§E6.31可換 Artin 環とその加群

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可換 Artin 環では、イデアルの降鎖が停止する。この停止条件は、素イデアルを極大イデアルにし、極大イデアルの個数を有限にする。一般の左 Artin 環について既に得た Jacobson 根基の冪零性と組み合わせると、環は有限個の局所因子へ分解する。

本記事を通じてRRは単位元をもつ可換 Artin 環とする。Artin 環と降鎖条件には§E6.20 定義 2.1および§E6.20 命題 2.2を用いる。左 Artin 環の有限長性、Noether 性および Jacobson 根基の冪零性には先行記事の§E6.24 定理 2.1と§E6.24 系 3.1を用い、本記事では再証明しない。RRが零環でない場合を先に論じ、零環は各主定理で別に確認する。

注意 1 (零環に関する規約). 零環はイデアルを一つだけもつため Artin 環であるが、素イデアルと極大イデアルをもたない。空な極大イデアル族の共通部分を環全体と定めると、零環では

J(R)=R=0J(R)=R=0

となる。冪零元も零だけである。本記事では有限個の環の直積に空直積を含め、単位的可換環の空直積を零環とする。

1 Artin 整域は体である

整域では非零元を消去することができるため、主イデアルの降鎖が停止すると非零元の逆元が得られる。

命題 1.1. 非零可換 Artin 環AAが整域ならば、AAは体である。

証明.0≠a∈A0\neq a\in Aを取る。主イデアルの降鎖

(a)⊇(a2)⊇(a3)⊇⋯(a)\supseteq(a^2)\supseteq(a^3)\supseteq\cdots

は停止するため、あるn≥1n\geq1に対して

(an)=(an+1)(a^n)=(a^{n+1})

となる。したがって、あるb∈Ab\in Aが存在して

an=ban+1a^n=ba^{n+1}

となる。AAは整域でan≠0a^n\neq0であるため、§E6.4 命題 1.2によってana^nを消去すると

1=ba1=ba

を得る。可換性からbbはaaの逆元である。任意の非零元が単元であるため、AAは体である。▨

2 素イデアルは極大イデアルである

素イデアルによる商は整域であり、商環にもイデアルの降鎖条件が遺伝する。

定理 2.1.RRが零環でないとする。このときRRのすべての素イデアルは極大イデアルである。

証明.p\mathfrak pをRRの素イデアルとする。§E6.4 命題 3.2によりR/pR/\mathfrak pは非零整域である。R/pR/\mathfrak pのイデアルの降鎖を取ると、商写像による逆像はp\mathfrak pを含むRRのイデアルの降鎖になる。RRは Artin 環であるため逆像の降鎖は停止し、もとの降鎖も停止する。したがってR/pR/\mathfrak pは Artin 環である。

命題 1.1によりR/pR/\mathfrak pは体である。再び§E6.4 命題 3.2を用いると、p\mathfrak pは極大イデアルである。▨

3 極大イデアルの有限性

有限個の極大イデアルの共通部分全体から極小のものを取ると、新たな極大イデアルとの共通部分によってそれ以上小さくすることができない。

定理 3.1.RRが零環でないとする。このときRRの極大イデアルは有限個である。

証明. 非零単位的環には§E6.7 命題 3.2により極大左イデアルが存在し、RRは可換であるため、得られた極大左イデアルは極大イデアルである。極大イデアルの有限個の空でない族について、その共通部分全体を

S:={m1∩⋯∩ms | s≥1, mi は極大イデアル}\mathcal S:=\left\{ \mathfrak m_1\cap\cdots\cap\mathfrak m_s \ \middle|\ s\geq1, \ \mathfrak m_i\text{ は極大イデアル} \right\}

とする。S\mathcal Sは空でない。§E6.20 命題 2.2により、S\mathcal Sは包含関係に関する極小元をもつ。その一つを

I=m1∩⋯∩msI=\mathfrak m_1\cap\cdots\cap\mathfrak m_s

とする。

任意の極大イデアルm\mathfrak mを取る。I∩mI\cap\mathfrak mもS\mathcal Sに属し、I∩m⊆II\cap\mathfrak m\subseteq Iである。IIの極小性から

I∩m=II\cap\mathfrak m=I

であり、I⊆mI\subseteq\mathfrak mとなる。特に

m1⋯ms⊆I⊆m\mathfrak m_1\cdots\mathfrak m_s \subseteq I \subseteq\mathfrak m

である。

§E6.4 命題 3.3によりm\mathfrak mは素イデアルである。もしすべてのiiについてmi⊈m\mathfrak m_i\nsubseteq\mathfrak mならば、各iiについてai∈mi∖ma_i\in\mathfrak m_i\setminus\mathfrak mを選ぶことができる。積a1⋯asa_1\cdots a_sはm1⋯ms⊆m\mathfrak m_1\cdots\mathfrak m_s\subseteq\mathfrak mに属するが、m\mathfrak mの素性から少なくとも一つのaia_iがm\mathfrak mに属する。ai∈ma_i\in\mathfrak mという結論は、ai∈mi∖ma_i\in\mathfrak m_i\setminus\mathfrak mという選び方に反する。したがって、あるiiに対してmi⊆m\mathfrak m_i\subseteq\mathfrak mである。両者は極大イデアルであるためmi=m\mathfrak m_i=\mathfrak mとなる。よって極大イデアルはm1,…,ms\mathfrak m_1,\ldots,\mathfrak m_sに限られる。▨

4 Jacobson 根基の冪零性

一般の左 Artin 環については、socle 列が環全体に達することと Jacobson 根基の冪による零化部分加群との一致から、根基の冪零性を直接導いた。さらに、有限長性と Noether 性を証明した後には、中山の補題による独立な第二の証明も与えた。可換環は両方の証明の特別な場合である。

系 4.1. 任意の可換 Artin 環RRに対して、ある整数N≥1N\geq1が存在して

J(R)N=0J(R)^N=0

となる。

証明.RRは左 Artin 環でもあるため、§E6.24 系 3.1を適用すればよい。▨

5 極大イデアルの冪

異なる極大イデアルは互いに素である。その冪についても、二項展開の各項に十分高い一方の冪が現れるため、互いに素性が保たれる。

補題 5.1.RRを零環でない可換 Artin 環とし、相異なる極大イデアルを

m1,…,ms\mathfrak m_1,\ldots,\mathfrak m_s

とする。任意のN≥1N\geq1とi≠ji\neq jに対して

miN+mjN=R\mathfrak m_i^N+\mathfrak m_j^N=R

となる。

証明. 相異なる極大イデアルについて

mi+mj=R\mathfrak m_i+\mathfrak m_j=R

である。実際、この和が真のイデアルならば、極大性からmi+mj=mi\mathfrak m_i+\mathfrak m_j=\mathfrak m_iとなってmj⊆mi\mathfrak m_j\subseteq\mathfrak m_iを得るため、両者が等しくなってしまう。したがって、あるu∈miu\in\mathfrak m_iとv∈mjv\in\mathfrak m_jが存在して

u+v=1u+v=1

となる。

二項展開

1=(u+v)2N−1=∑q=02N−1(2N−1q)uqv2N−1−q1=(u+v)^{2N-1} =\sum_{q=0}^{2N-1}\binom{2N-1}{q}u^qv^{2N-1-q}

を考える。q≥Nq\geq Nなら対応する項はmiN\mathfrak m_i^Nに属する。q<Nq<Nなら2N−1−q≥N2N-1-q\geq Nであるため、対応する項はmjN\mathfrak m_j^Nに属する。よって展開の全体がmiN+mjN\mathfrak m_i^N+\mathfrak m_j^Nに属し、

1∈miN+mjN1\in\mathfrak m_i^N+\mathfrak m_j^N

となる。したがって和はRRである。▨

有限個の二つずつ互いに素なイデアルでは、共通部分と積が一致する。

補題 5.2. 可換環AAのイデアルI1,…,IsI_1,\ldots,I_sが二つずつ互いに素であるとする。このとき

I1∩⋯∩Is=I1⋯IsI_1\cap\cdots\cap I_s=I_1\cdots I_s

となる。s=0s=0の場合には、共通部分と積をともにAAとする。

証明.s=0,1s=0,1では規約と定義から成り立つ。二つの互いに素なイデアルI,JI,Jを考える。u∈Iu\in I、v∈Jv\in J、u+v=1u+v=1を選ぶ。x∈I∩Jx\in I\cap Jなら

x=xu+xvx=xu+xv

であり、xu,xv∈IJxu,xv\in IJとなる。よってI∩J⊆IJI\cap J\subseteq IJであり、逆包含はイデアル積の定義から従う。したがってI∩J=IJI\cap J=IJである。

s−1s-1個まで主張が成り立つと仮定し、P:=I1⋯Is−1P:=I_1\cdots I_{s-1}と置く。各i<si<sについて

ui+vi=1,ui∈Ii,vi∈Isu_i+v_i=1, \qquad u_i\in I_i, \qquad v_i\in I_s

と選ぶ。u:=u1⋯us−1u:=u_1\cdots u_{s-1}と置くとu∈Pu\in Pである。また、各ui=1−viu_i=1-v_iはIsI_sを法として11と合同であるため

1−u∈Is1-u\in I_s

となる。したがってP+Is=AP+I_s=Aである。二イデアルの場合と帰納法の仮定を用いると

I1∩⋯∩Is=(I1∩⋯∩Is−1)∩Is=P∩Is=PIs=I1⋯Is\begin{aligned} I_1\cap\cdots\cap I_s &=(I_1\cap\cdots\cap I_{s-1})\cap I_s\\ &=P\cap I_s =PI_s =I_1\cdots I_s \end{aligned}

となる。▨

6 中国剰余定理による局所因子分解

証明では、まず有限個の極大イデアルを列挙し、それらの冪が二つずつ互いに素であることから、有限共通部分を積に置き換える。この積をJ(R)N=0J(R)^N=0と同一視して中国剰余写像の核を零にする。各商が非零の Artin 環であることを商写像から示した後、商の極大イデアルをRRへ逆像し、miN\mathfrak m_i^Nを含む素イデアルがmi\mathfrak m_iを含むことによって極大イデアルの一意性を示す。零環は空直積として別に扱う。

定理 6.1.RRが零環でないとし、相異なる極大イデアルをm1,…,ms\mathfrak m_1,\ldots,\mathfrak m_sとする。J(R)N=0J(R)^N=0となるN≥1N\geq1を取る。このとき

⋂i=1smiN=∏i=1smiN=J(R)N=0\bigcap_{i=1}^s\mathfrak m_i^N =\prod_{i=1}^s\mathfrak m_i^N =J(R)^N =0

であり、中国剰余写像は単位的環同型

R→ ∼ ∏i=1sR/miNR\xrightarrow{\ \sim\ } \prod_{i=1}^sR/\mathfrak m_i^N

を与える。各因子Ri:=R/miNR_i:=R/\mathfrak m_i^Nは零でない可換 Artin 局所環であり、その唯一の極大イデアルは

ni:=mi/miN\mathfrak n_i:=\mathfrak m_i/\mathfrak m_i^N

である。

RRが零環の場合にはs=0s=0とし、表示した直積を空直積とする。

証明.RRが零環でない場合を考える。定理 3.1により、極大イデアルの族は表示した有限族で尽くされる。§E6.7 定理 5.1と可換性により

J(R)=⋂i=1smiJ(R)=\bigcap_{i=1}^s\mathfrak m_i

である。異なる極大イデアルは互いに素であるため、補題 5.2から

J(R)=∏i=1smiJ(R)=\prod_{i=1}^s\mathfrak m_i

を得る。

補題 5.1により、miN\mathfrak m_i^Nも二つずつ互いに素である。再び共通部分と積の補題を用い、可換性によって因子を並べ替えると

⋂i=1smiN=∏i=1smiN=(∏i=1smi)N=J(R)N=0\bigcap_{i=1}^s\mathfrak m_i^N =\prod_{i=1}^s\mathfrak m_i^N =\left(\prod_{i=1}^s\mathfrak m_i\right)^N =J(R)^N =0

となる。§E6.8 定理 3.1により中国剰余写像は全射であり、その核は共通部分である。核が零であるため、表示した環同型を得る。

Ri=R/miNR_i=R/\mathfrak m_i^Nは零でない。実際、miN⊆mi≠R\mathfrak m_i^N\subseteq\mathfrak m_i\neq Rである。RiR_iのイデアルの降鎖を商写像で逆像に取ると、RRのイデアルの降鎖になるため停止する。よってRiR_iは Artin 環である。

Ri/ni≅R/miR_i/\mathfrak n_i\cong R/\mathfrak m_iは体であるため、ni\mathfrak n_iはRiR_iの極大イデアルである。

RiR_iの極大イデアルq\mathfrak qを取り、商写像による逆像をq~\widetilde{\mathfrak q}とする。q~\widetilde{\mathfrak q}はRRの極大イデアルであり、

miN⊆q~\mathfrak m_i^N\subseteq\widetilde{\mathfrak q}

を満たす。極大イデアルは素イデアルである。任意のx∈mix\in\mathfrak m_iについてxN∈miN⊆q~x^N\in\mathfrak m_i^N\subseteq\widetilde{\mathfrak q}であるため、素性を反復してx∈q~x\in\widetilde{\mathfrak q}を得る。したがって

mi⊆q~\mathfrak m_i\subseteq\widetilde{\mathfrak q}

であり、mi\mathfrak m_iの極大性からq~=mi\widetilde{\mathfrak q}=\mathfrak m_iとなる。よってq=ni\mathfrak q=\mathfrak n_iであり、RiR_iは局所環である。

RRが零環の場合には、注意 1の規約により、極大イデアル族は空であり、空直積がRRに一致する。▨

7 直積分解に付随する冪等元

局所因子の各座標の単位元をRRへ戻すと、互いに直交する冪等元が得られる。

系 7.1.RRが零環でないとし、定理 6.1の同型を

Φ ⁣:R→∼∏i=1sRi\Phi\colon R\xrightarrow{\sim}\prod_{i=1}^sR_i

とする。第ii座標だけが11で他の座標が零である元の逆像をei∈Re_i\in Rとする。このとき

ei2=ei,eiej=0(i≠j),∑i=1sei=1e_i^2=e_i, \qquad e_ie_j=0\quad(i\neq j), \qquad \sum_{i=1}^se_i=1

である。また、eiRe_iRは単位元eie_iをもつ環であり、

eiR≅Ri,R≅∏i=1seiRe_iR\cong R_i, \qquad R\cong\prod_{i=1}^se_iR

となる。

証明. 直積環で第ii座標だけが11である元をεi\varepsilon_iとする。座標ごとの計算から

εi2=εi,εiεj=0(i≠j),∑i=1sεi=1\varepsilon_i^2=\varepsilon_i, \qquad \varepsilon_i\varepsilon_j=0\quad(i\neq j), \qquad \sum_{i=1}^s\varepsilon_i=1

である。Φ\Phiは単位的環同型であるため、ei:=Φ−1(εi)e_i:=\Phi^{-1}(\varepsilon_i)は同じ関係を満たす。

Φ\PhiはeiRe_iRを、第ii座標以外が零である直積環のイデアルへ写す。第ii座標への射影を制限すると、単位元eie_iを1Ri1_{R_i}へ送る環同型

eiR→∼Rie_iR\xrightarrow{\sim}R_i

を得る。これらをすべてのiiについて合わせると、もとの同型R≅∏iRiR\cong\prod_iR_iをR≅∏ieiRR\cong\prod_ie_iRと書き直すことができる。▨

8 直交冪等元による加群分解

直交冪等元は、環だけでなく任意の加群を同じ個数の成分へ分解する。

命題 8.1.RRが零環でないとし、e1,…,ese_1,\ldots,e_sを系 7.1の冪等元とする。任意のRR加群MMに対して

M=⨁i=1seiMM=\bigoplus_{i=1}^se_iM

となる。具体的には、写像

M⟶⨁i=1seiM,x⟼(e1x,…,esx)M\longrightarrow\bigoplus_{i=1}^se_iM, \qquad x\longmapsto(e_1x,\ldots,e_sx)

と

⨁i=1seiM⟶M,(x1,…,xs)⟼∑i=1sxi\bigoplus_{i=1}^se_iM\longrightarrow M, \qquad (x_1,\ldots,x_s)\longmapsto\sum_{i=1}^sx_i

は互いに逆なRR加群同型である。各eiMe_iMはeiR≅Rie_iR\cong R_i上の加群である。

証明.∑iei=1\sum_ie_i=1であるため、任意のx∈Mx\in Mは

x=1x=∑i=1seixx=1x=\sum_{i=1}^se_ix

と各eiMe_iMの元の和に書くことができる。xi∈eiMx_i\in e_iMが∑ixi=0\sum_ix_i=0を満たすとする。xi=eixix_i=e_ix_iであり、j≠ij\neq iならejei=0e_je_i=0である。等式へeje_jを作用させると

0=ej∑i=1sxi=ejxj=xj0=e_j\sum_{i=1}^sx_i=e_jx_j=x_j

となる。よって和は内部直和であり、表示した二写像が互いに逆であることも同じ計算から従う。

a∈eiRa\in e_iRとx∈eiMx\in e_iMに対してax∈eiMax\in e_iMであり、eie_iはeiMe_iMに恒等的に作用する。したがってeiMe_iMは単位元eie_iをもつ環eiRe_iR上の加群である。▨

零環上の単位的加群では1=01=0が恒等写像と零写像の双方として作用するため、加群は零加群に限られる。この場合の分解は空直和である。

9 一般の Artin 環の定理の適用

可換 Artin 環は左 Artin 環であるため、一般の定理から有限長性と Noether 性が直ちに従う。

系 9.1. 可換 Artin 環RRは左正則加群として有限長であり、Noether 環である。

証明.§E6.24 定理 2.1をRRへ適用すればよい。▨

10 有限生成加群の局所成分

一般の左 Artin 環上の定理によって有限生成加群の有限長性を得る。ここでは可換 Artin 環の局所直積分解に沿って、加群も有限個の局所成分へ分解することを確認する。

定理 10.1.RRを可換 Artin 環、MMを有限生成RR加群とする。このときMMは有限長加群であり、特に Noether 加群かつ Artin 加群である。

RRが零環でない場合には、局所因子に対応する冪等元によって

M=⨁i=1seiMM=\bigoplus_{i=1}^se_iM

となる。各eiMe_iMは Artin 局所環eiR≅Rie_iR\cong R_i上の有限生成加群であり、有限長である。

証明.§E6.24 系 4.1をA=RA=Rへ適用すると、MMは有限長である。§E6.20 定理 4.3からMMは Noether 加群かつ Artin 加群でもある。

RRが零環でない場合、分解M=⨁ieiMM=\bigoplus_ie_iMは命題 8.1で証明した。MMの生成元をx1,…,xtx_1,\ldots,x_tとする。y=eim∈eiMy=e_im\in e_iMに対してm=∑jrjxjm=\sum_jr_jx_jと書けば

y=ei∑j=1trjxj=∑j=1t(eirj)(eixj)y=e_i\sum_{j=1}^tr_jx_j =\sum_{j=1}^t(e_ir_j)(e_ix_j)

となる。よってeiMe_iMはeiRe_iR加群としてeix1,…,eixte_ix_1,\ldots,e_ix_tで生成される。

eiR≅Rie_iR\cong R_iは定理 6.1により可換 Artin 局所環である。§E6.24 系 4.1を環eiRe_iRとその有限生成加群eiMe_iMへ適用すると、eiMe_iMは有限長eiRe_iR加群になる。eiMe_iMにおけるRRの作用は全射R↠eiRR\twoheadrightarrow e_iRを経由するため、RR部分加群とeiRe_iR部分加群は一致する。したがって、この局所成分の有限長性はRR加群としての有限長性とも一致する。▨

11 体と切断多項式環

体は根基が零である基本的な局所例であり、切断多項式環では非零な冪零根基の全層を見ることができる。

例 11.1 (体と切断多項式環). 体kkはイデアル0,k0,kだけをもつため Artin 環である。唯一の極大イデアルは00であり、

J(k)=0,ℓk(k)=1J(k)=0, \qquad \ell_k(k)=1

となる。局所因子分解は因子を一つだけもつ恒等同型である。

n≥1n\geq1とし、

A:=k[x]/(xn)A:=k[x]/(x^n)

と置く。AAは1,x‾,…,x‾n−11,\overline x,\ldots,\overline x^{n-1}を基底とする有限次元kkベクトル空間である。イデアルの降鎖はkk部分空間の降鎖でもあるため、次元が真に減少する回数は有限であり、AAは Artin 環である。

f=a0+hf=a_0+h、a0∈ka_0\in k、h∈(x‾)h\in(\overline x)と書く。a0≠0a_0\neq0ならhn=0h^n=0であるため

f−1=a0−1∑j=0n−1(−a0−1h)jf^{-1} =a_0^{-1}\sum_{j=0}^{n-1}(-a_0^{-1}h)^j

となる。a0=0a_0=0ならf∈(x‾)f\in(\overline x)であり、ffは冪零なので単元ではない。したがって非単元全体は唯一の極大イデアル

n=(x‾)\mathfrak n=(\overline x)

をなし、AAは局所環である。また

J(A)=n,nn=0J(A)=\mathfrak n, \qquad \mathfrak n^n=0

である。各0≤q<n0\leq q<nについてnq/nq+1\mathfrak n^q/\mathfrak n^{q+1}はkk上一次元であるため

ℓA(A)=n\ell_A(A)=n

となる。

12 整数剰余環の局所分解

例 12.1 (Z/(12)\mathbb Z/(12)の局所分解).R:=Z/(12)R:=\mathbb Z/(12)は有限環であるため、イデアルの降鎖は有限回で停止する。極大イデアルは

m2=(2‾),m3=(3‾)\mathfrak m_2=(\overline2), \qquad \mathfrak m_3=(\overline3)

である。実際、それぞれによる商はF2\mathbb F_2とF3\mathbb F_3である。また、Z\mathbb Zの極大イデアル(p)(p)が(12)(12)を含むのは素数ppが22または33の場合に限られるため、イデアル対応によって他の極大イデアルは存在しない。

共通部分と根基は

J(R)=m2∩m3=(6‾),J(R)2=0J(R)=\mathfrak m_2\cap\mathfrak m_3=(\overline6), \qquad J(R)^2=0

となる。N=2N=2を用いると

m22=(4‾),m32=(9‾)=(3‾)\mathfrak m_2^2=(\overline4), \qquad \mathfrak m_3^2=(\overline9)=(\overline3)

である。中国剰余写像は

Z/(12)→∼R/(4‾)×R/(3‾)≅Z/(4)×Z/(3)\mathbb Z/(12) \xrightarrow{\sim} R/(\overline4)\times R/(\overline3) \cong \mathbb Z/(4)\times\mathbb Z/(3)

を与える。対応する直交冪等元として

e1=9‾,e2=4‾e_1=\overline9, \qquad e_2=\overline4

を選ぶことができる。実際、e1+e2=1‾e_1+e_2=\overline1、e1e2=0e_1e_2=0、ei2=eie_i^2=e_iである。

13 体の有限直積と零環

例 13.1 (体の有限直積). 体k1,…,ksk_1,\ldots,k_sの有限直積

R=∏i=1skiR=\prod_{i=1}^sk_i

を考える。各イデアルは、それぞれの座標で00またはkik_iを選んだ直積であるため、イデアルは有限個しか存在せず、RRは Artin 環である。極大イデアルは各座標射影の核であり、

J(R)=0J(R)=0

となる。座標単位元eie_iは系 7.1の直交冪等元であり、根基冪フィルトレーションは0⊂R0\subset Rだけである。したがって

ℓR(R)=s\ell_R(R)=s

となる。

s=0s=0の場合、体の族は空であり、その空直積は零環である。極大イデアル族、局所因子族および冪等元族はいずれも空であり、零環の正則加群の長さは00である。

14 有限生成仮定を外した場合

例 14.1 (Artin 環上で有限長でない加群). 体kkは Artin 環であるが、可算無限直和

M:=⨁j≥1kejM:=\bigoplus_{j\geq1}ke_j

は有限生成でない。部分空間

Mn:=span⁡k{e1,…,en}M_n:=\operatorname{span}_k\{e_1,\ldots,e_n\}

は停止しない真の昇鎖

M1⊊M2⊊M3⊊⋯M_1\subsetneq M_2\subsetneq M_3\subsetneq\cdots

を与える。また、

Nn:=⨁j≥nkejN_n:=\bigoplus_{j\geq n}ke_j

は停止しない真の降鎖

N1⊋N2⊋N3⊋⋯N_1\supsetneq N_2\supsetneq N_3\supsetneq\cdots

を与える。したがってMMは Noether 加群でも Artin 加群でもなく、有限長でもない。定理 10.1では有限生成という仮定を除くことができない。

15 演習

問題 15.1 (可換 Artin 環とその加群の確認). 次の各問に答えよ。

  1. 非零 Artin 整域が体であることを主イデアル(an)(a^n)の降鎖から証明せよ。その結果を商環へ適用し、可換 Artin 環の素イデアルが極大であることを示せ。零環では素イデアルと極大イデアルが存在しないことも確認せよ。
  2. 零でない可換 Artin 環の極大イデアルが有限個であることを、極大イデアルの有限共通部分からなる族の極小元を用いて証明せよ。極小な共通部分IIが任意の極大イデアルm\mathfrak mに含まれることと、m1⋯ms⊆m\mathfrak m_1\cdots\mathfrak m_s\subseteq\mathfrak mからm=mi\mathfrak m=\mathfrak m_iが従うことを省略するな。
  3. 一般の左 Artin 環に関する§E6.24 定理 2.1と§E6.24 系 3.1を可換 Artin 環へ適用することができる理由を説明し、有限長性、Noether 性およびJ(R)N=0J(R)^N=0を導け。
  4. 異なる極大イデアルmi,mj\mathfrak m_i,\mathfrak m_jとN≥1N\geq1に対してmiN+mjN=R\mathfrak m_i^N+\mathfrak m_j^N=Rとなることを二項展開から示せ。さらに ⋂imiN=∏imiN=J(R)N=0\bigcap_i\mathfrak m_i^N =\prod_i\mathfrak m_i^N =J(R)^N=0 を証明し、中国剰余定理から局所 Artin 環の有限直積分解を導け。各商の極大イデアルが一つだけであることも証明せよ。
  5. 局所因子に対応する直交冪等元e1,…,ese_1,\ldots,e_sに対して、任意のRR加群MMが⨁ieiM\bigoplus_ie_iMに同型であることを、互いに逆な写像を明示して証明せよ。MMが有限生成なら各eiMe_iMがeiRe_iR上有限生成であること、および各局所成分が有限長であることを示せ。
  6. 体kk、k[x]/(xn)k[x]/(x^n)、Z/(12)\mathbb Z/(12)および体の有限直積について、極大イデアル、Jacobson 根基または局所因子分解を計算せよ。零環を体の空直積として扱った場合の極大イデアル族と Jacobson 根基も答えよ。
  7. Artin 環上の加群から有限生成仮定を除くと有限長性が失敗する例を挙げよ。本記事と、一般の Artin 環の定理、半単純加群の一般論、および後続の可換環論との境界を説明せよ。
解答 (演習の解答).
  1. 0≠a0\neq aに対する降鎖(a)⊇(a2)⊇⋯(a)\supseteq(a^2)\supseteq\cdotsは停止するため、あるn≥1n\geq1で(an)=(an+1)(a^n)=(a^{n+1})となる。an=ban+1a^n=ba^{n+1}と書き、整域で非零元ana^nを消去すると1=ba1=baとなる。よってすべての非零元が単元であり、環は体である。素イデアルp\mathfrak pに対してR/pR/\mathfrak pは非零整域であり、そのイデアルの降鎖は逆像によってRRのイデアルの降鎖へ移る。したがって商は Artin 整域、ゆえに体であり、p\mathfrak pは極大である。零環の唯一のイデアルは環全体であり、素イデアルと極大イデアルは真のイデアルでなければならないため、どちらも存在しない。

  2. 非零単位的環には極大イデアルが存在する。極大イデアルの有限個の空でない族の共通部分全体から、降鎖条件によって極小元

    I=m1∩⋯∩msI=\mathfrak m_1\cap\cdots\cap\mathfrak m_s

    を取る。任意の極大イデアルm\mathfrak mに対してI∩mI\cap\mathfrak mも同じ族に属し、I∩m⊆II\cap\mathfrak m\subseteq Iである。極小性から等号となるためI⊆mI\subseteq\mathfrak mである。よって

    m1⋯ms⊆I⊆m\mathfrak m_1\cdots\mathfrak m_s\subseteq I\subseteq\mathfrak m

    となる。m\mathfrak mは素イデアルである。すべてのmi\mathfrak m_iがm\mathfrak mに含まれないなら、ai∈mi∖ma_i\in\mathfrak m_i\setminus\mathfrak mを選ぶと、積a1⋯asa_1\cdots a_sはm\mathfrak mに属するが各因子は属さず、素性に反する。したがって、あるiiでmi⊆m\mathfrak m_i\subseteq\mathfrak mであり、極大性から等号となる。

  3. 可換環のイデアルは左イデアルでもあるため、RRが可換 Artin 環なら左正則加群は Artin 加群であり、RRは左 Artin 環である。したがって§E6.24 定理 2.1から左正則加群の有限長性とRRの Noether 性が従い、§E6.24 系 3.1からあるN≥1N\geq1に対するJ(R)N=0J(R)^N=0が従う。この適用では可換性は一般定理の証明には用いず、左イデアルを通常のイデアルとして読み替えるためだけに用いる。

  4. 相異なる極大イデアルは互いに素であるため、u∈miu\in\mathfrak m_i、v∈mjv\in\mathfrak m_j、u+v=1u+v=1と選ぶ。(u+v)2N−1(u+v)^{2N-1}の各項では、uuの指数がNN以上であるか、vvの指数がNN以上である。よって1∈miN+mjN1\in\mathfrak m_i^N+\mathfrak m_j^Nである。二つずつ互いに素な有限個のイデアルでは共通部分と積が一致するため、

    J(R)=⋂imi=∏imiJ(R)=\bigcap_i\mathfrak m_i=\prod_i\mathfrak m_i

    であり、可換性を用いて

    ⋂imiN=∏imiN=(∏imi)N=J(R)N=0\bigcap_i\mathfrak m_i^N =\prod_i\mathfrak m_i^N =\left(\prod_i\mathfrak m_i\right)^N =J(R)^N=0

    となる。中国剰余写像は核が零の全射であるからR≅∏iR/miNR\cong\prod_iR/\mathfrak m_i^Nを与える。商R/miNR/\mathfrak m_i^Nの極大イデアルの逆像q\mathfrak qはmiN\mathfrak m_i^Nを含む極大イデアルである。x∈mix\in\mathfrak m_iならxN∈qx^N\in\mathfrak qであり、素性からx∈qx\in\mathfrak qとなる。よってmi⊆q\mathfrak m_i\subseteq\mathfrak qであり、極大性から等号である。したがって商の極大イデアルはmi/miN\mathfrak m_i/\mathfrak m_i^Nだけである。

  5. 写像

    x⟼(e1x,…,esx),(x1,…,xs)⟼∑ixix\longmapsto(e_1x,\ldots,e_sx), \qquad (x_1,\ldots,x_s)\longmapsto\sum_ix_i

    を考える。∑iei=1\sum_ie_i=1とeiej=0e_ie_j=0から二写像は互いに逆になる。MMがx1,…,xtx_1,\ldots,x_tで生成されるなら、eiMe_iMはeix1,…,eixte_ix_1,\ldots,e_ix_tによってeiRe_iR上生成される。各eiRe_iRは Artin 局所環であるから、一般の左 Artin 環上の有限生成加群の定理§E6.24 系 4.1により各eiMe_iMは有限長である。

  6. 体kkの唯一の極大イデアルは00であり、J(k)=0J(k)=0である。A=k[x]/(xn)A=k[x]/(x^n)の非単元全体は(x‾)(\overline x)であり、これが唯一の極大イデアルかつ Jacobson 根基である。Z/(12)\mathbb Z/(12)の極大イデアルは(2‾)(\overline2)と(3‾)(\overline3)であり、

    J=(6‾),Z/(12)≅Z/(4)×Z/(3)J=(\overline6), \qquad \mathbb Z/(12)\cong\mathbb Z/(4)\times\mathbb Z/(3)

    となる。体の有限直積では極大イデアルは座標射影の核で、Jacobson 根基は零である。零環は空直積であり、極大イデアル族は空、空共通部分としての Jacobson 根基は環全体R=0R=0である。

  7. 体kk上の可算無限次元ベクトル空間⨁j≥1kej\bigoplus_{j\geq1}ke_jは、有限次元部分空間の停止しない昇鎖と、末尾部分空間の停止しない降鎖をもつため有限長ではない。本記事は一般の Artin 環について既に証明された有限長性、Noether 性および根基の冪零性を再証明せず、可換性に固有な素イデアル、極大イデアルおよび局所直積分解を扱う。半単純加群の直和分解と短完全列の分裂は先行する半単純加群の一般論が扱い、より高度な局所可換環論は後続単元が扱う。

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16 仮定と後続範囲の境界

本記事の有限局所直積分解では、可換性、イデアルの降鎖条件および単位元をすべて用いた。非可換 Artin 環では片側イデアルと両側イデアルを区別する必要があり、本記事の素イデアル、極大イデアルおよび可換な中国剰余分解の証明をそのまま適用することはできない。無限生成加群についても有限長性を主張しない。

根基が零である可換 Artin 環が体の有限直積になることは本記事の局所分解から従うが、単純加群の直和分解、分裂完全列および半単純性の一般的な同値は先行する半単純加群の一般論が扱う。積閉集合による基本的な局所化と、素イデアルにおける局所化から得られる局所環は既習内容である。素スペクトル、Krull 次元、準素分解、完備化および正則局所環を含む高度な局所可換環論は後続単元が扱う。本記事はそれらを前提とせず、可換 Artin 環に固有の有限分解と有限長性に範囲を限定する。

参考文献

  1. M. F. Atiyah and I. G. Macdonald, Introduction to Commutative Algebra, CRC Press, 2018, originally published 1969.可換 Artin 環の極大イデアル、冪零根基および局所因子分解を参考にした。
  2. Hideyuki Matsumura, Commutative Ring Theory, translated by Miles Reid, Cambridge Studies in Advanced Mathematics 8, Cambridge University Press, 1986.Artin 環の局所分解と有限生成加群の局所成分への分解を参考にした。
  3. T. Y. Lam, A First Course in Noncommutative Rings, 2nd ed., Graduate Texts in Mathematics, Springer, New York, 2001.鎖条件、Jacobson 根基および一般の Artin 環上の加群に関する議論を参考にした。

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