:D→D′は、各成分でc⊗y↦fi(c)⊗gj(y)とする鎖写像f⊗gを誘導する。微分との可換性はdC′f=fdCとdD′g=gdDから従い、この対応は恒等写像と合成を保つ。
補題 2.2.Rを単項イデアル整域、Aを各項が自由で微分が零である整数次数の鎖複体、Dを任意のR-加群の鎖複体とする。各n∈Zに対し、自然な同型
i+j=n⨁Ai⊗RHj(D) ∼ Hn(A⊗RD),a⊗[y]⟼[a⊗y]がある。
証明.Aiの基底を一つ選ぶと、§E6.14 定理 4.2によりAi⊗RDの各項はDの項の直和となる。Aiを次数iに置いたテンソル積の微分は各成分で(−1)idDであり、この符号は核と像を変えない。直和の元は有限個の非零成分をもち、直和写像の核は核の直和、像は像の直和である。したがってホモロジーも成分のホモロジーの直和であり、表示された写像は同型となる。写像の公式は基底を用いておらず、A,Dの鎖写像を施す順序によらないため、この同型は両変数について自然である。▨
3 自然短完全列と分裂
定理 3.1 (Künneth の定理).Rを単項イデアル整域、Cを各項が自由R-加群である整数次数の鎖複体、Dを任意のR-加群の鎖複体とする。すべてのn∈Zに対し、短完全列
0⟶i+j=n⨁Hi(C)⊗RHj(D)αnHn(C⊗RD)βni+j=n−1⨁Tor1R(Hi(C),Hj(D))⟶0がある。ここでc∈Zi(C)、y∈Zj(D)に対してαn([c]⊗[y])=[c⊗y]である。
この列は両変数の鎖写像について自然である。すなわち、C′も項別自由であり、f:C→C′、g:D→D′が鎖写像ならば、左項の⨁(Hi(f)⊗Hj(g))、中央項のHn(f⊗g)、右項の⨁Tor1R(Hi(f),Hj(g))は短完全列の射を与える。
証明.Zn=Zn(C)、Bn=Bn(C)とおき、次数nの項がそれぞれZn、Bn−1で微分が零である複体をZ,Qとする。包含ιn:Zn↪Cnと微分pn=dnC:Cn→Bn−1=Qnは複体の短完全列
0⟶ZιCpQ⟶0を与える。補題 1.2によりこの列は各次数で分裂する。分裂した列にDjとのテンソル積を施すと、直和との交換(§E6.14 命題 9.1)により短完全列を得る。その直和を取ることにより、複体の短完全列
0⟶Z⊗RD⟶C⊗RD⟶Q⊗RD⟶0を得る。
Z,Qは項別自由かつ微分が零であるから、補題 2.2により
Hn(Z⊗RD)≅i+j=n⨁Zi⊗RHj(D),Hn(Q⊗RD)≅i+j=n−1⨁Bi⊗RHj(D)である。§E6.37 定理 2.2の連結準同型δn:Hn(Q⊗RD)→Hn−1(Z⊗RD)は、これらの同型の下で包含ui:Bi↪Ziが誘導する写像⨁i+j=n−1(ui⊗1)となる。実際、b∈Bi、y∈Zj(D)に対し、dCb=bを満たすb∈Ci+1を取ると、
d(b⊗y)=b⊗yであるため、連結準同型の公式はb⊗[y]をui(b)⊗[y]に送る。
各iに対して
0⟶BiuiZi⟶Hi(C)⟶0は長さ1以下の自由分解である。この分解で Tor を計算し、テンソル積の右完全性(§E6.14 命題 11.3)を用いると、任意のR-加群Nに対して
ker(ui⊗1N)≅Tor1R(Hi(C),N),coker(ui⊗1N)≅Hi(C)⊗RNとなる。核と余核は直和と交換するから、長完全列の一部分を
0⟶cokerδn+1⟶Hn(C⊗RD)⟶kerδn⟶0と書けば、主張の短完全列を得る。左の写像はZ⊗RD→C⊗RDが誘導するため、αnは表示された公式を満たす。右の写像βnはHn(p⊗1)の像をkerδnとみなし、上の Tor との同型を施した写像である。
鎖写像f:C→C′はサイクルと境界に制限され、Z→Z′、Q→Q′を与える。これらとfは最初の短完全列の射を定めるため、g:D→D′とテンソル積を取ると、テンソル後の短完全列の射を得る。§E6.37 命題 2.3により長完全列の写像は可換である。また、fの制限は上の自由分解の間でHi(f)を持ち上げる写像であるため、核の同定は§E6.41 命題 1.4の自然性と一致する。余核の同定もテンソル積の誘導写像と可換であり、短完全列全体の自然性が従う。▨
系 3.2.Rを単項イデアル整域、C,Dをともに各項が自由である整数次数のR-加群の鎖複体とする。このとき定理 3.1の短完全列は、すべてのn∈Zで分裂する。したがって
Hn(C⊗RD)≅(i+j=n⨁Hi(C)⊗RHj(D))⊕(i+j=n−1⨁Tor1R(Hi(C),Hj(D)))となる。この分裂は一般に両変数について自然に選ぶことができない。
証明.補題 1.2の切断を両複体で選び、C≅⨁iEi、D≅⨁jFjと分解する。EiはBi(C)↪Zi(C)を次数i+1,iに置いた複体であり、FjもDから同様に作る。§E6.14 命題 9.1により
C⊗RD≅i,j⨁(Ei⊗RFj)であり、微分もこの直和分解を保つ。直和の核と像は成分ごとの核と像の直和であるため、ホモロジーを取っても直和分解を得る。
Eiのホモロジーは次数iのHi(C)だけであり、Fjのホモロジーは次数jのHj(D)だけである。定理 3.1をEi,Fjに適用すると、次数i+jではαi+jが同型、次数i+j+1ではβi+j+1が同型となり、それ以外の次数のホモロジーは零である。各i+j=n−1に対するβnの逆写像を直和し、Ei⊗RFjの包含による誘導写像を合成する。主定理の自然性により、得られる写像はC,Dに対するβnの切断である。この構成は初めに選んだ複体の分解に依存する。自然な分裂が存在しない場合は例 3.3に示す。▨
例 3.3.Z上の自由複体C,Dを
C1=Za⊕Zb,C0=Ze,dCa=2e,dCb=0,D1=Zu,D0=Zv,dDu=2vと定め、ほかの項を零とする。H1(C)=Z[b]、H0(C)=Z/2Z、H0(D)=Z/2Zであり、残りのホモロジーは零である。
(C⊗D)1のサイクルは
x=b⊗v,t=a⊗v−e⊗uを基底にもつ。実際、λa⊗v+μb⊗v+νe⊗uの微分は2(λ+ν)e⊗vである。また、次数2の基底a⊗u,b⊗uの微分はそれぞれ−2t,−2xである。したがって
H1(C⊗D)=(Z/2Z)[x]⊕(Z/2Z)[t]であり、Künneth の列の左項の像は(Z/2Z)[x]である。右項の非零元をτ=β1([t])と書く。
f1(a)=a+b、f1(b)=b、f0(e)=eと定めると、f:C→Cは鎖同型であり、すべてのホモロジーに恒等写像を誘導する。しかし、H1(f⊗idD)は[x]を固定し、[t]を[t]+[x]に送る。τの逆像は[t]と[t]+[x]の二つであり、どちらも固定されない。自然な切断があれば、右項上でfが誘導する写像は恒等写像なので、τの像は固定されなければならない。よって両変数について自然な切断は存在しない。
4 演習
問題 4.1. 正整数a,bに対し、P(a)を次数1,0の複体Z×aZ、P(b)を同様の複体とし、ほかの項を零とする。g=gcd(a,b)とおく。Künneth の定理を用いてP(a)⊗ZP(b)の全次数のホモロジーを求め、次数1のホモロジーの生成元をサイクルとして表せ。
解答.
P(a)のホモロジーは次数0のZ/aZだけであり、P(b)も同様である。定理 3.1により
H0(P(a)⊗P(b))≅(Z/aZ)⊗(Z/bZ),H1(P(a)⊗P(b))≅Tor1Z(Z/aZ,Z/bZ)であり、それ以外の次数のホモロジーは零である。自由分解0→Z×aZ→Z/aZ→0を用いると、右辺はそれぞれZ/bZ上のa倍写像の余核と核である。余核はZ/(aZ+bZ)=Z/gZである。a=ga′、b=gb′とおくと、b∣axはb′∣xと同値であるため、核はb′+bZで生成される位数gの巡回群である。よってH0,H1はともにZ/gZと同型である。
P(a)の次数1,0の基底をu1,u0、P(b)の基底をv1,v0とする。次数1の元ru1⊗v0+su0⊗v1がサイクルである条件はar+bs=0である。a′,b′は互いに素なので、すべてのサイクルは
w=b′u1⊗v0−a′u0⊗v1の整数倍である。さらにd(u1⊗v1)=−gwであるため、[w]が次数1のホモロジーを生成する。▨